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クリエイター名 |
音夜葵 |
サンプル
「今からきっかり一時間後。僕はキミの元にいくよ」
午後11時の鐘が鳴り響く郊外の荒地。 黒い装束に身を包んだ男が、天に向かってキスを投げた。 歩く度にずるりと地を擦るほどの長いローブを脱ぎ捨てれば、鋭い機能性を伺わせる藍色の姿に変わる。 短い皮の手袋に包まれた手が、フード代わりに頭に被っていた布を、はらり、風に飛ばす。 中から零れてきたのは、長く、真白な糸。 否、髪。 まるで死んだように虚ろな目は、天を仰いで細い月を見つけると、一転。 深い海の色を宿した、麗しい宝石へと変わる。 目の前に残像のように浮かぶ姿に手を差し伸べ、うっとりと瞳を細めると、血の気のない唇に、弧を描いた。
哀しい悲しいキミの死を、僕は決して忘れなかった。 だから、ここに立っている。復讐のために命を投げ打つことを誓って。 愛しい愛しいキミの元へ。冷たい冷たいキミの元へ。
「僕の決意は届くかな」
掌に握られた短刀は、銀の鏡となって、哀しげな微笑を映し出す。 「それとも、キミは許してくれないかな」 月を背に荒地を後にした男は、二度と同じ場所に立つことはなかった。
藍に染み込む紅が、その装束を再び黒へと染め上げてしまったから。 彼方のキミに捧げる屍をその手に掴み取ってしまったから。
午前0時の鐘が鳴る。重い音は、月を仰ぐ男の耳に、痛いほどに響いていた。 真白な髪が紅く変わる。ぴくりとも動かない指から零れた銀の鏡は、月を、月に照らし出された哀しげな微笑を、映し出していた。
あの瞬間からきっかり一時間後、彼は、愛しいその人の元へ、向かっていた。
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