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クリエイター名 |
流伊晶土 |
サンプル
☆プロファイラー幼稚園児!☆
「犯人はあなたね、トロくん!!」 さっちんが、小さな右手の小さな人差し指をトロに向けて、そう宣言した。 「ぼ、ぼくじゃないよぉ。違うよぉ、さっちん!」 トロは泣きそうになりながら、首をぶるんぶるん振る。 「いいえ、あなたよ。あたしの推理によるとね」 さっちんとトロの目の前には、砂の山がある。それは2人が一日かけて作った砂の城だったのだが、いまは無惨にも崩れ落ちている。 いたずらにしては、ひどすぎる。2人の苦労が水の泡、砂の泡。 いったい、誰がこんなことをしたのか。名探偵さっちんの出番だった。 「いいこと。まず犯人は……」さっちんは腕を組んで鋭い視線で考えている。「あたしたちが、ここに砂の城を作っていたことを知っている!」 トロは、通りの激しい公園前の歩道を眺める。「近所の人たちはみんな知ってるよー」 「おだまり!犯人の推定年齢は、4才10ヶ月から5才4ヶ月の間ってとこね」 「どうして? どうして、そうだとわかるの?」 「もお!いま、ぷろふぁいるしてるんだから、黙って聞いてて!大人の人は、こんなイタズラしないからでしょ!」 「そうかなぁ。そうかなぁ……」 「犯人は、日本人の男の子。この近くに住んでいる。そう、ちょうどあなたみたいな黄色い帽子をかぶっている子よ!」 「どうして? もう、どうして黄色い帽子なの?」 「黄色は危険な色なの!決まってるでしょ」 「三日月幼稚園に通っている子は、みんなかぶってるよぉ」 「だんだん、犯人がしぼられてきたわ。最後に決定的なのは、犯人があたしを好きだってことね。好きな子には、いたずらしたくなっちゃうのが男のサガってもんなのよ」 「さ、さっちん……」トロは赤くなる。 「これに当てはまるのは、まーも、トロ、ふんた、の3人」 「え〜!! 3人もいたの!」 「というわけで……」さっちんは再び、そのふっくらした指を、トロのおでこにビタッと押し当てる。「犯人は、あなたよ、トロくん」 「だから、違うんだよぉ」 「あ!何かな、あれ?」 さっちんが示す先は、崩れた砂の城の中心部だった。何か、赤い物が見えている。 「トロくん、ちょっと取ってみて!」 命令されるままに、トロは砂山から赤い何かを取り出した。それは、赤く小さなスコップだった。砂の城を作るとき、どうしてスコップを持ってこなかったの!と、さっちんがトロに対して怒った赤いスコップだった。 「トロくん……誕生日、おめでとう!」 さっちんは、ちょっと潤んだ瞳で、優しくトロに微笑みかけた。 「さっちん……」 トロは唖然として、つったっている。 「ごめんね。犯人は、あたしよ。普通にプレゼントを渡すだけでは面白くないから、砂の城の中に埋めようと思ったんだけど−−。失敗しちゃった」 さっちんは、はずかしそうに身をよじらせる。 「ああ……」 「お礼なんて、いいからね、トロくん。ほんの、気持ち」 「で、でも……」 「いいから、とっておいて!」 「で、でも、ぼく、今日は誕生日じゃないんだよぉ」 「まあ!あなたってひとは!こういうときは、素直にもらっておくものよ。誕生日じゃなくても、誕生日にするものよ。まったく、あきれちゃうわ」 「ああ〜!いま思い出した!このスコップは、前にさっちんに貸したやつじゃないかぁ。プレゼントっていっても、もともとぼくのだし……」 「無神経!おとめごころがわかってないのね、トロくんは!」 さっちんはプイと振り返って、すたすた歩き出す。 「待ってよぉ、さっちん……ありがとう」 「もう知らないわ!」 砂山を作っているとき、ずっとまえにトロから借りて無くしていたスコップを、さっちんが砂場で偶然に見つけたというのが真相。スコップを取り出そうとしたとき、砂の城を彼女が壊してしまい、もう一度埋めなおした、というのが真相。 しかし、真相は今回、闇の中、砂の中、さっちんの心の中……。
<終わり>
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