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クリエイター名  ともやいずみ
魔法学校 〜サボり〜

「だ〜か〜ら〜!」
 彼女は悲鳴のような声をあげる。髪は見事な赤色。ゆるいウェーブを帯びて背中に垂れていたその髪を振り乱し、彼女は一緒に歩いている少年を睨む。
「さっきの! ほら、アレだってば、アレ!」
「アレじゃわからない」
 しれっと言うのは、ひどく顔の整った黒髪の少年だった。歳は少女と同じくらいなので、13か4、というところだろう。
「だからアレだって! さっきの授業の!」
「もっとわからない。何が言いたいのかまとめてくれ」
 冷たく言い放つ彼……黒髪の少年の横をちょこちょこついてきていた金髪の少年が助け舟を出した。
「ローズは、きっとさっきの授業でやってた高速呪文の構成について訊いてるんだと思うよ?」
「高速呪文? そういや、そんなのやってたな」
 へっ、と鼻で笑いそうな態度になる黒髪少年に、ローズと呼ばれた少女は怒りに眉を吊り上げる。
「そうでしょうね! 天才のあんたには失礼な質問よね! スイマセンデシタ!」
「そんなこと言ってないけど、オレはあの授業、聞いてなかったから答えられないぜ」
「ええっ! 嘘! なんで!」
「なんでって、そんなの習わなくてもできるから」
 またも、平然と言う。
 ローズは怒りに拳を振り上げそうになった。たとえ殴るにしても、この少年はすぐに攻撃を避けてしまうだろう。
「確かにあれは難しいよね。普通の言語とか違うもん。発音が難しいから……」
「そうそう! そうなの!」
「なんであんな簡単な魔術ができないのかのほうが、オレには不思議だ」
「か、カスミもさ……そんな冷たいこと言わないで……」
 カスミと呼ばれた黒髪の少年は「そうか?」といたってマジメな顔で言う。
「普通の長い呪文のほうが面倒だと思うけどな、オレは。いくら制御させるための言葉とはいえ……」
「かーっ!」
 拳を振り上げたローズをひょいと避け、カスミに当たるはずだった拳は金髪の少年の顔に直撃してしまう。
「いづっ!」
「あ! コラ! なんで避けるのよ!」
「避けるに決まってるだろ」
 少女は慌てて金髪の少年に駆け寄る。
「ご、ごめんミリガン。当たると思ってなくて……ていうか、あいつが避けなかったら当たらなかったはずなんだけど……」
「い、いいよ……。うん、大丈夫」
 顔をあげたミリガンを見て、ローズは青ざめた。
「み、み、ミリ……っ! 鼻血! 鼻血出てる!」
「え……?」
「さすがだな。ミリガン、我慢せずに文句言えばいいんだぜ?」
「ご、ごめんなさいーっ!」
 大声で謝る少女を前に、「そんなことしてないでハンカチ渡してやれよ」とカスミは冷ややかに告げた。
 ハンカチを渡すローズがぶちぶちと文句を言う。
「ごめんなさい……ほんとに。あいつさえ避けなかったらミリガンはこんな目にあわなかったのに……。それもこれも、あいつのせいだわ……」
「おいおい。勝手にオレのせいにするなよ」
 頭上で低い鐘の音が響く。
 三人は天井をついつい見上げてから、顔を見合わせた。
「授業開始の鐘だ……。ローズもカスミも……早く授業に……」
「そうはいかないわよ!」
 ローズはミリガンに顔を近づけて言う。
「こうなったら次の授業はサボるしかないわ!」
「どっちでもいいけどな、オレは」
「だ、ダメだよ二人とも……。ただでさえローズは成績悪いのに……」
 と、そこまで言ってミリガンは慌てて口を手で塞ぐ。万年ビリのローズを前に言うことではなかった。
「いいんだよ。サボる口実に、こいつは例の彼氏のとこに行くんだろうからな」
「! ち、ちが……」
 慌てるローズだったが、すぐにムスっとしてしまう態度が、カスミの言葉を肯定している。
 なんだ、とミリガンは安心した。
「じゃあサボってもいいけど……。ちゃんとあとで勉強すること。カスミとボクで教えるよ?」
「うぐ……っ」
 顔を引きつらせるものの、彼女はうなずいた。
 ミリガンはまあいいかと思ってしまう。こうしてサボることが多くなったのも最近のことではないし。
 なにより。
(この2人と居るほうが楽しいし)
「ミリガン、なに笑ってるの? 鼻血止まってないけど……。あ、もしかして鼻血のせいでなんか気持ちよくなってきたの?」
「ミリガン、こいつに殴られてどっかイカれたか?」
 二人のセリフにぶはっ、とミリガンは吹き出して笑う。
 どうしてこう!
「笑わせること言うんだよ〜!」



 
 
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