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クリエイター名 |
梟マホコ |
ホリディ
「ホリディ」
アンナとニーナが衣装合わせをしているのを、瓶入りのコーラを飲みながら眺めていた。夕日が差し込む部屋の中は、フェイクファーとスパンコールとパステルカラーでキラキラしていた。黒薔薇の造花が胸についた黒いドレスはアンナにとても似合っていて、蝶を髪に飾ったニーナと並ぶと、まるで天使みたいに見えた。二人は、双子のドラァグ・クィーン。クラブでショウガールをしている。薔薇のつけ爪がアンナ、蝶のつけ睫毛がニーナ。 その夏、私はこの部屋に入り浸っていた。家では、パパとママが離婚するといって、十歳の私をどちらが引き取るかでもめていた。私の話をしているのに、二人は私のことなんか見ていないみたいだった。私は家にいたくなかった。 ココも着てごらん! アンナの声に、慌てて首を横にふった。二人がとても綺麗で素敵で、気後れしてしまっていた。私もこんなに綺麗なら、パパとママだって、私を見てくれるのかもしれない。 私はそっとバスルームへ行き、鏡の前に立ってみた。掴めないほどに短い赤毛。日に焼けて乾いた素肌。棒切れみたいな腕と脚。サイズが大きくて肩が合わない白いTシャツに、黒い膝丈のスパッツのみすぼらしい子どもが、鏡の中からこちらを睨んでいた。涙が出た。天使のようなアンナとニーナ。私はただの飼い猫だ。パパとママ、どちらかに捨てられるのを、黙って待っているだけの。 ニーナがやってきて、後ろから私の両肩を抱いた。どうしたの、ココ? 蝶のつけ睫毛が頬を撫でた。我慢ができなくなって、私はわんわん大声で泣いた。アンナが飛んできて、私を抱きしめた。泣いている理由を、二人は黙って聞いてくれた。 主役はあんたなのよ。蝶の羽音のように優しく、ニーナが言った。人生の主役はあんたなのよ、ココ。でも、主役の座は、勝ち取りに行かなくちゃ。パパとママを主役にして、あんたはエキストラの通行人を演じるつもり? 私は泣きながら二人を見つめた。二人がこんなに輝いて見えるのは、人生の主役を勝ち取った人だからだ。自ら望んで天使になった人だからだ。私も主役になりたい。二人みたいな天使になりたい。 パパとママと、きちんと話がしたい。そう言うと、二人は笑顔で頷いてくれた。私は部屋を飛び出し、家に向かって走り出した。主役を勝ち取るんだ。強い想いで、胸が熱かった。 背に羽根が生えた気分だった。私は軽やかに通りを走りぬけていった。
FIN
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