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| クリエイター名 |
tobiryu |
サンプル
＜アクションシーンの一例＞
室崎咲が魂刀を横薙ぎにして牽制する。
優れた跳躍力で津坂弥生は後方へ飛び退き、着地の際にカッターナイフを拾っていた。並大抵の人間ができる芸当ではない。
苦しそうに立ち上がる国原和馬を庇うように前へ出て、咲は魂刀を構える。
改めて少女の霊と向かい合ってみて分かる禍々しい気迫にプレッシャー。以前の事が多少なりともトラウマになっているのかもしれなかった。
（弱気になるな、アタシ！）
気合を入れ、魂刀を握り直す。相手を見据え、隙を作らない。
暑さを感じなくなるほど集中力が高まっていく。どこから攻撃が来ても対応できる自信があった。
「先輩、弥生の奴、どうしちまったんだよ」
「ばっちり憑かれてんの」
顔は向けずに、弥生に目を向けたまま和馬に応じる。どんな表情をしているか、前を見たままでも見当がついた。咲自身も、まさか、と思っていたのだから和馬の反応は極自然だ。
青塚隼人は何かを感じ取って、この事を推測してしたようだった。今日の今日まで隠していたのだから性悪だ。
「つーか、よく分かんねぇんだけど」
「信じる信じないは自由。だけど、ぼさっとしてると――」
弥生が姿勢を低くし、跳んだ。
数メートルの距離が一呼吸をする時間もなくゼロまで縮まり、魂刀とカッターナイフがＸ状に衝突する。
「――死ぬよ」
やっと状況を把握したらしい和馬は無言で恐る恐る遠ざかった。賢明な行動だ。咲としても都合が良い。庇いながらやり合うのはあまりにも不利だった。
気を抜けばいくらでも命は飛んで行く、そんな相手だ。
静止しているように見える現況、得物同士が噛み合っている一点に計り知れない力が込められていた。カッターナイフの刃は半分以上も出ているのに折れるどころかビクともしていない。
沈黙を破ったのは咲だ。瞬間的に力を入れ、押し離す。間髪入れず、体勢を崩した所へ下段から魂刀を振り抜いた。
ダーツの針が的に刺さるような短い音。
狙った手の甲を打つことはなく、逆手に持たれたカッターナイフの刃先が魂刀の先端を穿っていた。弥生の口が半月を形作る。
すぐ様に魂刀を退き、足を払うような斬撃。
その場から弥生は上空へ消えている。刃を下に向け、串刺す構え。
予測していた咲は払いの勢いを殺さずに体を高速回転させ、身を屈めながら上方を打つ。
壁を叩いたような感触が手を痺れさせた。弥生が脇を固めてガードし、魂刀を受け止めている。
跳んでいる流れを変えられず、蹴りが放たれる。
顎先数センチの所を突風が通り抜けていった。身を反らした咲はしゃがんだまま弥生の着地を絶好のタイミングで突く。
手応えがあった。浅い。
咲は諦めずに突進する。足は止めず、弥生の腹部に突き立てた魂刀を振り上げ、正面・左側頭部へと連撃。
カッターナイフの刃にその両方を防がれる。
弥生が余裕の笑みを浮かべた。咲も同様に笑んだ。
後退していた弥生の体が止まる。いや、止まらざるを得なかったのだ。
背後は壁。
咲は魂刀を退いて前蹴りを繰り出した。
これは堪らずといったように弥生の体が折れ曲がる。
隙ができた。上段に構えた魂刀を一気に振り下ろす。
命中。緑の淡い輝きが弥生の頭部と魂刀の接点から湧き出した。
ノイズ音がした。外からだ。途切れることなく鳴り響いている。雨だろう。激しい戦闘のあまり、降り出したのが分からなかった。
静止していた弥生の指が動いた。
光が体へ戻っていく。雨に一瞬だけ気を取られ、反応が遅れてしまった。
狂気的な笑い声。カッターナイフが銀の線を引いた。
素早く跳び退いた咲は痛みに顔を歪ませる。魂刀を持つ二の腕に赤い線状の模様ができ、同じ色の雫が万有引力の法則で垂れていった。
肩で息をし、弥生を睨みつける。魂刀が効かなかったのだから驚かずにはいられない。
小川茜の蓄積された怨念が、それほど強力なのだろう。強い念はパワーへと変換される、と隼人に聞いたことがあった。弥生の身体能力が極端に上がっているのもそのためだろう。動きは素人でも反応速度や運動能力は人間離れしている。
どうやら魂刀を一撃食らったぐらいで黙って浄化されるほど柔ではないらしい。
（そうこなくっちゃ）
踏み込み、いまだ笑い続ける弥生へ魂刀を振りかぶる。
構えられたカッターナイフを叩かず、咲は横へ跳んで走った。
意気込み過ぎて負担の大きい動きばかりをしてしまっていたようだ。呼吸を少しでも平常に近付けたかった。そのための時間稼ぎだ。
階段を駆け上がり、後ろを振り返る。
余裕なのか、もったいぶるように追ってきているようだ。気配を下の階から感じる。
深呼吸をした。酸素を体内へと取り入れていく。緩んだ鉢巻き代わりのリボンを解き、額の汗を拭う。気合を入れ直すように、もう一度リボンを締める。
思い返せば、このリボンは母親から貰った物。たまたま持ってきていたから使っている。
嫌いで嫌いで仕方がないほど嫌いな母親。その厳しさに監視されてるかのような気になって集中力が上がる。
今回の依頼に決着がついたら、見舞いに行ってやろうかと思った。顔ぐらい出すのも良いかもしれない。きっと無言で厳しい特訓をさせられるだろう。たまには、それも良かった。
二つの青い光が左右に揺れながら上がってくる。
咲は上段に魂刀を身構え、相手を見据えた。
二人は同時に動いた。中間で力が均衡し合う。
弥生が振り払うように切り返してきた。
腕の傷により、力負けする咲。数歩、後ろへ下がる。
弥生はカッターナイフを腰もとに構えて突進してきた。
無駄な動き無く横へ避け、背後へ回る。魂刀の底で背中を打ち付けてやり、体勢を崩させた。
得物を持ち上げ、容赦無く下ろす。
悪い体勢ながら腕を伸ばして弥生が攻撃をまともに受け止めていた。
咲は続け様に斜め左からの斬撃。
これも止められる。
得物同士を接しながら、弥生が立った。手を引っ込めると同時と言っても良いぐらいの速度で突きを放たれる。
目で追えなくはない。後退しながらも、頭を狙う突きを右へ左へと首を曲げて躱していく。
そのスピードが徐々に上がっているのに咲は気づいた。首を曲げて避けるだけではなく、魂刀で捌くようにする。
スピードの回転は益々上がっていった。
このままでは駄目だと思い、いちかばちかで魂刀を振るう。それを期待していたのか、斜め前に出て躱した弥生が顔面を狙って突きを繰り出した。
振ったばかりの魂刀を戻す時間は無い。直撃は免れなかった。
赤い雫が一滴一滴、床上に垂れて弾ける。
弥生が少し驚いていた。
咲の顔は変わらずに綺麗なままだ。
眼前で刃を手にしている。手のひらの皮膚が容易く裂け、血液が流れ出た。顔面へ致命傷を受けるよりは遥かにマシだ。
カッターナイフを引かれ、傷が深くなった。
我慢し、お返しの一撃を食らわす。
側頭部を打った直後、迂闊にも魂刀が手から離れてしまった。数メートル先の教室の戸に当たって落下する。
ダメージを受けつつ立ち直った弥生が、チャンスとばかりに突っ込んでくる。
咲は冷静だった。
軽く握った拳を体の前で構え、長い足をムチのように繰り出す。爪先がカッターナイフへピンポイントで当たり、明後日の方向へ飛んでいった。
互いに得物を失ったことになる。
呆気にとられる弥生へ向けたジャブが寸前で躱される。
咲は体を休めず、二度のジャブの後に足の連撃へコンビネーションさせる。手足を出させない素早さで放たれる攻撃に弥生が呻いた。
長くは続かなかった。捨て身で弥生が跳びかかってきたのだ。
宙の標的を狙った上段蹴りも予測の範疇だったのかガードされ、咲は押し倒された。
突如、馬乗りをされて首を締められる。人並み外れた力が咲の呼吸を止めんとしていた。必死に手を解こうとするも、ビクともしない。
魂刀が無ければ、咲は運動能力の優れたただの女子高生だ。力自慢というわけではない。この状態は非常にまずかった。切られた腕に力を入れにくいため、尚更だ。
夢を思い出した。首を鷲掴みにされたシーンだ。今の状況とダブッて見えた。
夢の中では、ここで隼人にみっともなく助けを求めるのだ。
「そんなこと、するわけないでしょ！」
弥生の背中に膝蹴りを入れる。一度ではない。二度・三度と同じ部位を狙う。
首に押し当てられた手が緩んだのを見計らい、体を捻って弥生を突き飛ばした。
咳き込みながら、なんとか体勢を整える。正直、ここまで追い詰められるとは思っていなかった。
咲は呼ばれた気がして後ろを振り返る。
布に包まれた円筒形の何かが床を滑ってきた。いつか化学室で見たことがあった、未完成、で触れるのを禁じられていた物だ。
剥ぎ取った布を捨て、それを手にする。大きさの割りに軽かった。白塗りの土管を縮めたような形で口をポッカリ開け、外装には例によって札が何枚も貼られている。
「これって、まさか」
「そう、その通り。バズーカ砲型の武器を作ってみたのだ」
呑気にタバコを吸う隼人が和馬を後ろに従えて姿を現した。遅い登場なのはこれを取りに行っていたためだろうか。
「名付けて、サキサキスペシャルバズーカ砲青塚隼人仕様！」
「はいはい、さいですか。――どうやって使うんだろ、これ」
一人で盛り上がる隼人を無視し、咲は新たな得物の分析にかかる。
すぐに引き金らしきボタンを円筒の端に見つけた。早速、片膝を床に着けて肩に担ぎ、弥生へ照準を合わせる。
はっきり言って、切羽詰っていた。バズーカ砲を構える手が震えている。
弥生は危機を感じたのかカッターナイフを拾い上げ、様子を見ながら近付いてきていた。
もしこれが効かなければ終わりだ。
「見て分かる通り、魂刀同様に先祖代々から伝わるありがたーいお札を施し、それに付け加えて俺が日夜頑張って強い念を込めて加工してる。弾は特別な呪符により大気中に漂う微力な霊力を集めることで精製されるのだ。しかしサキサキスペシャルバズーカ砲青塚隼人仕様が魂刀とは明らかに違う点が一つある。それは――」
「発射」
自暴自棄に突っ込んでくる弥生を狙い、ボタンを押す。
青白い発光色が砲頭から漏れ、暗闇は白一色に染まった。視界が失われる。
間もなく光は一気に集束し、弥生目掛けて一直線に飛び出した。衝撃や音は皆無。
光が体を貫き、弥生が膝を折った。
バズーカ砲が触れていた部分を中心に脆くも崩れた。砂のように砕け、床に落ちいく。
咲は沈黙して隼人を振り返った。
「壊れちゃったみたい」
「未完成だからな。一度でも弾が出ただけマシだ」
白い煙を天井に吐き、さも当然のように応じてくる。
未完成、ということは、完成していなかった、ということだ。つまり、使えるかどうかも分からない。暴発や爆発といった危険性もあるだろう。
「んなもん、渡すなっ！」
「仕方ないだろ。他に方法無いんだから」
怪我も忘れて襟首を掴み、隼人の首を前後に揺らして抗議する。
咲の声は届いていないように隼人は、ハハハ、と爽やかに笑っていた。それがまた憎らしい。
一発殴ってやろうかと思っていると、和馬が指差し、
「先輩、弥生が！」
浄化したと思っていた弥生が階段を上がっていくところだった。
再び隼人の首をガクガク揺らし、
「どういうことよ！？」
「未完成だからな。ただダメージは――」
隼人にボディーブローを一発お見舞いし、咲は弥生を追った。和馬も後ろについてくる。
階段を上がりかけたところで、腹を押さえた隼人が苦しそうに魂刀を投げ渡してきた。そして座りんでしまった。パンチが見事に決まっていたらしく、回復するのに時間がかかるようだった。
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