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クリエイター名  あきしまいさむ
ACES ON THE GROUND

 
 携行火器からのレーザー照準警報がピーピーうるせえ。
 地面を突き刺しながら走る自機の大型キャタ音が腹に響く。
 北日本駐留軍の哨戒型軽戦車がざらついたモニター上でぐんぐん大きくなってゆく。
 突進中――。
 右腕エッジのレディーを確認、機関砲塔に前方火力集中を指示。
 ヘッドアップディスプレイ上、目標との距離1000、900。
 ゆっくりとこちらへ向きを変え火器を構えだすのが見える。
(ち、反応いいじゃん)
 射程外だのロックだの知ったことか。
 全機関砲搭最速射撃オン、当たったところで豆鉄砲。
 無軌道な銀光の粒が無数に飛ぶ。
 敵の旋回が止まる。逆進を示す粉塵が舞い上がった。
(ハッタリにかかった、もらう)
 気圧された奴の逆進より俺が速い。
 距離、500を切る。加速度的に計器の数値が減っていく。
(300……150、100)
 右腕エッジ、熱量増大、正常値確認。
(打撃軌道、適正――いけ)
 カメラにドアップになった敵車両が一瞬で画面外にすっとぶ。
 ハンドルを離脱行動に入れながら命中を確認。
 減速しつつ旋回準備。
 手ごたえはあったが既に奴は遥か後方だ。
(しとめたか? リアタックか?)
「シザーよりジャベリン、確認しろ」
「こちらジャベリン、半壊は確認。熱量反応依然あり、継戦能力の有無は確認不可能。機動は止まっている」
「じゃあ次だ、残り一機の位置しらせ」
「4時から5時方向へ旋回しつつ移動中。シザー、回りこまれるぞ」
「チキショウ、そっちを早く言えバカ! なんでもいいから砲撃!」
「敵随伴兵の撹乱で手一杯だ、自分でなんとかしろ」
 とにかくあわてて速力を上げる。
 背面をとられちゃまずい――衝撃音。
 いや、衝撃。HUDの表示が真っ赤になる。
 ブッシュに駆け込む敵歩兵が目の端にちらりと映った。
 携行対戦車砲を喰らったのだ。畜生。
 ダメージコントロールをオン、幸い速力は落ちていない。
「シザーよりジャベリン、何が手一杯だ、歩兵に弾もらったぞ!」
「後先考えずに加速したお前のミスだ」
「テキトーでいいから散弾ばら撒け!」
「了解。敵車両に集中してろ、6時から追ってきているぞ」
 アクセル、アクセル、アクセル!
 よし、スピードは上がる。
 バックカメラも死んじゃいない。
 低解像度のその映像からアンテナと擲弾砲を備えた敵の姿が見えた。
 ばっちり俺の背中を狙って追ってきやがる。
 しかしともかくロックオン機能のない武器だ。少し余裕ができる。まぶたの上の汗を拭いた。
 もらえばその瞬間スクラップだが。
(どうする、どう振り切る)
 ジグザグで駆けながら周りに目を凝らす。
(なにかないか、なにか……あれか)
 前方に南北戦争の頃に廃棄されたバンカーが小高い丘の上に立っている。
 あの後ろに回り込めれば。
 もっとも擲弾砲は山なりの軌道で着弾してくるのでほとんど盾にならないが――
 既にジグザグ回避走行する俺の左右でドハデな爆発が土塊の花火をあげている、考える暇はない。
 反射的にバンカー左で急旋回し、当座の死角に入った。
 しかしこのままじゃジリ貧だ。
(しゃあねえ)
「ジャベリンよりシザー。何を止まってる、そいつの高度は盾にならない」
「こちらシザー。んなこたぁわかってんだよ。んでもってだな、これより通信を途絶する」
「何言ってる、敵戦車停車、バンカーへの集中砲撃態勢に入ったぞ、退避し」
 プツン。
 ジャベリンの通信どおり、俺が影に入ったバンカーごと蜂の巣にするつもりらしい。
 擲弾が空を裂く音が聞こえ――絶え間ない爆音。
 くそ、ヘッドセットのサイレンサーがイカれた、耳がやられそうだ。
 機体が土砂で埋もれんじゃねえか。
(とっとと弾切れたのむぜ、ていうかお願いしますってば)

 弾を撃ちつくし、戦果を確認しようと北兵はバンカーの裏へ機を進める。
 土砂の中から伸び迫ってくるセラミックエッジの尖端。
 それが彼の見た最後の光景となった。

「付近の生体反応、レーダーレンジ外へ移動開始。敵随伴兵は退いたな」
「指揮官っぽいほうのコックピット、真っ直ぐつぶしてやったからな」
「しかし無茶をする……。だが、長居は無用だ。ジャベリンよりシザー。機体の機嫌はどうだ」
「うるっせえな、しつこくタックネームで呼ぶんじゃねえよ」
「そう言うな。おまえの駆動系にガタがきては俺は接近されていい的だからな」
「へえへえ、砲撃装のおまえさんは気楽なことで。機体? ガタガタだよ」
「出力か?」
「いや、エンジンは問題ねえ、走れる。電圧油圧制御系統もピンピンしてら。ただ自律管制機関砲塔がさっきので二つもイカれた」
「ふむ」
「残りの一基は生きてるが残弾がヤベぇ。掃射3秒でカラの鉄砲だな。随伴歩兵のいらっしゃる敵さんに出会ったらカバーしきれねえ」
「ヒートセラミックは?」
「片方だけ生きてる。左舷アームの方だ。こっちはぶっ刺すのに問題はねえが、右舷アームの方は全角制御関節になんか挟まってんな。大方さっきの擲弾の破片だろうよ、畜生が」
「……相変わらずいちいち品がない」
「後ろから悠々と撃ってるおめーほど気楽じゃないんでね、被弾は多いわ携行バズーカは怖ぇわ、ストレスたまんだよ。ほっとけ」
「恩を着せるわけじゃないが、俺のターゲット選定が間違ってたら被弾で済んでないぞ」
「あん?」
「お前は死角を作りすぎる、機動中も攻撃可能オプション維持に常に気を払え」
「おい、一機で歩兵つき戦車二台に突撃だったんだぞ。そこまで気ィまわるかよ」
「まあその話は後でな。こちらは無傷だが垂直落下ミサイルと各砲弾の残りが心もとない。潮時だな」
「あいよ。GPSとレーダー、シンクロよろしく。俺ぁおまえの通過コース自動誘導にして寝るわ。おまえの機体、足のろいし。よろしくぅ」
「最短経路算出、広域チャフポッド全射出、熱源接近自動散布に設定……オーケー、全ポッド設置確認」
「お疲れさーん」
「まだ寝るな。方位180に旋回。とにかくまずは真っ直ぐ南下して『国境』を超える」
「残念でした、もう終わってまーす」
「こういう時は近接用車の旋回性がうらやましい」
「まあ、『国境』越えたら起こしてくれ、補給地考えるのはそれからでいいだろ」
「了解」


 
 
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