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クリエイター名 |
紺藤 碧 |
キブシの花が咲く季節に
キブシの花が咲く季節に
ぶーっと頬を膨らませ、サーモンピンクの髪の少女が部屋の扉を閉めて廊下へと出る。 (……?) このソーンにて与えられた住人たちが暮らす部屋がある建物から図書室へと向かう渡り廊下の前で、ボ〜っと立ち尽くしている青年。 「どうかしたの?」 少女−ハル・アルテミスは首を傾げつつ、青年へと近づくと声をかけた。 「どうも、しないんだけど……」 声をかけられた青年−コールは考え込むように眉を寄せて、やっぱり図書室へと続く渡り廊下を見つめたままハルの質問に答える。 「どうもしないはずなんだけどね」 先ほどとの様な困惑した声音でなく、明るい口調でそう答え、コールはハルに振り返った。 始めてみる顔に、ハルはきょとんと軽く首を傾けて尋ねる。 「あなたもこの別荘の住人さん?」 深い緑と黄色のターバンを2枚無造作に頭に巻いて、その端端から飛び出している髪は、銀色。多少とがっているとは思っていたが、そんな自分よりも長い耳。 「うん。最近来たんだ」 ハルの質問に答えつつも、コールはきょろきょろと辺りを見回し、まるで何かを探すように瞳を泳がせる。 そんなコールの行動に尚更ハルは目を瞬かせ、何かあるのかと自分もきょろきょろと辺りを見回してみる。 どこまで見てもやっぱりエルファリア別荘だ。 「えぇっと……」 本を持つ手に少しだけ力を込めて、なんだかその長い両耳が感情を表すかのようにうなだれている。 「もしかして、どこが自分の部屋か分からなくなっちゃった?」 何気なく尋ねたハルの言葉に、コールは一瞬びくっと肩を震わせるとシュンと小さく肩をすくめる。 「一緒に探してあげようか?」 この言葉に、いいの?とでも言うような眼差しでコールはじっとハルを見つめる。 いいよ。と、微笑んで頷いたハルに、 「あ…ありがとぉ!」 ぱぁっと花が綻ぶように微笑んで、ぶんぶんとハルの手を掴んで上下に振る。 「うん。大丈夫だよ」 見た目だけで見れば、多分マスター達ときっとそう年齢はかわらないのだろうが、その口調のせいだろう、なぜか小さな男の子と話しているような感覚に陥る。 「えと、僕…こぉる……コールだよ」 「あたし、ハル。よろしくね、コール…さん」 ハルはコールの手を握ると、エルファリア別荘の奥へと走り出す。 思いのほかこのエルファリア別荘はその見た目とは裏腹に、結構複雑な作りになっており、その住人の数も多い。 幾つかの部屋の前を通り過ぎたが、コールの名前が書かれた部屋は見当たらない。だがしかし、まだまだ探し始めてから少ししか経っていないのだ。諦めるにはまだ早い。 「あぁ!コールさん!」 下の階へと向かおうと階段に足をかけると、メイドのペティの声が別荘に響く。 「あ、ペティちゃん」 「こんにちは、ペティさん」 駆け寄ってきたペティは、ほっとしたように胸をなでおろし、 「こんにちは、ハルさん。コールさんと知り合いだったの?」 「ううん、さっき会ったばっかり。迷ってるらしくて」 ペティはこのハルの言葉にがっくり肩を落とすと、きりっと眉を吊り上げてコールに顔を向ける。 「だから何度も言ったでしょ?図書室の近くの部屋にしようって!」 「…ごめんなさい」 シューンと肩を落として誤るコールに、苦笑いのハル。 どうやら別荘での迷子は今日に始まった事ではないらしい。 「さぁコールさん。図書室の近くの部屋へ引っ越しましょうね」 「……ハイ…」 あまりの剣幕ににべもなく頷いて、コールはハルに振り返る。 「ありがとうハルちゃん」 「気にしなくていいよ」 コールは嬉しそうに、えへっと笑うと、 「じゃぁ今度ハルちゃんのお部屋遊びに行くね」 ハルは、え?と瞳を瞬かせると、先ほどのペティの怒りっぷりを思い出す。この別荘の中でさえ迷うコールが部屋どうしの行き来をスムーズに行えるとは思えない。 「ダメ?」 「ダメじゃないけど、あたしが遊びに行ってもいい?」 「うん!」 そして廊下の先から、ペティのコールを呼ぶ声が響く。 コールはその声に呼ばれるように駆け出し、少し進んだところで振り返ると、ハルに大きく手を振る。 「またね」 ハルもその背中に手を振ると、マスターがいる自分の部屋へと足を向けた。
to be…?
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