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クリエイター名 |
歪美 檻火奈 |
心の中からやってくる殺人鬼
サンプル【心の中からやってくる殺人鬼】
心の中の感情は単細胞生物に酷似している。心(もしくは精神)という広大な敷地の中で、あらゆる種のそれが多く生息しており、その時その時に抱く印象によって増殖したり減少したりするのだ。 その中で、「闇」というのは増殖し出すと圧倒的な強さをもって他の感情を喰らい尽くそうと動きだす。通常なら他の感情は「理性」という抵抗活動を開始するのだが、その人、本人の精神的ダメージが余りにも大きい場合、「理性」は打ち破られ、心は完全に闇に染め抜かれてしまう。
――そうなればどうなるかって?
それは人それぞれ。千差万別だ。そのまま、その闇が晴れるまで人を憎しみ続ける者、何かに八つ当たりしたりする者。酷くなると犯罪に走る。最悪な結果、この世からチェックアウト、はたまたそれを誰かに強制――。まあ早い話、自殺したり人を殺してしまったりするわけ――。 もう、こうなったらお終い。前者なら人生が。後者なら、まともな人生が。
俺は、後者の人間だった。
しかも最悪中の最悪の――。
大抵の奴は人を殺しても一人目で理性が復活し、「俺、何やってんだ」と目が醒める。その後の展開は自殺して終わるか警察に自首するか。 とにかく、良くも悪く闇が晴れるのだ。
――だが俺は……。
今、足元に何度目か目にする死体が転がっている。 理性と闇。決まって相容れない存在のはずの二つが、俺に限って協定のようなものを結んじまったらしい。理性は闇の増殖――つまり人を殺す行為――を黙認し、闇は理性を攻撃しない。 精神世界に安寧は訪れ、俺は理性を持ちながらに人を殺す殺人鬼になった。 何人目かの喉を切り裂いたナイフを懐に仕舞い、俺は一体の死体が転がる路地裏を後にする。
――さて、次の獲物はどいつにしようか……。
人ごみの中を泳ぐように歩きながら、俺は新たな犠牲者を吟味し始めた。
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