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クリエイター名  歪美 檻火奈
世界はパイナップル

サンプル【世界はパイナップル】


「つまりだね! 認識がもっとも大事なのさ! 昔、徳川家康は居たし他諸々の歴史上の人物どもも居た。だけどそう認識してるだけで本当はそんな人間居なかったのかもしれない!」
 訳の解らない事を突然叫びだしやがった。俺は溜息を吐く。
「言ってる意味がよう解らへんねんけど……要は哲学の懐疑論の事言ってるんか?」
「懐疑論? ナニソレ。僕が哲学の講義サボりまくってるの知ってるだろーに」
「そりゃ年間十回出席すりゃ単位取れるっつーからなー。サボるのはええけど、たまに出ろや。結構言ってる事はおもろいで?」
「君だってほとんど出てないだろう!?」
「叫ぶなや」
 空になった缶を思いっきり投げ付ける。カン、と音を立て、「ぶぎゃ」と猫みてぇな悲鳴が上がる。
「痛いじゃないかタァイガァァァ!」
「人を虎みたいに呼ぶなアホ。大河じゃ大河」
「じゃあ、君も僕をアホって呼ばずに亀崎と呼びたまえぇ」
「落ち着けやアホ」
「またアホって言ったァ―――ッ!」
 アホ、もとい亀崎雨盛(かめざき・あめもり)が涙を流さん勢いで俺、大河蝉彦(たいが・せみひこ)に迫ってくる。その顔はかなり鬼気迫るものがあった。
「あー、悪かった悪かった。で何の話やったっけ」
 適当に謝って、無理矢理軌道修正してやる。
 すると詰め寄っていた亀崎はがばっと立ち上がり、
「うむ! つまり僕が言いたいのはだねぇ――」
 そこで言葉を切り、ぐびりと缶ビールを口に含む。

「この世界が! パイナップルの芯で出来ていると言いたいのさ!」

 ………………………………………………。
「………………………………………………」
「な、なんだよ! この沈黙は!」
「………………………………………………」
「ま、まさか貴様! この僕が五十年掛けて出した結論を否定する気じゃなかろーね!?」
 ……ちなみに俺らはさっき成人式済ませたばかり現在二十歳。選挙権も酒も煙草も手に入れたばかり――かもしれない。
 成人式が終わった直後、さあて偉いさんの無駄話で疲れたし帰って寝るか。まあ式中も寝てたけど。と思ってブラブラ会場を去ろうとしていたとこで偶然出会った同じ大学に通う友人であるこのアホこと亀崎雨盛。一緒に飲もうと誘われて現在に至る。ここは俺の部屋。缶ビールを何本か空けた時、突然このアホがアホを言い出したわけである。
 いやぁ酒ってオッソロシイ。
「なんか言えコラ。僕が出した結論に文句があるんなら掛かってこいや!」
「ああ、アホ」
「またまたアホって言ったァ――ッ!」
「何度でも言ったるわ! アホアホアホアホアホアホアホアホアホ!」
「おのれぇ! 一度ならず二度どころか三度四度五度以下略!」
 激昂したようにガタンとさらに亀崎は立ち上がる。
「では何故にこの部屋はこんなにパイナップルの匂いが充満しているんだ!? そりゃやっぱ世界がパイナップルの芯で出来ているからに違いない!」
「んな匂いしてないわ! お前耳鼻科逝って来い!」
「君こそ鼻が詰まってるじゃないかねぇ!? 耳鼻科逝くのはタァイガァァァだ!」
 ぎゃあぎゃあ騒ぐ俺ら。
「大体、世界の構造なんて誰かが調べても僕らは間接情報でしか知らない! もしかしたら本当は、世界はパイナップルの芯で出来ているかも知れないじゃないか! そうじゃないと認識させられているだけで!」
「アホか! 例え何かが隠されててもパイナップルの芯で出来ているなんてアホな構造なわけないやろが!」
 ぎゃあぎゃあ暴れる俺ら。

 突然、プツンと音と共にテレビが点いた。
 俺らのどちらかがリモコンを踏んづけたらしい。

 やっている番組はニュース。
 どっかで見たようなニュースキャスターがでかでかと映っている。
『さ、先ほど、世界の真の姿について……その、えっと……せ、政府からとんでもない発表がなされました――』
 あんびりばぼぅな表情で且つ引き攣った表情でニュースキャスターは続ける。


『何と世界はパイナップルの芯で構成されていると……』



 了



 
 
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