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クリエイター名 |
神倉 彼方 |
箱庭の唄 〜不穏な影〜
「箱庭の唄」 第一話 〜不穏な影〜
「待ちやがれ!」 男達が口々に罵声を上げる。
ここはバーハルト王国の首都、ラゼリア。 その西端に位置する、スラム街である。
(うるさい奴らだなぁ) 走りながらも顔をしかめてしまう。 追われているはずなのだが、緊張感は全くない。 (所詮は雑魚という事か)
追われている男は身長こそやや高いものの、特に変わった点は見受けられない。 武器を持っている様子も無い。強いて挙げるとすれば、両目の色が違う位である。 対して追う側の男達──十四・五人といったところか──は皆、筋骨隆々で手には例外無く抜き身の剣を握っている。
「いい加減諦めな!」 「逃げたって意味ねえぜ!」 罵声は途切れる事無く続き、止む気配はない。 (襲われた理由を確かめたかったんだが・・・) 「なんか、ムカついてきたな」 呟きながら角を曲がる。 しかし、そこに道は無かった。行き止まりだ。 後ろを振り返ると、ちょうど男達が追いついてきた。 (思ったより足は速かったか) などと、どうでもいい事を考えている内に、男達は剣を構えにじり寄ってくる。 「追い詰めたぜ」 「手間ぁ掛けさ───」 「死んでも文句言うんじゃねぇぞ」 わざと声を被せ、相手の怒りを買う。 案の定、乗ってくれた様だ。 「ぬかせっ!」 「一人で何が出来る!」 「舐めんじゃねぇぞクソガキがっっ!」 再び男達の罵声がスラムに響く。 (単純な奴らだ) 呆れながらその様をながめる。 「もう勘弁ならねぇ!ぶった斬ってやる!!」 この声を合図に一斉に斬りかかってくる。 「ウラァァァァァァァ!!!」 一人目が剣を大きく上げ、それを力任せに真っ直ぐ振り降ろしてくる。 (受ければ即死だな) 思い、右に体をそらす。 ブンッ!!と大きな音を上げ剣が空を斬る。 勢いのまま通り過ぎようとする男に足をかけ、その足を降ろさず真上に高く上げる。 体勢を崩した男の後頭部に思い切り踵を落とした。 顔面をコンクリートの地面に叩きつけた男は、抵抗もなく気絶する。 息つく間も無く二人目が横に一閃、首を狙ってくる。 身をかがめそれをかわし、がら空きとなった懐に力の限り拳をめり込ませる。 腹を抱え悶える男を蹴り飛ばし、後ろにいる男達と衝突させ、隙を作る。 その間に気絶している男の剣を拾い上げ、一振りして牽制。 「錬点法・・・」 呟く。 男達が動きを止めた。 同時に、辺り一帯に幾つもの小さな白色の球体が出現する。 「な、纏師だと!」 「そんな話聞いてないぞ!!」 男達がどよめく。 (聞いてない?・・・やはり雇われの身か?) 「ウ、ウオォォォォォォォォォォ!!!!!!」 男の一人がこちらに向かって走り出す。 しかし、もう遅い。 「無限槍!!」 叫ぶのと同時に、球体が形を変えた。
……つづく
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