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クリエイター名  瀬河茅穂
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 陽は傾き、空は赤の残る闇。大地震の前は整然とした国道だったこの道に、無残に落ちた瓦礫は長い影を引いていた。
 彼らが目覚めるのは日暮れの後。まだ時間がある。僅かだけれど。

 かすかに衣擦れの音がしたように思った。近付くべきか離れるべきか、頭が一瞬躊躇して結局、身体はその方へ歩き出す。
 二つ三つの瓦礫を越えて一人の少女を見つけた。年の頃は十五。長い髪は緩く編まれ、目を閉じて座り込むその姿は、衣服さえ綺麗ならば人形の様だと賛辞を受けただろう。
 私の存在に気付いたのか、少女がゆっくりと目を開いた。
「今晩は、お嬢さん」
 時折風が高く鳴る他は静かな国道で、声は重く沈んで消える。それでも少女には届いたようで、緩慢な動きで首を傾けて返事に代えた。まだ幼さを残した顔は、青ざめて白い。
 空は紫に沈む闇。冷たくもない風に、身体が震えた。頭が何かを必死に考えているのに、その思考は停止したように遅く、進まない。
「……、」
 ほんの僅かに唇を動かした少女の、その言葉は声にさえならずに消えた。しかし、それでも十分だった。
 私を、止めるのには。
 後ろへ一歩を踏み出す。思考が遅い。このまま、少女から目を離して、そう、立ち去らなければ――。
 ――リコ、何処へ行くつもり。
 脳裏に言葉が過って、私の動きは再び止まった。言葉が頭をザラザラと這って思考は更に鈍化していく。その中で日が暮れたのだと理解した。
 少女が口を開き言葉を紡ぐ。その声は弱い。なのに私の耳は確実に言葉を捉えていった。
「……何を……躊躇うことが、あるの。……お姉さんは……まだ、」
 私は――。思考を遮るように、失わせるように、声が響く。
 ――何を躊躇うのさ。死ぬつもりじゃないだろ。
「生きていけるのに、」
 ――リコ。
 右手をゆっくりと上げる。口の中で小さく言葉を発した。現化、と。それに呼応し力が、光が集まるようにして――気付けばそこに大振りのナイフが存在する。これが彼ら――大地震の元凶の寄生武器――の一つである私の内に居る彼の具現形態。
 少女の内にも、彼らが居る。抵抗さえ出来ないほどに弱ってはいるけれど。
 それでも、喰えば彼の食欲が満たされる存在が。

 何のために――、
「生きてたの、この娘はっ――」
 応える声は無い。

 月が昇り、空は紺の漂う闇。
 何も判らないまま時は過ぎていく。何時か明かされる真実があるなら、早く辿り着きたい。
 時間は、きっと僅かしかないから。
 
 
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