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クリエイター名 |
神楽月アイラ |
騎士と聖女と死神
SAMPLE(ファンタジー/三人称)
「行くのか」 騎士の後ろ姿へと死神が言葉を投げた。 天空の街、彼女が向かう先はその中央には世界の枢と呼ばれる巨大な塔が佇んでいた。 「ああ。私があの娘を護らないで、誰が護る。私の任務は彼女をあの塔へ送り届ける事だ。全てを見届け、それを教団へ伝える事だ」 たとえあの塔の中で何が待っていようとも。待っているものこそが、この永きに渡る旅の終幕であり、この世を支える巫女とそれを護る騎士の執着地点だ。 だから戸惑いは無い。それこそが自分の貫く全て、騎士として国に世界に、そして巫女へと捧げた祈りと命と忠誠だった。 「止めるな。私は後悔しない。ここで私が弱い姿を見せてみろ。彼女に…申し訳が立たない。一番に恐怖しているのはあの娘(コ)なんだ」 女騎士の瞳が空中庭園へと移る。一人の聖女が胸元に手を添え、静かに祈りを捧げる姿がそこにはあり、それは騎士や死神にとっては普段の光景そのものだった。 だが彼女は今から巫女としての最後の役目を終える。それは即ち巫女が神の、世界の一部となると言う事であり彼女が神体となる、つまりは死ぬと言う事なのだった。 「伝えてくれ、もし私が世界の塔から戻らなかったら。お前達に会えてよかった、とな」 聖女の祈りが終ったようだ。彼女の飴色の瞳が静かに此方へ向けられる。それと同時に騎士は死神へと振り返り小さな笑みを浮かべて言っていた。 「イアラ!! 行きましょう、もう旅も終りよ」 「ああ、行こうかシフォリア」 聖女服の長い裾を蹴りながら栗色の髪の聖女がかけてくる。いつもと変わらぬ元気な笑みを浮かべ片手を振って。 その声に深紅のマントを揺らして聖女へと振り返る騎士は、腰に携えた愛剣の柄頭へ手を置いて頷く。聖女と騎士、旅立つ前のいつもの光景。 「ふふ、どうしたの。イアラ? なんか顔が強張ってる、アリィとまた言い合い? 駄目じゃない、喧嘩はしちゃだ“めっ”て、いつも言ってるでしょ」 微笑んだ聖女は白い指先で騎士の頬を一度だけ突くと、ふわりと鳥が舞う様にして世界の塔へと歩みを進めている。迷いの無いその足取りに、騎士もゆっくりとブーツの音を響かせ続くのだ。
死神は静かに見つめている。花の様に微笑んで歩みだした聖女と、薄紅の髪を風に揺らして聖女に続く騎士を。そのいつもと変わらぬ二人の歩みは終りを告げる世界の塔へと向かっている事をしりつつ、彼にはそれを止める事が出来なかった。 数時間後、あの二人は世界の塔の扉を押し開け笑顔で戻ってくるのではないだろうかと。 死神にはそんな幻想が見えていた…
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