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クリエイター名  叶 遥
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 加藤清春、26歳。生物教師5年生。要領と愛想だけで世の中を渡ってきて、今は大事な時期を迎える高校3年生の担任などを任されている、ごく普通の高校教師。
 清水彩花、18歳。高校3年生。やんちゃな弟たちに囲まれて育ってきたせいか世話焼きで姉御肌なのに、やっぱり年相応に幼いところもある、ごく普通の女子高生。

 ごく普通の二人はごく普通に出会って、ごく普通に恋愛をした。 
 二人が教師と生徒の関係である以上、それは決して「普通」ではないのかもしれないけれど、とにかく二人は、ごく普通に秘密の恋人同士の関係になった。
 それがいつ、どういったきっかけで付き合うようになったか、なんてわからない。覚えていない。
 清春は気がついたら彼女を好きになっていて、それはもう数え切れないくらい何度も愛を告白していたし。その何回目で彼女が受け入れてくれたかなんてわからない。
 何にしろきっかけなんてどうでもいいものだ。今が幸せなら。
「…センセー、今日のプリント」
「ん〜ごくろーさん」
 生物準備室まで彩花に配布物を持って来てもらうのも、既に日課と化している。
「もぉ、ちゃんと日直も学級委員もいるんだから、何でもかんでも私に頼むのやめてよね」
 あからさまなため息を吐いて呟く彩花の文句を、清春は「いいじゃん」の一言で片付けてしまう。
 真面目で忙しい両親の下、弟たちの世話を焼いている典型的「お姉ちゃん」な彼女は礼儀や分別なんかもしっかりとわきまえていて、二人きり以外の時は絶対に
「先生」としか呼ばないし敬語も崩さない。けれど、二人きりで会えるのなんて、休みの日のデート以外ではほとんどないわけで。
 少しでも恋人らしいことをしたい清春としては何かと理由をつけて彼女をここへ呼び出したいのだ。
「だってハニー、教室だと冷たいじゃん。先生さみしーなー」
「ハニーはやめてってば!それに冷たくなんかしてないもん。てゆうか気色悪い声出さないでよ、オトコのくせに」
「律儀だなぁ、一個一個突っ込んじゃってまぁ。スルーという技も覚えといた方がいいよ?疲れるだけだから」
「何の話?」
「加藤先生流会話講座・突っ込み編」
「センセーは生物担当でしょっ」
 こんな、くだらないやり取りまでも楽しいなんて。彩花が自分を見て、自分の言葉に反応を返してくれる…当たり前のことなのに。なのにそれさえも幸せで。
一分一秒でも、彼女の時間を手に入れられていることが嬉しくて。
 自分よりも一回り近く年下のこの少女に、本当にバカみたいにはまっているんだなぁ、と会う度に思い知らされる。
 前に、「私なんかのどこがいいの?」と聞かれて困ったことがあった。どこ、と答えられる何かがあればこっちも苦労しない。会っているだけで、見ているだけで
「好きだな〜」と思うのだから仕方ない。
 それを聞きたいのは、むしろこっちの方だ。彼女は元々感情表現が素直じゃなくて、普段からあまり態度に出ない。(殆ど顔には出ているから大体わかるのだけれど)
本当に自分のことを好きになってくれて、受け入れてくれているのか、それとも単に根負けして渋々付き合ってくれているのか。
 少なくとも、清春の彩花への想いよりは彼女の清春への想いの方が小さいことは確かだろう。しょっちゅう部活を優先させられるし。
『俺と部活とどっちが好きなのよ!?』
 なんて、さすがにカッコ悪すぎるから言わないけれど。でもやっぱり、たまには彼女の気持ちを確かめたくなる。
「あ、もう行かなきゃ。授業始まっちゃう」
「彩花!」
 教室を出て行こうとするその手を握って「名前」を呼んで。そうしたら、彼女は困ったように振り返った。
「…なに?」
 彩花は過剰なスキンシップより、こんなさりげないふれあいの方が恥ずかしいらしい。握った手に指を絡めて軽く甲にキスしたら一気に耳まで真っ赤になった。
「今日さぁ、放課後デートしようよ」
 ね?ともう一度絡めた指に力を込めて握りしめた。彩花は赤い顔でうつむいて「寒いからやだ」と言った。
「俺が暖めてあげるよ〜こうやって手ェ繋いで、ポッケに入れて。長いマフラーもあるから、二人で巻こうか」
「…昭和臭い…」
「ノスタルジックといって」
「外は寒いからやだってば。だから…」
 キュッと、彩花の方からも握り返してくる。うつむいてしまっている彼女の顔は見えないけれど、耳が真っ赤だ。
「…センセーの家なら、行ってもいいよ」
「え」
 清春の、間の抜けた声に重なるようにチャイムが鳴り響いた。その音に反応するかのように彩花は手を振り解いて教室を出て行く。
「じゃ、放課後ね!」
 明るい声を、残して。
 取り残された清春は、おもいがけない展開に全く反応できないでいた。
「……マジ?」
 思いのほか、関係は良好のようだ。
 
 
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