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クリエイター名 |
Avalon |
【機械人形と拳銃使い】
【機械人形と拳銃使い】
昼にも関わらず鬱蒼と薄暗い森の中を三つの影が疾走していた。 そのうち一つは獣だ。かなり大きく3m位はある。四つん這いで六本の脚を器用に動かし 木々の間、根の上を落ち葉を掻き分けながらを猛然と突撃して行く。 残りの二つは人のモノ。 一人は男だ。背が高く引き締まった体をしており、影でも解る程 はっきりとしたボサボサでツンツンの黒髪をしていた。 その右手にはこれまた黒くて大きな一丁のリボルバーが握られている。 金色の装飾が成されたそれの銃口を獣へ向けて男は走っていた。 そしてその少し前をもう一人が走っている。こちらは少女だ。背が小さく小柄で、 黒く長いウェーブがかった美しい髪が振動で揺れた。 身長と体型に相応しくない程大きな刀剣を両手で握り締め、 明らかに体躯に差がある男よりも早く走るその姿はかなり異様だ。 獣は二人から逃れようと何処までも逃げ続ける。 二人は獣を捕らえんとばかりに何処まで追い続けてゆく。 走りながら男が銃を目元に近づけた。左手で銃身を支え、 片目で標準をあわせると引き金を引き絞った。 ――パン と言う轟音、一瞬の閃紅(せんこう)、そして白煙を噴出させながら 放たれた弾丸が獣の脚の一つを撃ち抜く。撃ち抜かれた脚は千切れ落ち、 獣の叫びが森中に木霊する。 それでも獣は休む事無く進んで行く。だがその歩みは確実に遅い。その時、 ――ズン と言う鈍い音と共に獣の体が止まった。 五本となった脚は進まんともがき続けるがもう決して進む事は無い。 何故ならば、獣のその身の上に少女が脚を乗せていたからだ。 そこにどれほどの力と重さが加わっているだろう、 獣がジタバタと動こうとするも少女の体はビクリとも動かない。 少女は獣の目を見た。死を恐れ、生を求めるその瞳を。 それをどう思っているのか、最初から生等無いかの様な 光無き瞳では伺い知る事は何も出来ない。 すっと少女の両手が上がった。大降りの刃先が天を向く。 そしてその刃を一気に振り下ろした。 ――ザン と言う死を告げる音が響き、首を撥ねられた獣はやがて生きるのを止めた。
冒険者、と言うのを知ってます?当然知ってる?ではどんなのか言えますか? …手に入れたら子々孫々まで豪遊出来る宝を求めて、もしくは世界中に聞き渡る名声を求め 誰も行った事の無い前人未到の地を訪れ、有象無象の化け物達を伝説に名を残す剣を片手に ばったばったと斬り倒して行く人達だ…? それは半分正解で半分不正解ですね。冒険者と言うのは持って字の如く『危険を冒す者達』。 彼等は財産や名声よりももっとスリルそのを求めるどうしようもない様な人達。
「…私はそんな、肥しに出来る程ウジャウジャと居る…馬鹿者の一人…の相棒をしている… …機械人形(レプリカント)のアリシ、」 「………アリス、一体誰と話してるんだ?」 良い所で邪魔が入りましたね。彼はケイン、私の相棒の馬鹿者の拳銃使い。 「…別に…何でもないわ…。」 「…そうか、其れならいいが…独り言は怖いからやめろよ。」 余計なお世話だイ●ポ野郎。 「…何か言ったか?」 「…いいえ、別に…。」 「…それなら良いんだが…。」 そう言うと彼は口を閉ざしました。 私達は今馬車に揺られながら、森を出た麓の村まで向かっている所です。 後ろの荷台には汚らしい麻袋が紐に縛られて無造作に置かれています。 ぶっちゃけ中身は魔獣の首。村の畑を荒らしていたらしく、 偶然通り掛った私達にお呼びが掛かった次第で、 見事くびり殺し、証拠を携えて村まで進んでいる所なのです。 別に大して強くも無く怪我はして無いのですが魔獣の血は臭くて堪えられません。 早く宿に戻ってお風呂にでも入りたい気分です。 「ん…アリス、見えてきたぞ。」 ケインの声。馬車から顔を出すと薄汚、 失礼、質素な家屋と黄金に輝く麦の穂が見えて来ました。 「…えぇ、そうね…ようやく着いたわ…。」 本当にそうです。あぁ、これでようやくお風呂に入る事が出来ます そんな事を思っている間に、パカパカと馬車は村の中へ入って行きました。
「も、申し訳ありませんお客様。今ちょっと魔構炉の調子が悪くて風呂はご使用出来ないののでs、 ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」 「…アリス、気持ちは解るが落ち着け…。」 「……………………仕方が無い…わね…。」 ケインに後ろから羽交い絞めにされ、私はしずしず宿の店主の胸倉を離しました。 宿屋なのにお風呂が無いとはどういう事なでしょう。 全国お風呂協会に訴えてやろうかと割と真剣に思ったり思わなかったりしたのは秘密です。 でも無い物はどうしようもない。私は諦めて溜息をつきました。 「…でも一番良い部屋に…してくださいね…。」 「え、えぇ、えぇ、勿論です。料金もお安くしておきますから。」 そう言うと店主は部屋の鍵を起き、ザザっと物陰に引っ込みました。 「…えぇ、ありがとうございます…。」 何と良い人でしょう。この世で二番目に苦手な満面の笑みと言うものを送りながら 抜きかけていた剣を鞘へ戻すと私は指定された部屋へ向かいました。 「…アリス…恐ろしい娘だ。」 後ろからケインの声が聞こえた気がするけど盛大にスルーして。
部屋へ行って早々ケインは出て行きました。 魔獣を殺した事を依頼主である村長さんへ言いに証拠である首を持って。 これ一回で一ヶ月は食べてゆけるからなかなか良い商売です。 外へ出て行く彼を窓から追いながら私はそっとカーテンを閉じると 桶とタオルを近くに置きました。 そして魔獣の血で汚れた服と下着を脱ぎ、水に浸したタオルで体を拭きます。 本当はやっぱりお風呂がいいんだけど仕方がありません。 髪の毛や各関節球に至る隅々まで拭いて行きます。 機械人形は汗をかかないのですが其れでも汚れと匂いは動いている内に付くもの、 特に血と油が混ざったあの匂いは酷いものです。 だからそれが消えるように丹念に拭いていたその時、 ――ドッパーン と言う奇妙な轟音が彼方から聞こえ、それと同時に、 ――ドタドタドタ と喧しい音を立てながら店主が扉を豪快に開けて入って来ました。 「お、お客人大変ですz、ぬぐはぁっ!!??」 とりあえず桶を投げておきます。 鼻と頭と後頭部から血が出てるけど気にしません。 私はイソイソと服を着込むと外へ飛び出しました。 まだ多少匂いが残ってるのが気になる所ではありますけど。 外に出た私の眼に飛び込んできたのは、黒山の人だかりを作る村人の群れと その視線の先にある森から猛然と突撃してくる六本脚の魔獣でした。 さっき私達が殺したのと同じ見た目なのですがその獣は明らかに縮尺が違っています。 有に五倍はあります。 「多分、俺達が殺した奴の親だろうな。」 後ろから声がしたので振り向くとケインが居ました。 ずっしりと詰まって重そうな麻袋を抱えているのを見ると とりあえず首尾は上々の様だったみたいです。 「おお、旅の冒険者さんっ。」 声がして気付かれたのか、村人達が私達を取り囲んで来ました。 「巨大な魔獣がやってきましたっ。どうかお助けくださいっ。」 私達に依頼した村長さんが代表して口を開きました。 其れに続いて、 「お願いします冒険者さん、奴等を倒してくださいっ。」 「あんなの倒せるのはあなた達だけです、どうかっ。」 「大体あんた達が倒したから魔獣が怒ってきたんだろ、責任取れや。」 鬱陶しい。 報酬は頂いたしお風呂も無いこんな場所がどうなろうと関係ありません。 最後の台詞を言った奴を事故に見せかけて鞘で打ち据えながら私は断ろうとしました。 「…すみません…村長さん…私達は先を急ぐので…。」 そう断ろうとしたのです、私は。 でもケインは村長の目を見ながらはっきりこう言いやがりおったのです。 「お受けしましょう。」 ちょっと待てやコラ。 「…ケイン、あなた何を考えて…。」 「ん、ほら魔獣を嗾けさせたのは俺達だしな。放っておくのも悪いかと思って。」 呆れました。 心底呆れました。 これだから冒険者と言う人種は莫迦なのです。 「おお、何と頼もしいお言葉。さぁ、どうぞ気張って行って下さいませっ。」 「ふ、任せろ村ty、のあ!!??」 このままだと一方的に話が進みそうなのでケインは退かし、私が村長の前に立ちました。 「…解りました村長さん…ですが依頼する以上矢張りこれが無いと…。」 きゅっと指で円…つまりコインの形を象りました。 そう、人助けは偽善事業では無い、立派なビジネスなのです。 「アリスっ、こんな時まで…Shit、もう目の前だっ。」 ドタバタと走り去って行くケインを見もせずに私は紙に数字を書いて村長に見せました。 「…これ位で如何でしょう…?」 「…其れは流石にちょっと…。」 冷や汗一つ垂らしながら村長は数字の上に線を引き新たに数字を書き直しました。 「この位でどうでしょうか?」 「…安いです…。」 ――カキカキ 「こ、この位では…?」 「…安過ぎです…。」 ――カキカキカキ 「こ、これでも駄目ですかぁ?」 「…舐めてるでしょ…。」 ――カキカキカキカキ 「お願いします、これで勘弁してくださいっ。」 「…まぁ良しとしますか…。」 もう上がりそうに無く、土下座までされては飲むしかありません。 剣を抱えると私はケインが向かっていった先へ駆けて行きました。
村から出た時、魔獣はもう目の前、ライ麦畑で盛大に暴れていました。 そしてケインは、 「ぐはっっっ!!」 盛大に吹き飛ばされていました。やれやれです。 「…大丈夫…?…ケイン…。」 まぁそれでも大事な相棒、そっと近付き体を支えます。 「Shit、一体何やってた…。」 息を乱しながら答えるケイン。 ヤバいかと思って行ったのに其れほど大した怪我は負って無いようです。 心配して損しました。 「…金銭交渉…其れより問題はアレね…。」 「がめついな全く…あぁ問題はアレだ…。」 私とケインは同時にアレを見た。 「ギシャァァァァァァァァァッァァァ!!!」 明らかにブチ切れてるアレは四本の後ろ足で器用に立ち上がると咆哮を上げました。 多分威嚇しているのでしょう。ケダモノの癖に生意気な。 「…ぶちのめしましょうか…。」 ――シュル と、私は剣を抜きました。 その巨大な刀身を、肩で柄の部分を持って支えます。 「…あぁ、全く…お前が来ると頼もしいなアリス。」 ぺっと口から血を吐くと、ケインは懐から黒いサングラスを取り付けました。 そして黒い銃のシリンダーを開けると薬莢部に黄色いマーキングが成された弾を装填し、 それを腰のホルスターへ戻しながら、右手で支えて構えました。 その眼がチラっと私の方を向きます。黄色いマーキングの弾、 何をやろうとしているかは一目瞭然です。 今や魔獣は怒り狂っています。歯を剥き出しにして 喉から搾り出す様な唸り声上げてこちらを睨んでます。 何かを切欠にすぐ襲ってきそうです。 ケインはそんな魔獣の方へニィっと笑うと、 徐に左手を掲げ、中指をおっ立てました。 「シャアアアァァァァァッァァァァァ!!!」 意味は多分解ってないだろうけど雰囲気は理解出来たのでしょう、 魔獣が六本の脚で大地を踏みしめながらケインへ向かって突撃してきました。 私は剣を盾にし目を瞑ります。 「単純な奴め、これでも食らいなっ!!」 ケインはホルスターから銃を抜き出すと 眼前へ迫る魔獣の眼前へ銃口を向けて引き金を引きました。 カっと言う閃光が迸り、魔獣の目を狂わします。 悶え狂う魔獣、そこに生まれた隙を私は逃しません。剣を横へ深々と引き込むと、 「…せめて同じ殺し方で…死なせて上げるわ…。」 一気に刃を横へ振りました。 引き絞られた弓が放たれるかの如く、 魔獣の首へ向けて放たれた一閃は深々とその喉笛を貫き、 首をへし折って、肉を裂いて首から抜け出ました。 首はそのまま宙へ向かって高々と上がり、 断面から真っ赤な血をまるで雨の如く降らせながら倒れ伏しました。 「…やれやれ…。」 ケインがドサっと腰を着きます。 サングラスを取り、安堵の溜息を下ろしました。 「…終わったわね…。」 私も剣を地面へ深くさすと背中をもたれさせました。 血で服が汚れるのも、 ――ピシッ と言う音が聞こえた気がするのも今は気にしません。 流石にニ連続はきつく、疲れ果てて何も考えられませんでした。 とりあえず今はゆっくりお風呂に入りたいな。 赤い雨をその身に受けながら私はゆっくりと意識を失くして行きました。
後日、村長から渡された金額は私が提示したモノよりも遥かに下回っていました。 「最初に渡したのだけでもう一杯一杯で…本当にこれで勘弁してくださいっ。」 こいつの首も叩き落してやろうかと思ったがケインが止めるのでやめてあげました。 まぁしかしその代わりに速攻で魔構炉を治してお風呂を沸かせたのは偉かったです。 それに免じて特別に許してやろうと思います。 ありがたく思えよ豚野郎。
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