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クリエイター名 |
日生 寒河 |
骨董品屋
「───…やァ、いらっしゃい」
少女がその店の扉を開けると、すかさず声がかけられた。 彼女はその声の主を探して店内を見回す。 古い壺や、掛け軸、家具が所狭しと並べられている店内は見通しが悪く、売る気は有るのだろうか、埃が大分溜まっていた。
店内とあまりに似つかわしくない、こざっぱりとした学生服に身を包んだ少女は、声の主を見つけることができずに困惑した声を出した。 「あのう……?」 彼女の声に答えて、うう、だかああ、だかどっちつかずな声が聞こえ、迷路の様な店の奥から、男が一人姿を見せる。 暗緑色の和服をきっちりと着込んだ青年は、物が乱雑に置かれた通路を特に注意を払うことも無く歩いてくる。 「…あ…っ」 男の腕が棚に軽く触れ、少女が声を上げた時には棚の上に無理矢理乗せられていた大瓶が一つ、大きな音を立てて汚い床にぶつかった。焼き物のそれは、あっけなく割れてしまう。 「あ、割れた」 どこかのんびりと男が言い、そして何事も無かった様に微笑んだ。 鋭いまなざしが、少し柔らかい物になる。
「こんにちは、お嬢さん。俺は店主の鷹崎です。何かご入り用ですか」 男が名前を名乗ると、少女は慌てた様に頭を一つ下げた。 「は、はじめましてっ。私は藤本文音と言います。あの…」 そこで少し言いよどんだ文音を、目を細めたまま鷹崎が見やる。 「ああ、あなたが文音君だね。君の叔父上から話は聞いているよ。ここを自分の家だと思って、くつろいでくれたまえ」 文音が、首を傾げる。 信頼できる相手として、実の叔父から紹介されたのがこの骨董品店だった。 しかし、目の前の青年と叔父では、友人と言うには歳が離れすぎている気がしたのだ。 「あの、紹介をして頂いた身で言うのも何ですが、叔父様と鷹崎様はどのようなご関係なのでしょうか…」 思い切って文音が尋ねると、鷹崎は困った様な笑みを浮かべた。 「そうだね…、俺は、多分あの人にとって弟子になるんじゃないかな」 何か思い出したのだろう、くつくつと笑う。
「しかし、君は本当に叔父上に似ていないね。良かった、あの人に生き写しだったらどうしようかと思っていたんだ」 よく言われることだったので文音は頷いた。叔父は破天荒な人だから、実は似ていなくてほっとしていたりもする。 しゃがみ込んで、割れた破片を集め出した鷹崎を手伝う為にやはりしゃがんで、そして文音はもう一度首を傾げた。 「あの」 「うん、なんだい」 鷹崎が破片に手を伸ばす文音を制して促した。 「…弟子って、なんの弟子だったんですか」 彼は虚をつかれた様に少し目を丸くする。そして一拍おいて、軽く口の端を上げて、そして告げた。
「火事以外の江戸の華について、少々ね」
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