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クリエイター名 |
徒野 |
Afternoon tea.
『 Afternoon tea. 』
「誰かの為に死ぬってのも良いなぁ。」 一回遣ってみたくない、と。 ソファに腰掛けた、黒髪の麗人が唐突に口を開いた。 「一回しか出来んでしょーが。」 其の奥、キチネットで紅茶を淹れていた銀髪の青年が呆れを交えた声音で返した。 青年は慣れた手付きで琥珀色の液体をカップに注ぐと、トレイに乗せて麗人の元へと運んだ。 「有難う。」 麗人は微笑み、カップを受け取ると、既に目の前に置いてあったケーキへと肉叉を動かした。 因みに、ケーキも青年のお手製である。 「どうも。」 青年は、自分自身で行儀が悪いと思いつつも、反対側からソファの背凭れに腰掛けた。 ソーサーを片手に、紅茶を啜る。 僅かな沈黙を破ったのは、麗人の良く通る声だった。 「……そうだねぇ、君の為なら死んでも良いよ。」 そう云って、青年の方へと視線を上げる。 唇に附いたクリームを舐め取る、赫い舌の動きが自棄に扇情的だった。 青年は、面白がる様な困った様な表情で目を細めた。 「何故、」 カップをソーサーに乗せる。 「君は、彼の人を思い出させるから。」 麗人は静かに云った。 あのひと、と青年の口が動いた。 麗人の両腕がしなやかに伸びて、青年の顔を捕まえる。 「まぁ、奴は。こんな深い蒼月長石(ブルームーンストーン)ぢゃなく、透き通る様な紫水晶(アメジスト)だったけども。」 そう云うと、躯を伸ばして、青年の瞼に口附けた。 青年の長い睫が、頬に影を落とす。 麗人は――手は其の侭だが――ゆっくりと離れると、愉しげに口の端を上げた。 青年も、弱く微笑み返す。 すると、亦麗人は青年に顔を寄せ。 ――血の様に赫い唇が二つ、重なった。 暫くすると、麗人が青年の唇を舐めて、離れる。 くくっと、喉の奥で笑う声が漏れて。 「勿論、君自身も好きだからさ。」 ぱ、と手を離し、麗人の意識はケーキと紅茶に戻った。 青年はと云うと、自身の唇に指を這わせ乍“今日のケーキはクリームを甘くし過ぎたな……。”等と考えていた。
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