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クリエイター名  徒野
吹雪の日

 続々と増えてくる気配にアヤメは愉しそうに口笛を吹いた。
「俺等医療班やんなぁ。」
「其の筈なんだけど……。」
 ノイルは水で鞭を創り乍答えた。
「医療班二人に此の人数はちぃーと、気前良過ぎん、」
 視界に入るだけでも七人、否、吹雪の向こうにも人影は有る。
 然も全員臨戦態勢の様だ。闘気と……殺気が入り交じって場の雰囲気を張り詰めさせる。
「陣営分け隔て無く仕事しとった筈なんやけどなー……。」
「そうは云っても籍は水に有るんだ。聞いちゃ呉れない奴等だって居るだろうよ。」
 溜息混じりに零すアヤメに、ノイルが此亦溜息混じりに返した。
「さてと……そろそろ無駄話出来なくなって来るぞ。」
 ぐるり、と周囲を囲まれて。
「――何時もの様に。」
 ノイルはそう囁いて、アヤメの肩に手を掛けると一気に跳んで包囲外に抜けた。
 どよめきの中、背後から剣士の腕を鞭で絡め取る。
 其の剣士が刹那痙攣し、倒れた。……一秒も掛からない。
 勿論相手方は、何が起こったのか理解出来ていない。
「あんま遣り過ぎんなや。……焼け焦げてまう。」
 ――そうなったら後面倒やからなぁ。
 と、アヤメは半ば雪に埋まっていたトランクに悠長に腰掛けて笑っている。
「加減が良く解らない。」
 そう答えるがアヤメに視線も呉れず、ノイルは次の剣士に鞭を走らす。
 反応の良い相手は咄嗟に剣を構えるが、其処は水。
 ぱしゃり、と剣を擦り抜けて――手首を返せば、亦形を成して相手の腕に巻き付く。
 締め上げる様に鞭をきつく引き。
「…………。」
 ノイルが眉を顰めた、次の瞬間。
 矢張り相手は一度痙攣して、為す術もなく倒れた。
「どないした、」
 ノイルの微妙な反応に気附いたアヤメが眼を細めて問うた。
「個人差が有るみたいだ。」
「そりゃぁ、耐性も有るやろし……装備関係も有るかもなぁ。」
 暢気に答えるアヤメを尻目に、ノイルは止まる事無く動き回る。
 三人、四人目を失神させた処で、敵陣の誰かが「電気だ……っ、」と叫んだ。
「……意外と気付くの早かったな。」
 叫んだ張本人を五人目の犠牲者にして。
 流れる動作で其の侭向かってきた火矢を叩き落とし乍ノイルが呟く。
 絡繰りが解った途端、相手の警戒はより有効で強固なモノとなった。
「対雷結界張るなよ……。」
 そう呟いてノイルが一瞬気を抜いた時、其の背後で爆発音がした。
「――……っ、」
「気ぃ抜くなや阿呆っ、」
 驚き飛び退くノイルに、攻性咒法を発動させたアヤメが怒鳴る。
 振り向けば、正に攻撃しようとしていたと思われる剣士が倒れていた。
「……っ、阿呆は御前だっ、」
 ノイルはアヤメに怒鳴り返す。
 敵陣がざわめく、「もう一人居たぞ……っ、」と。
「見ろ、結界が切れちまった……――っ。」
 ノイルは其処で言葉を切って、アヤメの背後に躍り出る。
「ノイルっ、」
 アヤメの叫びも其の筈、ノイルはアヤメに向けて振り下ろされた剣に自身の左手を捧げ。
 切り落とされてノイルの意思を離れた左手は一気に闇へと溶け消えた。
 然しノイルも勢いを殺す事無く、相手の鳩尾に肘鉄を入れ、卒倒させる。
「……結局斯うなるんだよ。」
 ノイルは左手の出血を止めて、溜息混じりに呟いた。
「御前は後始末の方が重要なんだから咒力無駄遣いするんぢゃねぇよ。――結界張り直しとけ。」
 ノイルはアヤメにそう云い捨てると、残った右手に白銀の刀身の細雨を握り……隻腕の侭敵陣に突っ込んだ。

 其の後のノイルは丸で別人の様に立ち回った。
 瞳を赫の強い琥珀色に変えて、何処か獣染みた光を宿し。
 矢が刺さろうが、火が点こうが怯む事は無く、凡てを薙ぎ払い。
 躯の至る処に剣撃を受け、髪も三分の一程ばっさり切り落とされたが、其れでも。
 最終的に、立っていたのはノイル一人だった。
「大丈夫かノイルっ、」
 場が収まるのを待って居たアヤメがトランクを持って駆け寄るのをノイルは手で制し。
「俺は後で良いから……先に周り……宜しく。」
 そう云って、其の場に崩れ落ちた。
 
 
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