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クリエイター名  溌麻冬鵺
戦場

 ここは戦場だ。
 彼は息を詰めてそう考えていた。
あちこちから沸き起こる悲鳴の数といったらない。
猛スピードで動く物体が殆どで、ゆったりと動くものはまず少ない。
隙が多すぎる、と彼はそののんびりしたものを睨みつける。
 油断なく彼は進んでいく。
そんな彼を、おかしなものでも見るかのように遠巻きに眺めるものもいた。
(失敬な奴らだ)
 彼は気分を害したが、自らの任務を果たすべく一人進軍した。
 歩く彼の姿は非常に規律にのっとった、整ったものであった。
綺麗と形容しても過言ではない。
(TPOを考えなかろうと、常に私はかくあるべきなのだ)
 それは軍人のプライドなのだろう。
今となってはあまり耳にすることもない絶滅危惧種のひとつ。
 つかつかと進撃した彼は、その強敵を物陰から伺った。
既に仲間達は奴に捕らわれている。
「私がどうにかせねば」
 声に出して、自分の意志を新たに確認した。

 とうとう彼はその地に踏み入った。
どきどきしているのが自覚されたが、それに気付かない振りをする。
奴の腕が両肩に回り、体に緊張が走る。
 誇りでどうにかして恐怖を抑え、彼はその化け物と一戦を交えた。

 戦いを終え、彼は奴から離れた。
最早彼は戦える状態ではなく、ふらふらである。
 先に解放された仲間が彼を見付けて声を上げる。
「あ、お爺ちゃん!」
 可愛い孫息子が嬉しそうに手を振っていた。手には風船を持っている。
「まあまあお義父さん、心配したんですよ、急にいなくなったから」
 息子の嫁が近寄ってくる。
彼女もジェットコースタに乗ったのかと思うと、彼は彼女を見上げる気持ちになった。
「遊園地で迷子になっちゃ危ないよ、お爺ちゃん」
 孫娘が父親の真似をして、彼に諭した。
 軍人としての矜持などを考えることなく、彼は恥ずかしそうに笑った。
 
 
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