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クリエイター名 |
溌麻冬鵺 |
白
彼は完全さを求めていた。 そのためになし得ることを静かに実行するだけの意志も、 彼は持ち合わせていた。 「それは僕にとって自然な欲求で、 それなくしては生きられないほど大事なものなんです」 笑ってそう答えるのが彼の常であったが、 尋ねた側は理解出来ないといった表情を返すだけである。 彼にはそのレスポンスこそ納得しかねるものだった。 今日も彼は洗練された完璧さのために行動している。 このことは彼の日課で、行わなければどうかなってしまいそうな程であった。 普段の彼は少し大人しい、落ち着いた印象の人間であるが、 この儀式に関わる時は厳粛な面持ちをし、緊張感を漂わせてさえいる。 完全なものはない、というのは彼の持論である。 彼の努力を根本から否定するような考えではあるが、 だからこそ求めてしまうのが人間なのだと言いたいらしい。 日常生活においては、彼はそれほど神経質でもない。 寧ろおっとりしていて、完璧という言葉と直結させるにはどうかとさえ思われる。 息を詰めて、彼は手を伸ばす。 眼鏡が僅かにずれたが、当人は気にする様子も油断もなくその相手を凝視した。 手から持ったものを離し、その安心のために一息つきたくなる心を抑える。 慣れた作業だが、彼は慢心しない。 そのまま数十分が経過し、遂に彼の仕事が終わる時が来た。 手をゆっくりと下ろし、その指で終止符を打つ。 彼は満面の笑みを浮かべ、息を吐き出すと、現れた『完全』を見下ろした。 その時間はとても幸福なものだ。 そこに彼の姉がやってきた。 「ねえ、それバラしても良い?」 「いいよ」 彼女は彼の傑作――完全を崩し始めた。 けれども悲しむどころか、彼はその崩壊の過程を、 いつもの穏やかな目で見つめている。 崩れ、乱れ、失われていく。 消えて、なくなっていく整然。 彼の愛すべき完全。
それは、白いだけのジグソーパズルだった。
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