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クリエイター名 |
黒ボシ★ |
勇者召還 第一話
「これで、最後だ!」 一は両手に持ったロングソードを振りかざして、最後のモンスターを切り捨てた。 「なんで、こんなことに・・・」 一は自分がこの場所に来たいきさつを思い浮かべていた。
「今日のHRはこれまで、解散」 担任の先生がそういうとクラスのみんながいっせいに帰り始めた。 「なぁ、一、帰りにCDショップにいくんだけど、一緒に行かねぇ?」 と、銀二が話しかけて来た。銀二とは小銀二校からの付き合いで、一番の親友である。 「ああ、別にいいよ。」 と俺は答えた。まっすぐ帰っても何も用事がなく暇だったのである。
「これこれ、今日はこのCDの発売日だったんだよなぁ。」 と、銀二がいいながら目当てのCDを手に取りレジに向かっていった。俺は銀二のそんな姿を見ながらふと 反対側のゲームコーナーに目をやると、あるPCゲームに目が留まった。 「ん?『リアルな冒険が楽しめる新感覚RPG〜勇者召喚〜』、なんだこれ?」 俺は何か不思議な感じがするこのゲームを思わず買ってしまったのだ。 そのとき、銀二が目当てのCDを買い終わりレジから帰ってきた。 「お待たせ〜、ん?一、お前も何か買ったんだ?」 「ん?ああ、なんか目に付いたゲームがあったから・・・」 「ふ〜ん、勇者召喚ねぇ、聞いたことないなぁ・・・。ま、面白かったら貸してくれや。」 「ああ、分かった。」 そんな話をしながら俺たちは家路についた。
夕食後、パソコンの前に座った俺はさっき買ってきたゲームを起動してみた。 「ん?なになに?キャラクターの名前、性別、職業を決めろか・・・」 「名前は自分の名前で一でいいや、性別ももちろん男っと、あとは職業か・・・」 「職業はあなたの性格や能力によって自動的に決まります?ん〜性格なんてどうやったら分かるんだろ ?まぁ、いっか、とりあえずエンターっと」 タン! 「ん?画面がなんか真っ白になったまま止まったな・・・不良品かぁ?・・・」 とそのとき、急に画面から青白い光があふれてきて俺を包み込んだ。
「ん、こ、ここは・・・」 気がつくと俺は薄暗い所に倒れていた。手には両手剣・・・ロングソードがあり、服の上にはなめし皮 のよろいを付けた姿でだ。 「え?な、なんで俺はこんな格好で、こんなところにいるんだ?確かゲームを起動したらパソコンから 光が出てきて・・・」 と、そのとき、頭の上から声が聞こえてきた。 「ようこそ、勇者召喚へ、あなたはこのゲームのプレイヤーとなりました。」 「え、ちょ、ちょっとまってくれ、プレイヤーって、ここはゲームの世界なのか?何で俺がゲームの世 界に入り込んでるんだ?」 俺の質問には答えず、声は続く・・・ 「このゲームの目的はこの世界を支配する敵を倒すことです。その敵を倒せば現実の世界に戻ることが できます。また、あなたのほかにもプレイヤーは存在します。その方たちと手を組んで戦うのも争う のも自由です。ただし、途中で倒れたり、あきらめた場合は・・・それではご健闘を・・・」 「まってくれ、倒れたり、あきらめたらどうなるっていうんだ!おい」 しかし、声はそれっきり聞こえなかった。
「いったい、何だっていうんだ・・・」 俺はしばらくその場で考え込んでいた、すると遠くのほうから足音と金属音が聞こえてきた、俺は大声 で呼びかけたが、帰ってきたのは、叫び声だけだった・・・ 「何が起こったんだ?」 その答えはすぐに明らかになった。 俺は駆け足でその場に行くと、そこには血を流して倒れている男と、背の低いモンスターが3匹いた、 モンスターたちは俺の姿を確認すると一斉に襲い掛かってきた。 「う、うわぁ!」 あわてて俺は逃げたがすぐに囲まれてしまった。3匹のうち、1匹がとびかかって来たので反射的に手 に持ったロングソードを振るった。 ざしゅっ! と、いう音が聞こえ、下を見ると胸を切られたモンスターが倒れていた。 「え、た、倒せた?俺、剣なんか使ったことないのに?」 そんなことを考えているうちに残りの2匹が同時に飛び掛ってきた。 今度はしっかりと敵を見ながら剣を振るった、すると体が自然に動き、難なくのこりの2匹も倒すこと ができた。 「ふぅ、た、助かった。」 「それにしても、体が自然に動くなんて・・・いったいどうして・・・?あ!もしかしたら、ここがゲ ームの世界だから、自分がついた職業の能力が使えるんじゃ・・・もしそうだとすると、俺は戦士? ってとこかな?」 そう思っているときにふと、さっきの血を流して倒れている男が目に入った。 「そうだ!大丈夫ですか?」 しかし、男はすでに息をしていなかった。 「そんな、死んでる・・・、もしかして、倒れたら俺もこうなるってのか・・・」 とりあえず、簡単に弔いを済ませて、俺はここから移動することに決めたのだ 「ここがRPGのゲームの世界ならどこかに街があるはずだ、そこで情報を集めよう」 その途中、なんどか敵の襲われたが、そのつど撃退することに成功した。
「これで、最後だ!」 俺は両手に持ったロングソードを振りかざして、最後のモンスターを切り捨てた。 「ふぅ、ひと段落着いたな・・・。ん?あれは・・・光?」 視線の向こうには確かに光がともっていたのである。近づいていくとそこが街であることが分かった。 「ふぅ、やっと街に着いたか・・・」 俺はそんなことを考えながら歩く速度を速めた、そのとき 「きゃあぁぁぁ!」 と、後ろから女の叫び声が聞こえたのである。 すぐさま振り向くと、女の人がモンスターに襲われているのだ。 「くそっ!」 俺はそういいながらモンスターの大群に向かっていった。 「だ、誰かたすけて・・・」 女の人はそういいながら杖を振り回している。俺はその人の前に立ち、女の人をかばう格好で戦った。 「この、やろ!」 そうはき捨てながら、襲い来るモンスターたちを一刀のもとに切り捨てていき、最後のモンスターを倒 したところに女の人が話しかけてきた。 「あ、ありがとうございます、おかげで助かりました・・・ってあれ?もしかして河合君?」 「え?何で俺の名前を・・・って吉田さん?!」 なんと助けた相手はクラスメイトの吉田 明さんだったのだ。吉田さんとは高校1年から同じクラスで 、2年の今ではクラスメイトだけどあまり話さない人というぐらいの人だった。 「え、なんで吉田さんがここに?」 「それはこっちのセリフだよ・・・、河合君はどうしてここに?」 「え、えっと、銀二とCDを買いに行ったときに勇者召喚ってゲームが目に留まったんだ、いつもなら気 にもしないはずなのに、なぜかすごく気になってさ・・・それで、家に帰ってから起動してみたらパ ソコンから青白い光がでて、気がついたらこんな格好をしてここにいたんだ。」 「そうなんだ、私は、家のパソコンに送られてきたメールを見てたら急に意識が遠くなって、気がつい たらこの杖をもってここに・・・」 そういう吉田さんの右手には、確かに杖・ロッドが握られていた。 「ふぅん、とりあえず、あっちに街が見えるから一緒に行かない?ひとまず休憩して情報収集しようよ 。」 「うん、そうだね。」 そうして、俺たちは向こうに見える街へと急いだ。
「ええ?ここで倒れたら、死ぬ?!」 と、吉田さんが叫んだ。 「ああ、たぶん間違いない、ここについたときにモンスターにやられて倒れている人がいたんだけど、 息をしていなかった。もしもそうじゃないならその場から消えるとか復活とかするんだろうけど、 そんな気配はなかったから・・・」 「そ、そんな・・・」 吉田さんは明らかにショックを受けていた、無理もない、俺自身もショックを受けているのだから。 「でも、この世界をしている敵ってやつを倒せば元の世界に戻れるんだよね?」 「ああ、そうらしいけど・・・」 俺は言葉を濁した、 「けど、それがどんな敵なのかぜんぜん分からないし、ここがゲームの世界なら大ボスってことだろ? 簡単に勝てるような相手じゃないよ」 「そっか、そうだね・・・」 しばしの沈黙の後 「なら仲間を集めようよ、一緒に戦ってくれる人、助けてくれる人をさ。」 「ああ、そうだな、仲間は多いほうがいいし。」 しかし、俺は不安も覚えていた、頭の上から聞こえた声が気になることを言っていたからだ。 「仲間を集めるのも、争うのも自由?それって、俺たちプレイヤー同士でも戦うことがあるってこと じゃないのか?」 しかし、その不安をぬぐい去り、立ち上がった。 「うん、今日のところは宿屋を取って、寝よう、仲間探しや情報集めは明日の朝から。それでいいね?」 「うん、分かった。」 そうして、一日目が過ぎた
そのころ、学校では 「え?一が行方不明?吉田さんも?」 と、銀二が担任の先生に聞き返していた。 「ああ、なんでもどちらのご両親もいついなくなったのかすら分からないとのことだ、ただ・・・」 「ただ?」 「ただ二人ともパソコンが付けっぱなしになっていたそうだ。それに何の意味があるのかは知らんがね?」 「そうですか・・・」 納得のいかない銀二であったがとりあえずその場は引き下がった、しかし、その日一日中ずっと考え込ん でいた。 「あの、一が家出なんかするはずがない、帰りに一の家に行ってみよう。」
「ごめんくださ〜い」 銀二は一の家の前でチャイムを鳴らし、一の部屋に通された。 「そういえば、一のやつ昨日のゲームが気になるとか言って買ってたよな、当然家に帰ったらそれを やるはず、そして、付けっぱなしのパソコン・・・。もしかしてこのゲームが原因なんじゃぁ・・・」 そう言いつつパソコンを起動する銀二。 「ゲームが入りっぱなしだ、よし、俺もやってみよう、何か手がかりがつかめるかもしれないしな・・・」
「さてと、そろそろ行こうか。」 「うん、そうだね。」 俺と吉田さんは一通り情報収集を終え、装備を整えて、別の街へ行ってみることにしたのだった。 手に入れた情報で、特に目新しいものはなく、すでに知っていることばかりだったので、別の街でも情 報を集めたほうがいいだろうということになったのだ。 街の人たち(プレイヤーではないらしい)の話によると一番近くの街は北に4日ほど歩いたところらし い、そして、表をうろついている敵の強さはここらの敵とは比べ物にならないらしい。そこで、しっか りと準備を整え、出発することにしたのだ。 「強い敵に出会ったら回復お願いね。」 「うん、分かった。」 吉田さんは僧侶で、回復魔法が使えることが分かった。
「くそ、ここまでか・・・」 銀二は一のパソコンで勇者召喚を起動し、一や吉田同様、ゲームの中に来ていた。そして、ここに信 也がいるに違いないと考えた銀二はこの世界のなかで一を探していたのだ、そして、敵に囲まれてしま ったのである。 銀二は魔法使いだった。呪文で撃退しながら逃げていたものの、体力が尽き、足を敵にやられてしまい撃 退することも逃げることもできなくなってしまったのである。 モンスターたちがじりじりと間合いを詰めてきて、もうだめかと思った瞬間、 「斬!」 と、いう声とともに襲い掛かってきたモンスターたちが真っ二つになって倒れていた。 「君、大丈夫かい?」 声のしたほうを見ると、そこには大柄の男が立っていた。 手に持った長剣は刃こぼれが目立ち、身に着けたフルプレートには無数の刀傷があった。 「あ、ありがとうございます。あの、あなたは?」 「ん?僕は吉田 誠一というんだ。妹を探してこの世界に来たんだが・・・いかんせん、見つからなくっ てね、君、吉田 明って女の子見かけなかったか?高2の女の子なんだが・・・」 なんと、助けてくれたのは一同様、行方不明になっていた吉田 明の兄だったのだ。 「え?吉田さんのお兄さん?」 「ん?君、明を知ってるのか?」 「はい、俺のクラスメイトです。俺は友達の河合 一ってやつを探しにこの世界に来たんです。」 「そうか、なら一緒に探すか、一人よりも二人のほうが安全だし、何より、案外二人も一緒にいるかも しれないしな。」 「はい!」 「なら、とりあえずここから南に街があるんだが、そこに行くとしようか、君の装備を整えないとな。」 「はい!」
「一刀!両断!」 俺は叫びながらロングソードを縦に振いモンスターたちを真っ二つにして吹き飛ばした。 「バリアー!」 吉田さんが補助呪文を使い俺の防御力を高める。 街を出、敵を倒しつつ進んでもう4日目になっていた。そろそろ新たな街が見えるころだと思いながら 進んでいるうちにまた敵に出くわしたのだ、確かに敵も強いが、それ以上に自分たちが強くなっている のが分かった。 最後の一匹を切り捨てたときに吉田さんが 「ねぇ、一君、あれ見て。あれって、街・・・だよね?」 「あ、ほんとだ、やっとついたんだ・・・」 俺はそのときなんとなく違和感を覚えたが気のせいにしておいた。
「ふぅ、やっとお風呂に入れるよ・・・」 俺たちが宿屋について部屋を取っているとき、うしろから聞きなれた声が聞こえてきた。 「この世界に来てやっとベットで寝られるよぉ。」 「ははは、そうか、銀二君はまだ街にも着いてなかったんだな。」 吉田さんももう一つの声に反応した。そして振り返るとそこには銀二ともう一人の男が立っていたのだ。 「銀二!」 「お兄ちゃん!」 「え?一!吉田さん!」 「明!!」 「え?なんで銀二がここに?」 「お前を探しに来たに決まってんだろ?」 「お兄ちゃん、どうしてここに?」 「どうしてって、明を探しに来たに決まってるだろ?まったく心配かけさせて・・・」 「ごめんなさい・・・」 「まぁ、無事でよかったよ。えっと、君は、一君・・・でいいのかな?」 「え?あ、はい。えっと、あなたは吉田さんのお兄さん・・・なんですか?」 「ああ、そうだよ。兄の誠一です。君の事は銀二君から聞いてるよ。それに明を守っていてくれたみたい だね、兄として 礼を言わせてもらうよ、ありがとう。」 「い、いえ、そんな大したことはしてませんが・・・」 「さてと、銀二君にもまだ話してないことがあるのだけど、ちょっといいかな?」 誠一さんは4人分の部屋をとると急にまじめな顔になり大事な話があるといって俺たちを自分の部屋に 呼んだ。
「この世界から脱出するにはこの世界を支配している敵を倒さなくてはいけないというのはみんなも 知っていると思うけど、実は脱出できるのは倒したパーティだけらしいんだ。そして倒すことができ なかったパーティは敵が・・・仮に魔王と呼ぶとして、魔王が復活して世界を支配するまで待たな ければいけないらしい。だから自分たちよりも強いパーティをつぶしたりもする。この世界で死ぬと 現実の世界には二度と戻れない。だからみんなも闇討ちとかにはくれぐれも気をつけてくれ。」 「「「はい」」」 「あと、魔王の居場所なんだが、僕も詳しくは分からない。けれど、手がかりなら見つけたよ。 と誠一さんはこの世界の地図を持ち出した。 「今いるのがこの街なんだが、ここからずっと東に進んだところにある・・・ここだ、この森の中には 悪魔と呼ばれるモンスターが数多くいるらしい、そして森の中には深い洞窟もあるらしいんだ、 怪しいと思わないかい? 「つまり、この森の中にある洞窟に魔王がいると、そういうことですか?」 「うん、その可能性は高いと思う。もしもいなくても何かしら情報は手に入ると思うんだ、行ってみる かい?」 「もちろん!な、銀二?」 「ああ、この世界からなんとしても脱出するんだ!」 「私も、一君が行くなら・・・」 「よし、決定だね。なら今夜はゆっくり休んで、明日、森に一番近い街を目指そう。」
その夜 「なぁ、一。」 「なんだよ、銀二、早く寝ないと疲れが取れないぞ。」 「吉田さん、いつからお前のことを下の名前で呼ぶようになったんだ?」 「え?あ・・・」 「気づいてなかったのかよ、ったく、相変わらずそういうことには鈍いんだなぁ、お前は。」 「う、うるさいな」 「はいはい、んじゃ、おやすみ。」 「ああ、おやすみ。」 しばらくして銀二のベットかが寝息が聞こえてきたが、俺は吉田さんのことを考えていた。 「あの時感じた違和感って、名前の呼び方が変わったことだったのか。なんでまた下の名前で呼ぶよ うになったんだろう?」 そんなことを考えてるうちに俺も眠りに落ちていった。
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