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クリエイター名  海崎恭介
ギャグ調のオリノベ

●オリジナルノベル

■ギャグ・コメディー調 

 知る人ぞ知る。逆を返せば知らない人は全く知らない喫茶店『喫茶『Ark』』。
 北海道、札幌の端っこに佇むその店は今日もまた色んな意味で忙しい日々を送っていた。

「愛犬よ、僕、もう疲れたよ‥‥とても眠いんだ‥‥」
 行き成り某犬の名言をほざいたのは『Ark』の店長、日向智(ひゅうが さとし)。
 いつからこんなキャラになったのか、それはご想像にお任せする事にする。
「誰が愛犬か! 」

 スパーン!

 いつものように智のボケにハリセンによる華麗な突っ込みを入れる、一応副店長ということになっている智の従姉妹、坂本由美(さかもと ゆみ)。
 彼女が何故常時ハリセンを持っているのかは『喫茶『Ark』七不思議』の一つである。
 他6つは何なのかというと『他の6つが謎』というがこれまた七不思議の一つなのである。
『何かおかしいんじゃないか?』という突っ込みはこの際無しにしてもらいたい。

 彼等がいつものようにふざけていたそんな時。

 ゴンガラガッシャーン、バキ、ドッカーン

 壮絶な効果音が店内に響いた。
 全壊したバイクと埃の向こうから姿を見せたのはライバル店『旬菜厨房『膳』』の店主、智の友人でもある黒原拓海(くろはら たくみ)、その人。

「やぁ、こんにちは智、今日も良い天気だね」
 さも何事も無かったかのように挨拶をする拓海。しかし、この店の連中はそうは言ってられない。
「「やぁ」じゃない。と言うか、お前、何しに来たんだ? 」
 智が疑問に思うのも無理は無い。前もって、何も連絡がなかったからだ。
「ん? 暇潰し」
「お前は暇潰しで人様の店を半壊にするのか? よくもまぁ、そんな事がぬけぬけと‥‥」
 そこまで言って、智は少し考え、やがて何かを企むかのように含み笑いを見せた。
「くっくっく‥‥まぁいい、そうかぁ、暇かぁ、暇なのかぁ」
「はい? 」
「まぁ、見ての通り、今は俺と由美の二人しか居ない状態だ。これが何を意味するか、分かるよな? 」
「分かるような‥‥分かりたくないような‥‥」
 拓海が曖昧な返事を返す。が、多分分かっているのだろう。
「要するにそういう事だ。人手足りてないから手ぇ貸せ」
「嗚呼‥‥やっぱりそうなるんだ‥‥いいよ、分かったよ‥‥」
 しくしくと大量の涙を流しながらも拓海は承諾した。
 その瞬間、智の目が『キュピーン』と光りだし。
「そうか、お前ならそう言ってくれると思ってたよ。それならまずは店内の掃除からだな」
 拓海は言われるがまま、モップを手にし、店内の掃除をし始める。
 それが終われば次はトイレの掃除。
 次は厨房の整理整頓。
 更に倉庫の食材の確認までやらされ。
 挙句の果てには智の私室の片付けまでやらされた。

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ‥‥」
 息も上がり、心身共に限界に近付いてきた拓海。
「まぁ、こんなもんか」
 やっと終わりか。と拓海の頭上に天使が舞い降りそうになったその時。
「じゃあ、後はコレな。ヨロシク! 」
「は?」
 拓海は、智から衣装と思われる布を手渡される。
「それ着てこれ配って来てくれ」
 と、智が指さした方向には山のように積まれたビラ。
「まさかとは思うけど‥‥コレ、全部? 」
「当然だ」
 即答。
「無理だー!絶対無理だー!」
「無理でもやれ」
 また即答。
「何で僕がこんなことまでしなきゃいけないんだよう!! 」
 仕事の途中、拓海は何度もそれを言って来た。だが、
「ん? 店を半壊にしたのは何処の誰だっけ? 」
 智にはこの武器があった。確かに、店にバイクで突っ込んで半壊させた拓海に非があるのは明らか、だが、これは余りにも酷い仕打ち。
 しかも、拓海に仕事をさせている間、智はそれを見ているだけだったという。
「うっ‥‥ああ、頭痛い‥‥」
「由美、頭痛薬持って来い」
「そういう意味で言ったんじゃないやい! 」
「ああ、分かってて言った」
「くっ、もういいよ! 配ればいいんでしょ、配れば! 」
「物分りが良くて俺は嬉しいよ」
 拓海は「絶対いつか仕返ししてやる」と心に決め、更衣室へと入っていった。
 しかし、何をやるにせよ、拓海より智の方が一枚上手だと言う事は、先程の会話で分かって頂けた事だろう。
「‥‥あれは「絶対いつか仕返しする」という顔だな」
 案の定、バレバレだった。

 暫くして

「何じゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!! 」

 更衣室から断末魔の叫びにも似た叫び声が聞こえた。
 更衣室から出てきた拓海の姿は、フリルのついたヒラヒラのスカート、頭にはヘッドドレスというウェイトレスの姿そのものだった。
「智、僕の気のせいだと思いたいから、一応聞いておくよ。何、これ? 」
「いや、見たまんまだが? と、言うわけで、ヨロシクな? 」
 拓海の手にビラの一部が乗せられる。
「じゃ、行ってらっしゃい」
 反論することも、せめて服装だけはと抗議する事も許されぬまま、拓海は店の外に放り出される。
 すると智は店のドアから顔を出し、
「あ、そうそう、風邪引くなよ? 」
 智にとっては心優しい気遣いだったかもしれないが、拓海にとっては絶望的な台詞だった。
 『全部配り終わるまで帰るなよ?』拓海はそう解釈したらしい。
「くっそぉぉぉぉぉ!! 」

 北海道、札幌の真ん中、そこには札幌で暮らす人々が行き交っていた。
 その中に一人、明らかに浮いている存在があった。
「喫茶『Ark』でーす。よろしくお願いしまーす」
 彼は懸命にひたすらビラ配りを頑張った。
 勿論、ウェイトレスの姿のまま。

 頑張れ拓海、負けるな拓海、君が居るから皆の明日があるのだ!

「夕日のバカヤロー!! 」
 『カァー』と、烏の鳴き声が拓海の頭上に響く。
 彼が自宅に帰宅したのは、それから約半日後の事だったという‥‥。

 続く?
 
 
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