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クリエイター名 |
蘇芳 防斗 |
日常の、のんびりした一枚(東京怪談・まったりコメディ系)
「暇ねぇ」 「暇だなぁ」 「にゃー」 喫茶店『Blitz Kong』店内、今は誰も客がおらず二人と一匹は暇を持て余しカウンターに突っ伏していた。 因みに左、突っ伏す男性がこの喫茶店のマスターである硲 大輔‥‥今は少しメガネがずれています。 そして右、黒猫のブリッツを挟んでやはり突っ伏す女性が彼の妻で当喫茶店、企画担当の硲 恵理‥‥自慢である栗色の髪が所々跳ねているのはゴロゴロとカウンターを転がり過ぎた結果だろう、今日は未だに一人もお客が来ていないから。
そんな彼らを傍目にウェイトレスのセリは漂わせている雰囲気から暇そうな気はするが、それを表情に出さずカウンター前で美しく立ち尽くしていれば、調理場に篭る刃も何時もの様に包丁を‥‥もしかすれば自身の刃を研いでいるのかも知れないが、軽やかで少し不気味な音だけ響かせている。
今日も変わらない、そんな風景。 「ねぇ、何処か行かない?」 「何処か‥‥って何処だよ」 「さぁ、何処か」 「暇だって言う気持ちは分かるけど、まだ開店して間もないからなぁ‥‥今は大事な時期だし、そう言う訳にも行かないだろ」 「‥‥むぅ」 見慣れた光景、別段不満もなく飽きている訳でもなく‥‥だが妻は何か思って、夫へ問い掛けるも顔を上げて大輔、その意図に気付かず正論な答えを返して妻を呻かせる。 「依頼、何かないんですか‥‥?」 「ない事もないだろうけど、もう少し店が軌道に乗ってからかなぁ」 「むぅ」 すると次にセリ、養母へ助け舟‥‥と言うには大輔同様に恵理の意図が理解出来ていない為に論点が多少ずれているが、を出すも似た様な答えが養父の口から紡がれるとその妻は再び呻く。 「‥‥何だよ」 「最近、二人きりで何処か行ったりしていないからぁー」 「‥‥すみません」 「あ、セリのせいじゃないよ! 大丈夫大丈夫!」 珍しく恵理がしつこいのでやっとの事、何かの意図を含んでの質問だった事に気が付いた大輔が恵理の方へ顔を向け問えば、紡がれたその真意にセリが自身のせいと思って詫びる。 尤も恵理の不満の元はセリの責任では全くないので即座にそれを否定する彼女の養母、悪いのは細かい所まで気が回らない大輔の鈍さなのだからセリを怒る理由はない。 「そう言われてみれば‥‥そうだなぁ」 「でしょでしょ!」 「‥‥‥」 そんな二人の様子を寝そべったまま見守り、逡巡した後に大輔が呟くとその妻はその身を起こしてぐいぐいと彼の腕を引っ張る‥‥も。 「でももう暫く、我慢してくれないか?」 「何時も‥‥そればっかり、大輔の馬鹿ぁ!」 「ぐべっ!!!」 変わらず刃が何かを研ぐ音響かせる中、何時もの調子でそう告げた夫に恵理はやおら立ち上がれば彼のこめかみ目掛け溜まりに溜まったフラストレーションを鉄拳に乗せ振るうと、大輔を一撃で沈黙させる。 「義母さん‥‥駄目、落ち着いて」 直後、落ち着いてセリが養母を宥めては次いで養父を介抱すると、その光景を目の当たりにしながらもブリッツは一切気にする事無く呑気に一声鳴くのだった‥‥。 「にゃー」
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