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クリエイター名 |
ALF |
サンプル
最初に これは、MT8Z5ディヴの登場PCと劇中劇設定を使ったパロディです。 あまり細かい事は気にせず、マジカル☆マナと言う魔法少女の活躍する話だと思って下さい。
『魔法少女マジカル☆マナ 〜魔法少女VS魔法少女!?』
●魔法少女のお仕事 夜の遊園地。だが、今夜は入場客らしき人々がバタバタと倒れ伏し、身動き一つしていない。 そんな中、綺麗な金髪を大きめのポニーテイルにしたドングリ眼の美少女が、やたらと派手な衣装とミニスカートを翻しながら、手にしたハートのデコレーション付きの縁起物の熊手にしか見えない物‥‥魔法のステッキを振るう。 「必殺! スタァァァミラァァァァジュッ!」 その途端、ステッキからピンク色の真ん丸い魔力の玉が飛び、黒いドレスに身を包んだ妖艶な美女レナ・ウィンディの傍らにいた、浴衣を着た盆踊り少女‥‥人の心から感動の力を奪うモンスターを包み込んだ。 「うきゃああああああぁっ!」 ピンク色の光の中で盆踊り少女は苦しみ、最後の瞬間、遠い目をして呟く。 「‥‥夏になったら盆踊りですぅ」 光の中で消滅する盆踊り少女。そして盆踊り少女を溶かし込んだ光は、ポンと弾けて消えた。 その途端、辺りにバタバタ倒れていた人々の元に細かく輝く光が降り注いだ。奪われた感動の力が解放されたのだ。 「く‥‥憶えておきなさい、マジカル☆マナ」 レナが、暗闇の中に溶け込むように消える。それを見届け、正義の魔法少女マジカル☆マナはニッコリと笑った。 「今夜も大勝利☆」
●ティアマト 完全な暗黒の世界ティアマト。 禍々しい黒い澱に包み込まれた中、そこに浮かび上がるようにその城は存在した。 その奥にある王の謁見室。闇に包まれた玉座。姿は見えねど、そこにマスター・ゼロと呼ばれる者が確かに存在していた。 「アレフ・ヌル。もはや時は残り少ない。今度こそ感動の力を集める事が出来るのだろうな」 「貴方にそんな事を言われる筋はありませんよ。私は貴方の下僕ではないのですから」 不遜にも跪く事なくマスター・ゼロと対峙する、冷たい容貌を持つ長髪の青年‥‥アレフ・ヌルは答える。アレフ・ヌルはかつて地球に封じられていた魔王であり、マスター・ゼロにより封印から解放されたため協力はしているが、臣下にまで成り下がったつもりはなかった。 「‥‥そんな事言って、何か策でもあるの?」 それはマスター・ゼロの右腕、黒衣の妖艶な美女、レナ・ウィンディ。アレフ・ヌルと手柄を競い合う彼女は、彼を牽制すべく冷ややかな口調で言ったのだが、彼女自身の昨夜の失敗の事もあり、やっかむような響きを消せなかった。 アレフ・ヌルはレナへ冷笑を返して言う。 「さて、少しばかり奇手を‥‥まあ、思い付きに過ぎませんがね」 そのままアレフ・ヌルは視線を玉座に向けた。 「すでに素材は選んであります」 自信に溢れた様子でそう言い切るアレフ・ヌルの後ろに、選ばれた素材の姿が浮かび上がる。 それは誰かと談笑しながら朝の街路を歩く、柔らかな長い髪と穏やかな笑みが印象的な少女‥‥並木桜子の姿だった。
●朝の風景 魔法少女マジカル☆マナこと時田真奈美14歳。通称愛称ひっくるめてマナ。大きなポニーテイルにした金色の髪が可愛い、元気美少女。 アストロランドの女王天乃霊気の命を受け、何だか縫いぐるみみたいで白くて何だかぷにょぷにょしてそうで、ちっちゃい天使の羽と先が矢尻みたいになってる尻尾を生やした、良くわからない生き物の『ちゅてま』と一緒に、人の心の中にある感動の力を集めている。 そして、こっちは無理矢理に人から感動の力を奪っていくアレフ・ヌルやレナ・ウィンディ‥‥そして、彼等が使役するモンスターと戦う正義の魔法少女もやっていた。 故あって皆には内緒の魔法少女も、ちゃんと学校に通っている。世間様は魔法少女としての活動がどんなに忙しくても容赦してくれない。まあもっとも、マナが魔法少女マジカル☆マナだという事は秘密だから、仕方ないのだけれど。 「‥‥眠いよぉ」 マナは朝の清々しい登校途中、何度目かの大あくびをした。いつも元気に跳ね踊るポニーテイルも、元気なく垂れ下がり気味。 「どうしたんです?」 一緒に登校している親友、コーヒー色の膚の美少女、ジャニエス・バーネットが不思議そうに聞く。マナは‥‥答えられなかった。 魔法少女の事は内緒。だから、昨夜遅くまでレナ・ウィンディ&モンスター盆踊り少女と戦い、楽勝ムードで勝った後、ちゅてまに捕まって感動を集める特訓をしてたなんて言えない。 「‥‥ちょっと夜更かししちゃったの」 誤魔化そうとしたマナに後ろから声がかかる。 「嘘だよ。ボクより先に寝ちゃったくせに」 振り向いたそこにいたのは、マナが居候している親戚の家のお兄ちゃん‥‥芳野駆馬。優しそうでなおかつ、何処か情けない風貌の高校生。 そしてその隣は、駆馬兄ちゃんの恋人‥‥でも片思いみたいだからまだ友達の並木桜子さん。 二人が並んで立っていた。 「駆馬兄ちゃん。だから、その‥‥女の子には秘密がいっぱいあるのよ。ねぇ、ジャーニー」 夜中にマナがこっそり抜け出した事を駆馬は知らないし、当然それを教えることもできない。苦し紛れのマナに話を振られ、ジャーニーは思わず戸惑いの声を上げる。 「え? えぇ!? どうして、私にそんな話を振るんですか!?」 戸惑い、困り果てるジャーニー。 そんなじゃれ合いをニコニコしながら見ている桜子の後ろ‥‥何の変哲もないはずの塀に、黒い染みが広がっていた。 それは誰にも気付かれぬままにじわじわと広がり、そしていきなり中から手が伸びる。それは桜子を後ろから抱き、口を押さえ、そして黒い染みの中に引きずり込んだ。 直後、黒い染みは瞬時に消え、塀は元の何の変哲もないブロック塀に戻る。 「あれ? 桜子ちゃんは?」 ふと、マナとのじゃれ合いから我に返り、駆馬は桜子がいない事に気付いた。 「いないの?」 マナも、桜子を捜してキョロキョロする。 ジャーニーは辺りを一通り見回して言った。 「もう、学校に遅刻しちゃいますから、先に行ったんじゃないでしょうか?」 「ボク達に何も言わないで?」 駆馬は納得行かない様子で聞き返す。あの、桜子ちゃんがそんな事をするだろうか‥‥ 「駆馬兄ちゃん、とうとう愛想を尽かされたわね? しょうがないよね、お兄ちゃん甲斐性がないし、情けないし‥‥あたしなら選ばないかな。そうだよね? ジャーニー」 「だから、どうして答えにくい事ばっかり私に振るんですか!?」 思わずマナに言い返したジャーニーに、駆馬の弱々しい声が掛けられる。 「‥‥ねぇ、答えにくいって事は、ひょっとしてジャーニーちゃんもそう思っているの?」 辺りに気まずい空気が流れた。
●暗黒への目覚め 桜子は、闇の渦巻く不思議な空間の中に漂っていた。その目は虚ろで、何の光も宿してはいない。そんな桜子の前に、闇から滲み出るかのように魔王アレフ・ヌルが現れた。アレフ・ヌルはうっすらと微笑みながら、桜子を眺める。 「‥‥貴方なら、世界から全ての感動を奪うことが出来ます。そのための力を上げましょう」 アレフ・ヌルは虚空に手を伸ばす。 するとその手に何処からか、グラスとそれを満たす黒い液体が現れた。 それを満足そうに見、アレフ・ヌルはもう片方の手を伸ばし桜子の身体を抱き寄せる。 そして、桜子の口の中にグラスの中の液体を静かに流し込んだ。そのままグラスの中身を飲み干した桜子は軽く咳き込み、次の瞬間、全身から黒い炎を上げて燃え上がる。炎は桜子の全てを包み、一瞬にして消える。そして‥‥ そこに立っていたのは、黒いレザー地で出来た肌も露わな衣装を身にまとった桜子だった。 「さて、闇の力の味はどうです?」 自分の作品を見る目で桜子を見るアレフ・ヌルに、桜子は何処か暗く微笑む。 「素晴らしいです。アレフ・ヌル様‥‥」
●いつもの教室 で、時間はすでに放課後。 完全エスカレーター方式のこの学校では、初等部から高等部まで、校舎は全て同じ広大な敷地内にある。で、中等部一年の教室。 「今日は急いでらっしゃるんですね?」 いつにも増してイソイソと鞄に教科書を詰め込んでいるマナ。ジャーニーに聞かれるのに答えて、マナはニッコリ笑う。 「今日は、高等部で演劇部の新作を見せて貰うの☆ 駆馬お兄ちゃんの御招待☆」 「芳野さんも出演されるんですか?」 「ううん、駆馬お兄ちゃんはスタッフなの。でも、あたしならスタッフ参加じゃなくて、舞台に立ちたいなぁ‥‥」 夢見る様に言った後、マナは握り拳をつくってジャーニーに熱く告げる。 「やっぱ、お姫様とかやってみたいよね! 王子様と素敵な恋をする奴!」 「‥‥お姫様って、握り拳をつくって語る夢じゃねえじゃん」 呆れたようなツッコミ。そして、 「まあ、マナなら王子様を一撃で瞬殺‥‥」 余計な一言。直後、マナが振り向きもせずに放った裏拳が、いつも不用意な一言を良いに来る少年を吹き飛ばした。 「天堂〜、地獄見せてあげようか?」 「‥‥‥‥もう見た」 怖い笑顔で振り向くマナの前で、机の下に埋もれた元気よさげな少年、天堂愛が呻く。 天堂がマナに絡むのはいつもの事。そして、一撃で粉砕されるのもいつもの事なので、教室内の誰もこの一連の騒ぎを気にもとめない。 「あんたねぇ。いっつもいっつも、あたしに絡んできて‥‥どういうつもり?」 ちょっと怒ったように言いながらマナは、倒れ伏す天堂の前に仁王立ちになる。 天堂が何故、マナに絡むのか‥‥一つ邪推が出来るが、お子様のマナは、後10年は経たないとその可能性には気付かないだろう。 そして天堂は‥‥マナを見上げ、呟く。 「‥‥苺」 「‥‥それって遺言?」 マナは、これ以上ないくらいに素敵な笑みを浮かべて聞き‥‥全て見守っていたジャーニーは、その笑みと始まった惨劇から目をそらした。 「‥‥馬鹿な天堂君。それから‥‥マナさん、スカートをはいてるのにキックは、はしたないと思うの‥‥」
●対決! 魔法少女 「セット準備よし。役者配置よし。芳野くーん! 舞台装置と照明おねがーい!」 「あ、はい!」 放課後の体育館。そのステージ上、高等部演劇部部長の七瀬かのんが部員の皆にテキパキと指示を出す。その指示に従い、芳野駆馬はステージ脇の舞台装置の操作室に駆け込んでいった。 体育館の中には、演劇部員以外にも見物に来た暇な生徒がたむろしている。既に準備は最終段階。七瀬自身も衣装を付けて、用意は万全。 「さ、始めるわよぉ!」 「‥‥少々お待ち下さい」 景気良く掛け声を出した七瀬を止める声。 突然、ステージ上に現れた黒いレザー地の肌も露わな‥‥一歩間違えれば、ボンテージとも言える衣装を纏った少女の姿に、七瀬は驚いた。 「あ、えぇ‥‥と、何? こんな役いた?」 まさか普通にこの衣装で歩いているとは思えず、七瀬は他の部員に聞く。だが、聞かれた部員は首を横に振った。それは、違う部員も同じ。 部員の誰も知らない少女は、輝くような微笑みを浮かべ、何処からか取りだしたペンタグラムの大きな飾り付きのマイクを持って言う。 「私は、魔法少女サクラシアです。皆さんの感動の力を奪います‥‥皆さん聞いて下さい」 静かに歌い出したサクラシアの歌が会場に満ちた。穏やかに流れるその調べの中、観客達は一人、また一人とそれに引き込まれていく。それは、スタッフや俳優達、そして七瀬も同じ。と‥‥歌に聞き惚れる全ての者達の胸の辺りから、淡く鈍い輝きを放つ球状の光が浮かび出る。 そしてそれは、宙を飛ぶとサクラシアの中に飛び込んでいった。その最後の一つが彼女の中に溶け込んだ時‥‥サクラシアの歌が終わる。 その時、ようやく会場に着いたマナが、体育館の扉を大きく開け放った。 「ふんふふんふん☆ 駆馬お兄ちゃん、来たよぉ〜って‥‥あ、あれ?」 マナは体育館の中を見渡して呆然とした。 誰も彼も焦点の合わぬ目をして、グッタリと倒れ込んでいる。 「感動の力が吸われちゃってる‥‥これ、貴方のせい!?」 マナは、舞台上でただ一人佇んでいるサクラシアに鋭い視線を向けた。その視線を受け流し、サクラシアはにこやかに笑う。 「その通りです。マジカル☆マナさん」 「! あたしの正体を知ってるって事は‥‥」 「はい。私は、アレフ・ヌル様にお仕えする魔法少女‥‥サクラシアと申します」 穏やかとさえ言える挨拶。だが、そこに見えるのは静かな敵意。その時、 「マナ! マジカル☆マナに変身だ!」 それは、体育館入り口脇に置いてあったゴミ箱から突然飛び出た、マナのお付き、ちゅてま。 ちゅてまは何故そこにいたのかは語らぬまま、魔法のステッキを差し出す。 「OK! まっかせといて!」 マナは、当たり前のように魔法のステッキを受け取り、それを振って変身の魔法を使った。 「スターミラージュ・トリック! マジカルチェーーンジ!!」 突然、マナの身体を魔法のピンクの光が包む。 その不思議な光の中で、マナの着ていた制服が光に溶け、一部の人間が驚喜するであろうお子様な姿をちょっぴり見せた後、マジカル☆マナの衣装‥‥ミニスカートの如何にも魔法少女な衣装がマナの身体を包む。 そして次の瞬間、鳴り響くファンファーレと共にマジカル☆マナの勇姿が現れた。 「魔法少女マジカル☆マナ! 変身完了!」 ステッキを高く掲げ、空いている手の人差し指を頬に添えて小首を傾げる可愛く媚びたポーズをとって変身完了。そして、すぐに体育館のステージめがけて走り出す。 「アストロハンマー!」 マナが魔法のステッキをクルリと回すと、それがハンマーの形に変わった。見た目はピコピコハンマーに似ているが、それはマジカル☆マナの超強力な武器(自称)だ。 マナはそれを手に、サクラシアめがけて駆け‥‥そして跳躍。一気にステージ上まで飛ぶと、アストロハンマーを振り下ろした。 しかしサクラシアは、そんなマナを余裕の面持ちで見つめている。そして、 「‥‥ハウリングヴォイス」 マイクを手にサクラシアが歌をうたう。その途端、辺りに酷いハウリング音が響きわたった。 「いやぁっ! やめて、やめて、やめてぇ!」 耳から脳味噌を掘削されるような感覚にマナは空中でバランスを崩し、サクラシアのすぐ手前に落下。そのまま、耳を押さえてその場をゴロゴロと転げ回る。その手から落ちたアストロハンマーが、元の魔法のステッキに戻った。 マジカル☆マナ同様ちゅてまも、体育館入り口の辺りで、耳も無い筈なのに耳の辺りを押さえて苦しんでいる。だが、ちゅてまは苦痛に耐えて叫んだ。 「マ、マジカル☆マナ! こうなったら、必殺技だぁ!」 「う、うん‥‥」 マジカル☆マナは、気力を振り絞って魔法のステッキを掴む。それを見、サクラシアは何か期待しているような表情を浮かべ、歌を止めた。 その隙に、マジカル☆マナはコロコロ転がってサクラシアから離れ、そして立ち上がる。 「絶好のチャーンス!」 サクラシアが余裕でくれたチャンスだと言う事には欠片も気付かないまま、マジカル☆マナは必殺技の為にステッキを構えた。 「集まれ! 感動の力!」 言葉と共に、感動を呼ぶ魔法の力がマジカル☆マナの内から溢れてくる。それを、魔法のステッキに蓄積し‥‥一気に解き放つ。 「スタァァァミラァァァァジュッ!」 魔法の力がピンク色の真ん丸い玉になり、サクラシアめがけて真っ直ぐに飛んだ。 しかし、サクラシアは笑顔のまま‥‥ 「ヒルベルトクラック」 マイクを振るサクラシアの目の前の空間が歪み、漆黒の炎で出来た魔法陣が浮かび上がる。 直後、魔法陣は強力無比な闇の魔力を撃ち出した。それはマジカル☆マナの放った感動魔法スターミラージュと空中で衝突し、いとも容易くそれを掻き消す。 その上で、欠片ほども勢いを殺すことなく、マジカル☆マナめがけて闇の魔力は飛んできた。 「うきゃああああぁっ!」 慌てて飛び退くマジカル☆マナ。 そして、背後にあった舞台セットが闇の魔法の直撃を受け、木っ端微塵に吹き飛ぶ。 「スターミラージュが簡単に返された!?」 ちゅてまが信じられないと言った声を上げた。 マジカル☆マナも、さすがにピンチな雰囲気を感じ、サクラシアを引きつった笑みで見る。 「ず‥‥ずるい。必殺技で死なないなんて」 「マジカル☆マナ。貴方の魔法は所詮はお遊びなんです‥‥これが本当の魔法」 ‥‥サクラシアは静かに微笑みながら、マジカル☆マナにマイクを突きつける。 「お休みなさいマジカル☆マナ‥‥鎮魂歌を歌ってさしあげますわ」 とどめ‥‥そのつもりでサクラシアは再び魔力を集める。どうしようもないマジカル☆マナ。 だがその時、誰かがマジカル☆マナを庇って立ちふさがった。 「や、やめるんだ!」 「あ、お兄ちゃ‥‥じゃなくて駆馬さん!?」 それは、感動の力を吸い取られてヘロヘロになっている駆馬だった。彼は、何かが出来るはずもない事はわかりきっている筈なのに、マジカル☆マナを庇うように前に立つ。 「‥‥マジカル☆マナ。今の内に逃げて」 「え? ありがとう☆ じゃ、早速‥‥」 「って、そんなわけにいかないでしょ!」 マジカル☆マナはニッコリと微笑む。その頭に、いつの間にか寄ってきていたちゅてまが、ぷよぷよした手でツッコミを入れた。 「マジカル☆マナは正義の魔法少女でしょ?」 「そ、そだね。って、わけで‥‥駆馬さん! そんな事出来ないわ!」 「‥‥白々しいよマジカル☆マナ」 献身的行動があんまり報われたような気がしなくて、滂沱と涙を流す駆馬。 サクラシアはそんな一連のおちゃらけを気にもとめず、駆馬に微笑みかける。 「どうでも良いですわ。貴方も一緒に‥‥」 躊躇せずにもう一度ヒルベルトクラックを叩きつけようと魔力を集める‥‥だがその時、何かがサクラシアの心の中で疼いた。 「‥‥何? どうして」 疼きは次第に熱い痛みへと変わり、サクラシアはその場に膝を折る。 「えっと‥‥」 突然の状況の変化に戸惑うマナ。 「危ないわマジカル☆マナ!」 その時、何だかズゴンと凄い音がして、ステージに巨大なヒマワリが突き刺さった。 刺さったのは、何やら苦しげにしているサクラシアから離れた位置‥‥それに駆馬だけが思いっ切り巻き込まれ、吹き飛んでいた。 マナは、壁に頭を打ち付けて気絶している駆馬を見て引きつった笑みを浮かべ、そしてヒマワリが飛んできた方向へ視線を向ける。 見上げる先にいる者それは‥‥体育館の窓の辺りに微動だにせず立つ、筋骨隆々の巨体を無理に黒装束に詰め込んだ黒子。 「宇宙黒子! 何しに来たの!」 「ここは感謝するところでしょう? これだから、マジカル☆マナは3流の魔法少女なのよ」 野太いオカマ口調でぶちぶち言いながら、謎のお助け人の宇宙黒子は、舞台の方を指さす。 「さ、私の創ったチャンスを無駄にしないで! 貴方の本当の力を見せて上げるのよ!」 「‥‥OK、本当の力ね!」 マジカル☆マナは、宇宙黒子が何らこのチャンスとやらに貢献していない所か駆馬の事を考えると事態を悪化させただけじゃないだろうかとも思う事にはとりあえず目を瞑り、魔法のステッキを構える。 「‥‥掟破りの二発目必殺技! スタァァァミラァァァァジュッ!!」 本日2発目の必殺魔法スターミラージュが飛ぶ。1発目で殺してないのだから、もはや必殺でも何でもないのだが、それは無防備で佇むサクラシアに真っ直ぐに突っ込んでいく。 一瞬の間の後にサクラシアはそれに気付くが、もはや何もする事が出来ず、ピンク色の真ん丸い魔法の力の中に呑まれてしまった。 「良し! 大勝利!」 マジカル☆マナの歓声。だが、 「‥‥待って! まだだマジカル☆マナ!」 ちゅてまが異変に気付いた。 本当なら綺麗に弾けて消えるはずの魔法の力が、まだサクラシアの所に止まっている。 そしてそれは、一人の男の掌の上に、一瞬の内に収縮して消えた。 「‥‥大丈夫ですか?」 男はサクラシアの手を取り彼女を助け起こす。サクラシアは頬を染め、嬉しげに目を細めた。 「はい‥‥アレフ・ヌルさま。申し訳ありません。私‥‥」 サクラシアのその答に満足したかのようにアレフ・ヌルは頷き、そして疲弊し‥‥何より意気消沈してしまっている彼女を抱きかかえる。 そして、マジカル☆マナを一瞥して言った。 「今日はここまでにしておきましょう。近い内に‥‥また、お目にかかれる日を楽しみに」 「待ちなさいアレフ・ヌル!」 待てと言われて待たぬが粋人‥‥と言うわけでもないが、アレフ・ヌルはサクラシアごと自らの影の中に消える。 その途端、倒れていた皆の所にキラキラと光の雨‥‥奪われていた感動の力が降った。 「むぅ〜‥‥何か勝った気しない」 余裕を見せつけられたかのようで、マジカル☆マナは頬を膨らませる。その肩を、すっかり忘れていた宇宙黒子がポンポン叩いた。 「マジカル☆マナ。それより、みんなが起きるわよ? 逃げた方が良いんじゃないの?」 「? 何で‥‥」 良くわかっていないマジカル☆マナに、宇宙黒子は周りの様子を指し示す。マジカル☆マナはそれを見‥‥表情を強ばらせた。 「あ‥‥じゃ、大勝利って事で‥‥」 マジカル☆マナは、何故か難しい顔をしているちゅてまを掴んで、後も見ずに逃げ出す。それと同時に、宇宙黒子もどこかへ逃げていった。 ややあって‥‥感動の力が戻った皆が、ようやく立ち上がる。そして見た。 「ああああああああ! 舞台がぁ!」 吹き飛んだ舞台セット。ステージ中央に突き刺さった巨大ヒマワリ。 「こ、これじゃ、練習どころか本番も‥‥」 七瀬は真っ白になって崩れ去っていった。
「‥‥はっ! え!?」 「おはよう、芳野君」 目が覚めた駆馬は、何か柔らかな物を枕にしている事と、すぐ目の前にある桜子の笑顔とに、二重に驚いた。 見回せば体育館を出てすぐの校庭。駆馬の頭の下にあるのは‥‥きちんと正座した桜子の足。 駆馬は、桜子に膝枕をしてもらっていた。 「な、な、な、な、何で」 「気が付いたら、ステージの横で芳野君が寝てましたから‥‥お芝居の練習の邪魔になってはと思って、ここまで連れてきたんです」 ニッコリ笑う桜子。ちなみに、膝枕をしてあげたのは、固い地面の上に直接寝たのではと気を利かしただけであり、他意はない。罪な事に。 駆馬は耳まで真っ赤にして言葉を失っている。ひょっとすると、また気絶したのかも知れない。 桜子はずっと膝枕をし続けてくれた‥‥舞台再構築に焦る演劇部員達が二人を発見し、芳野を地獄の強制労働に駆り出していくその時まで。
●アストロランド 光に満ちた世界。魔法の国アストロランド。 そこに浮かぶ、アストロランドの女王、天乃霊気の城。不思議な事にそれは、ティアマトの魔城を鏡に映したかの様な姿をしている。陰と陽の対比‥‥光と影の関係。だが魔城と違い、その白亜の城は荘厳な美しさを誇っていた。 その中、貴重な魔法道具が一杯に納められたアストロランド一の超重要施設とは思えない程に何だかファンシーなグッズで埋め尽くされた部屋があった。 その中央、巨大なパラボラアンテナにも見えるバナッハ=タルスキ分割式増幅魔法塔がそびえ立っている。ちなみに、バナッハ=タルスキ分割式増幅魔法塔に感動の力が満ちた時、世界を救う究極魔法が発動するとかしないとか‥‥ マジカル☆マナは、未だ影も見えない世界の危機に備えるため、本当にあるのかわからない究極魔法を発動させるべく活躍しているのだ。 知らないと言う事は素晴らしい事である。 ともかく、そのバナッハ=タルスキ分割式増幅魔法塔の傍ら、煌びやかなドレスを身に纏った、まだ顔に雀斑の残る金髪娘、マテリアル・サブスタンスがちょこんと座っていた。彼女は、マジカル☆マナの活躍を見守る‥‥別に言えば監視装置である水晶球を覗き込みながら微笑む。 「うーん、タマちゃん。今日もマジカル☆マナは凄いねぇ。ピンチでハラハラしたけど、また大勝利だよ」 そう言うマティの仕事は、魔法少女マジカル☆マナのサポートと集まった感動の力の管理の筈なのだが、ノリは殆どテレビ鑑賞。そして、ふと思い出したかのようにマティは言った。 「でも、悪い魔法少女なんて‥‥マジカル☆マナは大丈夫かな?」 「大丈夫ですよ。きっと」 肩で切りそろえたショートヘアの娘が答える。彼女こそが女王、天乃霊気。マティのそれよりずっと簡素なドレスを身に纏った彼女の物静かな物腰は、女王と言うよりもどこかの令嬢のようにしか見えない。 そんな彼女に、マティは親友の気安さで言う。 「そうだよね。マジカル☆マナは負けないよね。何せ、正義の魔法少女なんだし☆」 「‥‥そうですね」 喜色満面で微笑むマティの前で、天乃は何処か寂しそうに答える。時折見せるこの表情に、マティは全く気付いていない様だった。
●ティアマト 「失敗だった様だな‥‥」 闇の中、マスター・ゼロが呟く。アレフ・ヌルは反抗的な笑顔で、肩をすくめて見せた。 「始まったばかりですよ」 「でも‥‥失敗だった事には変わらないわ」 少し嘲るようなレナ・ウィンディの声。だが、アレフ・ヌルの表情は変わらない。 「まだ、心の底が闇に冒されていなかっただけの事。心が完全に闇に染まれば、私のサクラシアはもっと強くなりますよ」 「でも、今度は私の番‥‥アレフ・ヌル、貴方は貴方の魔法少女と遊んでなさい」 言い返し、レナ・ウィンディが妖艶に微笑む。 「もう貴方の出番はないわよ」
●魔法少女は眠れない 「疲れた〜‥‥寝る〜」 逃げるように家に帰ってきたマナは、自分の部屋に入るなりベッドに飛び込んだ。 昨夜の夜更かし、サクラシアと対決、最後の大逃走と来て、元気印のマナもエネルギー切れ。くちゃんとベッドの上で萎びるマナ‥‥だが、その頭の上にちゅてまが飛び乗った。 「マナ! 特訓だよ!」 「ど、どうして!? 今日も勝ったじゃん!」 「それは、何だかわからないけど、悪い魔法少女が動けなくなったからでしょ? 多分、次に会ったら勝てないよ」 二夜続けての特訓という事態を避けるべく抗弁するマナに、ちゅてまは正論を吐く。だが、 「ぐぅ‥‥☆」 いつの間にやら、きっちり布団に潜り込んでわざとらしいいびきを立てるマナ。 「マナ! 寝たふりしてもダメだからね!」 「ぐ‥‥ぐぅ」 怒り心頭のちゅてまに頬を引っ張られて変な顔になっても、マナは頑なに寝たふりを続ける。 そして‥‥今夜も魔法少女は眠れない。
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