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クリエイター名 |
夙川 |
地球ちゃん
久しぶりに会いに行くと、地球ちゃんは酷く苛々していたように見えた。 「あれ、地球ちゃん。何か嫌なことでもあった」 僕がそう尋ねると、地球ちゃんはアクセサリできらきらと輝く、流れるような緑の黒髪を揺らして僕の方を振り向いた。 他の星にはないそのアクセサリは電灯と言って地球ちゃんを飾るために、住んでいる生き物がごてごてと付け続けているって確か前に来たときに言ってたっけ。 太陽の光を体中に受けるその姿は、土気色とかガスや炎の色で彩るのが多い中で相変わらず鮮烈な青と緑が眩しく、そして白とのコントラストが綺麗だった。 「あら彗星くん、久しぶりだね――」 「そうだね、兄弟たちから話は聞いていたけど随分と久しぶりになるね」 それで、と僕は続けた。 「――どうしてそんなに苛々してるの?」 僕は尾を振りながら、気になっていたそれを尋ねた。 前に来たときは、それはもう嬉しそうに住んでいる生き物たちのことを話していたはずだ。 新しい種が産まれたよとか、大きな石造りのアクセサリを作ってくれたんだよとか、地球ちゃんの生き物びいきは昔からそれはもう凄かったけど、ここ最近一気にそれが増えたとかで地球ちゃんの話すことはそればっかりだった。 「それがね。最近住んでる子達の事がちょっとわかんなくなっちゃってさ」 「電灯、また増えたんじゃない? 綺麗だったよ」 僕はそう言って自慢のアクセサリを褒めた、確かに前に来たときとは比べ物にならなく明るくそして数多く散りばめられていたからだ。 「ありがと、でもこれ見てよ」 そう言って、地球ちゃんが纏っている薄布をちらとずらして、すらりとした足を見せるとそこにはじゅくじゅくとした治り掛けのような傷跡が見えていた。 僕は絶句してそれを凝視した。 「これ、は……」 「太陽さんの真似事をしてさ、私の体の上で爆発させたの――いっぱい死んだんだよ」 そっと傷跡を癒すように撫でると、痛みが走ったのかその顔を苦痛に歪ませた。 目の端にはうっすらと涙を浮かべている。 太陽さんはこの辺りの星を束ねる地区長で、文字通りこの周辺の地区を照らし続けている存在だ。 かく言う僕も、この後太陽さんの近くを挨拶がてらぐるりと回って次の旅行に出るつもりだったりする。 地球ちゃんやそこに間借りしている生き物にとっては、ただ照らしてくれている存在というだけではなくもっと大事らしくて、間借りして住んでいる生き物はどれもこの太陽さんの光がなければ死んでしまうらしい――そうなってしまえば、地球ちゃんも酷く悲しむだろう。 確かちょっと前にも、何かの拍子に地球ちゃんの薄布に色をつけた奴がいたけど、生き物がたくさん死んじゃったよって泣きつかれて困っていたっけ。 「――随分酷いことをするんだねぇ」 地球ちゃんはかぶりを振って答えた。 「これでも随分治ってきたし、住んでる子達もそれからはやらなくなったよ。だからこれはもういいんだ。今問題なのはこっちの方なの」 そう言って地球ちゃんは摘んだ薄布をひらひらと揺らした。 「色を付けられた訳じゃないみたいだし、それがどうかしたの」 「いやそれがね、昔の私ってこの服がとても分厚かったのまだ覚えてる」 ああ、と僕は手を叩いた。 本当にずいぶん昔の事だけど、確かにその頃はもっと分厚くて暖かそうだった。 「ここまで薄くするのに、たくさんの時間掛けてるの知らないのかなぁ。太陽さんの光だけじゃ物足りないらしくて、自分たちでエネルギーを作る時に出すガスでまたちょっとずつ厚くなってるんだよね」 「んー、まだ見た目にはそんなに変化無いと思うよ」 僕がそう言うと、地球ちゃんは困ったように笑った。 「そうなんだよね、だからあんまり気が付いて貰えないんだけど。見た目で分かっちゃうような時には手遅れなのにね」 「なんか兆しとかあれば分かってもらえるのにね」 僕がそういうと、地球ちゃんは腰の辺りを指差した、薄布の向こうにはここからでも見えるような大きな白い渦があった。 「私が厚着しちゃうとさ、太陽さんのエネルギーを貰いすぎてどこかでこうやって出過ぎたりしちゃうの。やっとそこに気がつきはじめてくれたみたいなんだけど」 「大変なんだね」 僕はしみじみと呟いた。 地球ちゃんは、はぁ、とため息をつきながら続けた。 「ううん、なんだかんだで私はこの子達好きなんだよね、ごめんね彗星くん愚痴ばっかり言って。聞いてもらったら少し楽になったよ」 「うん、それじゃそろそろ行くね」 と、僕は頷いて地球ちゃんのすぐ傍を通って行く。 氷の欠片で出来た尾を、置き土産代わりに一筋だけ残し、僕は虚空を進み行く。 「また来てねー」 そういう地球ちゃんの後姿を横目でチラと眺めると、きらきらと光るアクセサリがたくさん付いていて綺麗だった。 太陽さんから離れる気のない地球ちゃんは知らないだろうけど、僕の知る限り地球ちゃんみたいな星を僕は他に知らない。
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