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クリエイター名 |
志岐 |
サンプル
「おめでとう!」 「お幸せに!」 数々の賛辞と祝詞を浴びて、チャペルからでてきた女性は口元を綻ばせた。 そんな彼女を、隣に立つ男性がそっと抱き寄せ。耳元に何か囁きかけ、肩を抱いた。 そんなありふれた結婚式の風景。
その光景は平凡で、しかし、非凡だった。
ライスシャワーを浴びせている参列者の何人かは、微妙にその場にそぐわない表情を浮かべ。 あたりを見回しているものもいる。 そんな不穏さを込めたまま、いよいよブーケトスに移る。 幸せそうな。という形容がぴったりの笑顔を浮かべ。花嫁は背中を向け、勢いよくブーケを投げた。 キャーッ! と、参列した女性たちの間から歓声が沸き、集団が手を伸ばす。 花嫁は3つブーケを投げた。 一つは今まで手にしていた、カラー。 もう一つは、白いガーベラ。 そしてもう一つは。
白い、薔薇。
――ウェディング・デイ
青空に吸い込まれるように、高く高く。 この時期には、珍しい品種のブーケは何も知らない幸運な少女に受け止められた。 「わぁ! お姉ちゃん! ありがとう!」 「よかったわねぇ、千沙ちゃん」 本当に。と、周囲と同じ笑顔を浮かべ、花嫁は言った。 「ちぃちゃん。きっと素敵な花嫁さんになれるわよ」
『私と、違ってね』
口にしないその続きに、気づいたのはほんの数名。 彼らは、花嫁を。 哀れむように、蔑むように、怒っているように、悲しんでいるように、称えるように。 表面だけの微笑を浮かべて、見ていた。
§
「アンタさ、アイツ傷つけてるって自覚ある?」 真っ白なブーケを届けにきた宅配業者のユニフォームをきた男性は、開口一番そういった。 この男には覚えがある。――そう、確か。『彼』の親友だ。名前は、良一。 「あろうとなかろうと。あなたの仕事には関係ないんじゃない?」 何時までも送り状を差し出さない良一に、手を伸ばすと私は言った。 「……ッ!」 伸ばした手に叩きつけるように送り状を置き、早口で決まり文句を口にする。 「高柳 千鶴様でございますね! こちらに受け取りのサインをお願いいたします!! 本日は、誠におめでとうございます!」 「おめでとう。なんて思ってる顔じゃないわね」 「当たり前だろ! アイツを傷つけて幸せになる女にどうやったら祝いなんて言えるかよっ!」 「お客様に向かってなんて言いざまかしら、クレームつけるわよ」 「やってみろ……!」 「やらないわよ、馬鹿馬鹿しい」 読み易いようにサインをして、ペンと一緒に良一に突き出し。私は笑う。 何とでも言うといい。 「……アイツもアイツだ。なんでアンタみたいな性悪に!!」 「やさしいのよ。可哀想に」 「テメェが言うなっ!」 確かに、普通の男性ならこんなことはしないだろう。 つまり、彼は良くも悪くも普通ではないと言うことだ。 お人よしなんて言葉じゃ片付けられないほど、やさしい人。 「気に食わねぇけどな、アイツから伝言だよ……『君の幸せを祈ります』だとさ!」 「……『ありがとう』って伝えて頂戴」 薔薇の名前はWeddingDay という。ぱっと見、バラにはほとんど見えないがバラである。 このシーズンに手に入れるのはきつかったのではないだろうか。 本来、このバラは3〜4月に出荷されるのに。 「高柳、お前は後悔しないんだな?」 ブーケを抱いたまま、ボンヤリと考えていた私に、良一はドアノブに手をかけたまま。 私に背を向けたまま、言った。 「後悔? してるわよ、もちろん」 バッと振り返った良一に、私は笑った。
「もっと傷つけてやればよかった。って」
バンッ!!
「堪え性がない男は損をするって、いい加減に覚えないのかしら……」 私の呟きを、ドアの悲鳴を。 歴史あるこのチャペルは吸い込んだ。
§
「それでは、新郎新婦の入場です!」 ドアの向こう側から、司会者の声が薄く聞こえる。 「よろしいですか?」 新郎新婦に式場のマネージャーは低く尋ねた。 二人はそっと視線を交わし、互いに微笑むとマネージャーに頷く。 「では、行きます」 新郎新婦の背後でドライアイスが投入され、一気に白いスモークが湧き上がる。 絶妙のタイミングでドアが開けられ、披露宴の出席者の拍手が二人を包み、祝福する。 「どうぞ皆様。盛大な拍手を!」 司会者の声にあわせて、深く礼をすると。 キャンドルサービスが始まった。
「おめでと〜」 「よかったなぁ、文俊。こんな綺麗な嫁さんもらえて」 「ばーか、お前とは違うんだよ。な? フミ!」 やめろよー。と新郎はくすぐったそうに笑う。 このテーブルは彼の大学以前からの友人ばかりで、その分フランクに話しかけ、写真を撮っていく。 次のテーブルは大学時代の恩師、その次は……と、新郎側を回ったのち。 新婦側のテーブルに、腕を組んだまま歩を進める。 『私には、彼のような友人は居ないわね』 と、新婦は思いながら。
「おめでとうございます。千鶴様」「奥様が生きてらっしゃったら、どれだけお喜びに成られたことか……」 「千鶴姉さま、とてもお綺麗だわ……」「君の父上にお見せしたいね」 いくつもの言葉が、心の表面を撫ぜていく。 彼女の気質と通っていた小中高のせいで、フランクに話し合える友人がいない。 他人行儀にも聞こえる敬語の中に、それでも潜む祝祭の気配。 新郎も驚くことはない。彼も似たような家の出身だからだ。 只、違うのは。
彼の実家は未だ隆盛を誇り。彼女の実家は斜陽だというだけ。
§
「あ、ごめんなさい」 「いえっ。大丈夫ですか!?」 彼と私が出会ったのは、新歓コンパでだった。 無論、彼は私のことなど知る由もなく。私がよろけて彼にしがみついたのも、偶然だと思ったようだった。 「ええ、少し酔いが回ったみたい。お酒、あまり飲んだことがなくて……」 「座って休憩されたらいいですよ。あ、フルーツジュース飲みます? 明日が楽ですよ」 居酒屋の出入り口に近い木のベンチに私は腰掛け、彼は横に座ろうか逡巡し、結局そのまま立って話を続けた。 「どうぞ、お座りになったら?」 「すいません。それじゃ、失礼して」 私との間に一人半の空間を開けて、彼は座った。 その空間の取り方は、彼の心根を表しているようで微笑ましく、私はそれを素直に表に出した。 「やさしいんですね」 その瞬間。彼は火を噴いたように真っ赤になった。
これで、充分だった。 彼のことは調べてあった。 趣味・嗜好・交友関係・異性関係・トラウマ・過去の出来事・褒章…… ほとんど女性らしい女性と付き合ったことのない彼を、落とすのに時間はかからないのはわかっていた。 私は蜘蛛のように、網を張っているだけ。 引っかかった彼という蝶を、どうするか。 それは、この瞬間に選択できた。
――友人で終わるか。恋人になるか。
それからしばらくして。 彼に告白されて私たちは付き合いだした。
そして私は、ほぼ同じ頃。 文俊さんとお見合いをした。
閨閥を築くことは、私の一族にとって。そして、私にとっても大事なことだった。 すべて、『あの日』に考えた絵図のまま。何一つ狂うことなく進んでいた。
§
披露宴は粛々と進む。 殴りこみか「青春」ごっこでもしに来るかと思っていただけに、私は退屈していた。 昔から行事ごとに付き物の、くだらなく長いスピーチが嫌いだったせいもある。 「ふぁ」 「文俊さん。はしたない」 「眠くなってきた……伯父さん、異常に話し長いからな」 「……今からそんなことでどうするの? この後、ウチの学部長の挨拶だって控えてるわ」 「ベルでも買って来ればよかったな」 「弁論大会じゃないんだから」 ひそひそと話をしながら、薄暗闇の向こう側にあるテーブル席に目をやる。 そのテーブルは、私が大学に入ってから得た友人たちが座っている……はずだった。 残念ながら誰もつくことのない、そのテーブルは会場の隅に目立たぬよう追いやられていた。 「用意しただけ、無駄になったわ」 「……本当にいいんだな?」 「今更」 片付けられたテーブルは、全部で3つ。 それだけの友人を、私は一気に失ったのだ。 だけど。 「後悔なんてするわけ無いわ。……これは正当な復讐よ」 「怖いね」 「安心なさって、浮気しても怒らないから」 「そう頼むよ」 長いだけで大して意味のないスピーチが終わり、音だけは盛大な拍手が響く。 笑顔を浮かべて私と文俊さんは頭を下げる。 「でも、浮気相手を不幸にしたら許さないわ」 密やかに宣言すると、彼は驚いたように目を大きく開き、私より小さな声で言った。 「そこが君の面白いところだな」 彼を不幸のどん底に叩き落したくせに――文俊さんの言葉に私は笑った。 「アレのどこが不幸だと言うの?」
§
彼と付き合いだして半年もしたころ。千鶴は彼の親友から呼び出された。 「良一さん? 御用って何?」 「わかんねぇのかよ、アンタの胸に聞けよ!」 『――ああ、きたな』と、千鶴は覚悟を決めた。 まだまだ時間があると思っていたが……以外に早かった。
「何のことかしら? 私にはさっぱりわからないわ」 しらばっくれた返事に、良一はイラついたように傍らの木を殴りつけた。 「ばっくれてんじゃねーよっ! 何だよ、あの男! アンタ、慶介と付き合ってんじゃねーの!?」 「――ああ、文俊さんのこと」 「浮気か? 二股か? それとも、従兄弟か弟とでも言い訳するつもりかよ!」 「浮気と二股って、ほとんど一緒の意味よ。悪いけど」 千鶴は。風に煽られた髪の毛を、左手でかきあげながら冷めた口調で言う。 「……俺は」 「そういうことを言いたいんじゃない? 答えは自分で出してるじゃない。丸付けでもして欲しいの?」 遊びはここまで。 何処で見られたんだか。 千鶴は今までのデートコースを反芻する。 ホテルのレストラン、料亭、会員制のクラブ、タベルナ…… 国内にしろ海外にしろ、悪いが彼らのような一般庶民が入れない場所でデートしてきたのだが。 「付き合ってんだな、やっぱ」 「……一つ聞いていい? どこで私と文俊さんを見かけたの?」 「俺の質問に答えてねぇ」 「……付き合ってる。結婚を前提としてね。――ま、卒業と同時に結婚して海外生活ってところね」 「よく、慶介と付き合う気になったよな」 「私の質問に答えてくれる?」 アンフェアでしょ。と、軽くいう千鶴に、良一は眉間にしわを寄せ吐き捨てるように言った。 「ホテルのレストランだ。俺の先輩のコネでバイトに入ってたんだよ」 「そう」 「それで、何のつもりで慶介と付き合ったんだよ」 イライラした調子の良一を千鶴は鼻で笑った。 「あなたに関係ないでしょう? 私が誰と付き合おうと、SEXしようと」 「…………さいってーだな、オマエ」 「何とでも言えば?」 千鶴は冷たい目で良一を見た。 トリックを暴くのは慶介の前でと決めていたのに、なんてつまらない茶番でばれなくてはいけないのだろう。 そう思ったとたんに、無性に腹が立ってしょうがなくなっていた。 「カレに話す?」 「…………その必要はねぇよ」 「――――そういうこと」 良一がポケットから出したのは、古い型の携帯電話。 おそらく慶介の携帯につながっているのだろう。 「準備がよろしいことで」 「……なんで、慶介を裏切った?」 「……あなたには関係ないし、わからないわ」 「慶介ならわかるってのか?」 「そうね……ソレ、まだ繋がってる?」 千鶴は髪を押さえていない右手で、良一のもつ携帯を指す。 良一は通話状態を確認すると、千鶴を困惑を含んだ目で見た。 「慶介さん、なんでこんなことをしたのか。されたのか。――知りたかったら、己の胸に聞いてみなさい」 「わけわかんねーよ」 ソレはそうだろう、と千鶴は思う。もしかしなくても、慶介すらわからないだろう。 「ヒントをあげましょう……私は、昔は『高宮 千鶴』だったの」 あとは自分たちで考えなさい。と、千鶴はきびすを返した。
そして、その日以来。大学構内で彼女を見かけたものは居なくなった。
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来賓挨拶、友人代表挨拶、ケーキカット、キャンドルサービス…… 披露宴はいよいよクライマックスを迎える。 両親への花束贈呈。を最後に、この退屈な儀式も終わる。 「それでは、両家のご両親に新郎・新婦より花束贈呈です」 司会者の声にあわせて、私と文俊さんは立ち上がる。 お色直しの際に着た花嫁衣裳は、俯く私をどう見せているのだろう。 三枚重ねの着物の裾をけさばきながら、私はふと考えた。 白は純潔。黒は何者にも染まらないという意思。赤は、その家の繁栄。 この三色を身にまとった母ですら、幸せにはなれなかったのだ。
裏切りを重ねて、復讐を果たした私は。
幸せになることなどないのだろう。
「お義母さま……本日よりよろしくお願いいたします」 私は、白薔薇を彼女に渡す。本当に何も知らない彼女は、目にうっすらと涙を浮かべて嬉しそうに笑う。 「文俊をお願いね……」 「はい……」 私とお義母さまが感動の一場面をやっている間、文俊さんは私の後見人である叔父夫婦と話している。 ありがちな文言を聞いていると、心の内から何か、黒いものがわいてくる。
まだ、早いのに。
「それでは、新婦の千鶴様に感謝のお手紙を朗読していただきます」 司会者の声にハッとしながら、マイクを受け取ると用意した紙を開く。 ライトがまぶしくて、テーブルに座った人たちの表情が見えないが、構わずに一礼して読み出した。
「本日は、皆様。お忙しい中……」
パシャパシャというカメラのシャッター音を聞きつつ、私の意識は過去に溯っていった。
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「ちぃちゃん。……大学辞めるって本当?」 「……ここに来たということは、理由がわかったのね?」 歴史を感じる寺の裏、そこに千鶴の両親だけが眠る墓があった。 先祖代々の墓とは別に。これだけは彼女が我を通して、建立した。 御影石の、お世辞にも豪華と言えない墓に額ずく彼女は、一度も慶介を見ない。 「……父に、聞いた」 「そう」 中腰のまま、墓石を磨く手を休めずに千鶴は慶介の言葉を待つ。 最早、彼女は自分から声をかけることなどするつもりはなかった。 「すごく、驚いてた……頭抱えて、すごい、衝撃受けてた…………」 「だから?」 振り返り、千鶴は慶介を見た。 その目にかつて感じた愛情などかけらも無く、慶介は崩れるようにその場に膝を着き土下座をした。 「謝っても意味が無いってわかってる! 親父とお袋……それから、他の親戚とか、みんなを恨む気持ちもわかる! でも、しょうがなかったんだ!」 「貴方がそれを言うの?」 雑巾をバケツに入れ、揉み洗い、絞り。バケツを片手に立ち上がった千鶴は、何の容赦も無く、その中身を慶介に浴びせた。 「貴方のご両親が、当時どれだけ苦しい状態にあったかぐらい、調べはついてます。でも、やっていいことと悪いことってあるんじゃないかしら」 言葉をとぎらせ、慶介の反応を見つめる千鶴に、ためらいは無い。
「……母のお腹の中にはね。私の弟か妹が居たの…………あの日、それを始めて知ったわ」
千鶴は、思い出すように目を閉じた。
「あの日は私の誕生日で。忙しい父と母が珍しく私といっしょに夕食をとってくれた。それから、大事な話があるからってみんなでドライブにでたのよ」 「……その車には、僕の父が細工をしていたんだ」 「そうね。おかげで車は崖から転落して――私は奇跡的に投げ出されて助かったけれど、両親とお腹の中にいた家族はダメだった」 「……」 「しかも、誰の差し金か。事故じゃなく心中として処理されて……!」 「……それは、両親のせいじゃ!」 「そうね。それは、私の叔父たちの仕業……そして、裏で糸を引いていたのが誰かもわかってる」
それを聞いた慶介は、愕然としたように立ち上がり。千鶴の肩を掴んだ。
「知っているの……か! だったら、何故!」 「復讐よ」
うっとおしいと言うように肩を掴む手を払い。千鶴は本殿のほうに歩き出した。
「誰も彼も……みんな、許さない」 「君は、それでいいの? 君の両親はそんなこと……望んでないよ、絶対!」 「……じゃぁ。時効が成立したこの犯罪を、どうやって裁くの?」
これが最後、と千鶴は振り返り慶介を見つめる。 優しい人だと、データに見えないことがわかった交際期間。 彼ならば、もしかしたら私をこうやって止めるかもしれないと、感じていた。
ならば、それすら逆手に取ってやればいい。
「貴方にもし、償う気があるのなら――両親を殺して御覧なさいな」
苦しめばいい。 もう、誰も彼も。救われない地獄で、のた打ち回って。苦しみを味わう人生を送ればいい。 千鶴はもう。振り返ることは無かった。
§
「私の両親は、私が幼いころ亡くなってしまいました。ですが、そんな私を支え、守り立ててくれたのはここにいる、叔父夫婦です」
手紙はオーソドックスなものにした。死んだ両親への感謝、後見人の叔父夫婦への感謝。そして、これからは文俊さんの家と一つになって『高宮』をまた復興させる。
この内容に、列席している重役たちも満足したようだ。ざわめく気配は無い。 結婚式・披露宴は、恙無く終わった。
「お疲れ様でした、文俊さん」 「ああ、お疲れ様。どうする、この後」 「2次会? でるわよ、もちろん……むしろ、そっちの方が大事だわ」 「奥さんはやる気マンマンだねぇ」 「復興させるのは、一日でも早いほうがいいもの」 結婚衣裳を脱ぎ、好みのスーツに着替えた私はラウンジで文俊さんと打ち合わせをしていた。 2次会は、彼の友人たち――10年後には日本経済の中枢に食い込む人間――が中心となって構成されている。 この結婚の意味が「高宮の復興」にある以上、私が参加しないわけには行かない。
「でもさ、無理すんなよ?」 「……ええ、解ってますわ」 そっと、お腹に手を当てる。 ここに、命が芽生えている。
私の血を引く、大事な高宮の後継者が。
「しっかし、俺とお前の子供かぁ……どういう子になるんだか、想像つかねぇ」 「そうね……元気だったらいいわ」 「そうだな……ま、でもこれで俺も安泰か」
暢気に笑う文俊さんに、私は微笑みかける。 本心を気取られないために。
『この子は、私の子供』
――貴方の血を引いているとは、限らないのに。
「それにしても、あっけないわ」 「……そのくらいのほうが、かえっていいさ」
復讐劇をどうしてやったか。この人は知っている。それでもまだ、黙っている。 または、この人もまったく知らないのかもしれない。
『まだ、復讐は終わっていない』
慶介の両親を動かしたのは。 「親父、お袋。そろそろ俺たち行くな」 「お義母さま、お義父さま。それでは失礼いたします」 彼ら、文俊の両親。 それから。 「叔父様、本当に今まで有難う御座いました」 「千鶴さんは俺が幸せにしますから」 叔父達。
まだ、私の復讐は。
始まったばかり。
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