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クリエイター名 |
真神 ルナ |
変わらないもの
・短編小説「変わらないもの」
時は流れ 全てが少しずつ変わり行く 変わることよりも、変わらないことの方が大変で それでも願う どうか君だけは変わらないでと
変わらないもの
「じーんッ!こんな所で何してるの?」 「……葛葉……お前こそ、こんな所で何してんだよ」
日差しの心地よい、ある晴れの日の午後。間違いなく授業中であるその時間に、二人は学校の屋上に居た。 もちろん、授業はサボって…であるのだが。
「私?だって、こんな天気いいのに室内で勉強だなんて信じられないもの」 「あー…まぁ、たしかにそう言われればそうだけどな」 「でしょ?」
そう言って葛葉は笑った。その笑みに、"あぁ、コイツは変わらないな"…なんて少し爺くさいことを考えてみたりして。 いつもと変わらない、穏やかな時。
「今、何の授業だったんだ?」 「英語」 「それは…センコーもお前が居なくて安心してると思うぜ?」 「失礼ね」
そう言って葛葉は眉をひそめているけれど、実際英語教師が葛葉の成績のよさに授業がやりにくいとぼやいていたのを知っていた仁はただククッと意地悪く笑って見せるだけ。 フワリと風に巻き上げられる綺麗な黒髪がやけに彼女を艶やかに彩らせてみせる。
「面倒だからって逃げるのもいいけど、たまには授業に出てあげないと先生がかわいそうよ?」
クスリ、と悪戯に微笑んだ葛葉のその笑みがやけに綺麗に見えて…仁は思わず視線をそらした。 葛葉は?をうかべて仁の横顔を眺める。
「どしたの?仁」 「あー…何でもねぇよ」 「…ふーん…」
ゴロリ、と屋上に寝転がって見る空。自分の知る中でもっとも空に近いのはこの場所で。 仁は、この場所が大好きだった。
「そう言えば…お前ん家、今日親居ないんだって?」 「……ストーカー?」 「ちげぇよ。お袋のヤツが、家でメシ食えってさ」 「本当!?おばさまの作るご飯美味しいからなぁ…。楽しみだ!」
家が隣であり、幼馴染である二人が互いの家を行き来していたのは随分昔のこと。 今では、会うことすら少なくなってしまって。 寂しい…と思う辺り重症だと思うけれど、それもいいか…なんて苦笑してみる。
「変わってねぇなぁ」 「失礼ね!これでも大人になったのよ」 「自分で言うなよ…」
時は流れ、互いに少しずつ変わってきた。 だんだんと大人に近づいていく彼女に焦っているのも事実で。 だからこそ願う。それ以上、大人にならないでと。 君の、一番の理解者でありたいのに。
「そ・れ・に!昔からおばさまの手料理は絶品なんだもの!」 「食いモンの事ばっか言ってると太って取り返しのつかない事になるぜ?」 「うっわ、何?そんなコト言うのはこの口!?」 「!?あだだだだっ…!!はにゃひぇっ…!(離せっ…!)」
ぎゅむっと摘まれて赤くなった頬を摩りながら、ひと睨み。 もちろん、葛葉がそんなもので怖気付くほど可愛らしい性格をしていない事は知っているけれど。
「イッテー…」 「自業自得です!」
"キーンコーン…" 鳴り響くチャイムの音が授業の終わりを告げる。途端に、騒がしくなる校舎。 自分だけが彼女を特別に想っているわけではなくて…ライバルが多い事も知っているし、焦ってもいる。 居心地のよいこの関係を崩したくないなんて知られたら、"らしくない"笑われるのだろうけど。 それでも、彼女は当たり前のように自分の傍に居てくれるから。だから、もう少し。
「あーあ。仁のせいでゆっくりできなかったじゃない」 「俺のせいかよ」 「しょうがない、ジュース一本で許してあげよう!」 「………オイ」
今はまだ、このままで。
「えー?」 「何で俺がお前に奢ってやんなきゃなんねぇんだよ」 「可愛い幼馴染の頼みでしょ?」 「ツッコミ所満載のセリフだなぁ、オイ」
いつか、君に伝えられるその時までは。もうしこしだけ、この関係のままで居たい。 いままでも、そして願わくはこれからも。 暖かな君の近くに居られるように。
「……はぁ。諦めてあげよう」 「そりゃどーも」 「ほら、戻ろう?次の授業始まっちゃう」 「………」
この先も、つないだ手が離れない事を願って。 いつかきっと伝えるから。
"君の事が好きです"と。
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