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クリエイター名  ひだりの
猟奇風

青年は少年に連れられ、古い石畳の通りに遣ってきた。
丁度時刻は夕方で、白い石畳と家々の壁は赤く染まっている。


「ここが赤のクレイマン通り。」
「へえ、夕日がきれいだなあ。良い所じゃあないか。」
「夕方はね。」


青年の夕日に見蕩れて言った言葉を、赤髪の少年は肩を竦めて
軽く流した後に少年も夕日へと目を向けた。
それから数秒後に青年へと目を向ければ興味深げに
景色を眺めている。帽子の鍔の影が落ち、目元はあまりよくは見えないが
何を思ったか少年は眉根を寄せ、かかとを上げて
背伸びをすれば青年の肩を叩き


「おじさん、夜は出歩いちゃダメなんだ」
「…どうして」


ようやっと少年の方へと、顔を向けた青年は
少年の言葉に不思議そうな表情で問い返した。
少年は背伸びをしたままに、青年の耳元へと手と口元を寄せて


「赤い殺し屋貴婦人が出るんだよ。」


内緒話のように小さな声で言った言葉には
青年は、それは知っていると言わんばかりに曖昧に笑うだけだった。
青年の金髪は、日に照らされてオレンジ色に見えた。




赤のクレイマン通り 16番地




赤く染まったクレイマン通り、16番地、細い路地を
右へ左へと曲がった場所に小さい看板がぶら下がっている。


『RED』


中からジャズピアノの曲調が零れてくる。落ち着いた雰囲気の曲だ。
カウンター席が4つ、テーブル席が9つと小さな店。
照明は少し落とされており、夕焼けが空に滲む空の赤色が眩しい。
客も常連以外は余り来ないらしい、今日も客が一人だけ。
その客はカウンター席の、奥から二番目の席に座って
ブラックコーヒーを静かに飲んでいる。
赤い服を身に纏った、貴婦人らしいきっちり揃えたボブの黒髪。


「クレイマン通りに、新しい住人が増えたそうですのね。」


客の唇は真っ赤な口紅で彩られていた。
その言葉を聞いて、先程から黙々とグラスに
ついた水滴を拭いていた店主が顔を上げ


「何でも、記者さんらしいという噂を聞きましたがね。」
「こんな何も無い所の、何を取材するのでしょうねえ。」


一言返せば再度顔を俯かせてグラスを拭きだした。
次に言われる貴婦人の言葉を聞きながらも、手際の良い手は止まらせる事無く
グラスを次々に拭いていく。あと少しといった所で再度顔を上げて


「クレイマン通りの夕焼けは、絶品ですからな。もしくは…」
「もしくは」


置いた店主の言葉を復唱してみれば、黒髪の女は笑っている。


「赤の貴婦人、でしょうなあ。」


復唱されれば促すように言って、それから後にまたグラスを拭き出し最後の一個。
婦人はその言葉には少し笑ったのみで、傍に置いてあった新聞を広げて読み出した。




今日もさして何の変わりもなく、いつもの夕闇が通りを包んでいった。


ただ、夜になると雲が出た。雨は降りはしないほどの薄い雲だ。
月を覆う。少しばかり欠けた月が赤く染まった。
空の上では風があるのか、雲の流れも速い。
その月光の恩恵を受けて、薄く延びる影が一つ。
鋭い切っ先を持った物を手にしている。それの先端から雫が何滴か零れた。
足元には、月光を湿り気を帯びた光りが反射する物体がある。


「イマジネーションが沸きませんわね。」


言ったその声は落ち着きのある婦人のようだ。きっちり揃えられた髪が揺れる。
それは襟首にまでは届かない、黒髪のボブが少し乱れたのを軽く手櫛で直す。
落ち着いた品のある声で呟く彼女の目線は足元の物体に注がれている。
詰まらなさそうに、その物体を蹴り上げれば
水音を立ててごろごろと転がる。その影に四肢のような物が有るのが見えた。

人間か。


「…この通りで人を殺しすぎてしまったかしら。」


言い放つ言葉に熱は無い、簡単に言ってのければ目線を巡らし
目の端に映る物もドブネズミほどしか居ないか。
落胆するように息を吐くも、己の影に誰かの影が重なっている。
それでも、婦人は後ろを振り返らない。ただ少し斜めに顔を構えるだけで


「何か御用でしょうか?」


振り返らずに、落ち着き払った声音で背後に居る人物に問いかける。
背後の人物はキャスケットの鍔を軽く弄って目深に被りなおした。
目元は暗く、夜のお陰もあって全く見えない。


「やあ、赤の貴婦人さんに、ちょっと…取材を申し出ようと思ってね。」


背後の人物は薄く笑った。其れに釣られた様に貴婦人も笑う。
婦人の肩が揺れれば、耳元までの艶やかな黒い髪も揺れて。

その拍子か。

婦人の手にした鋭い切っ先は空を切り裂き、先ほどの獲物を仕留めた
異物がこびり付いたブレイドを背後の人物の首元に叩きつける。
水音がした。婦人の口元は弓なりに反って、首元を赤いマフラーしたかのような
青年を上目で見遣る。


「その取材、お断り致しますわ。」


そう告げて後に、婦人は青年の首に食い込む物を引き抜いた。
月光に照らされて其れがナイフだというのが判る。
それは、血に濡れて黒く光っていた。
婦人は仕事を終えたように清々しい表情で、踵を返し
ヒールの音をコツコツ、高鳴らせながら通りの石畳を数歩歩む。
ヒールの音が止む、足を留めたままにしていれば
聞こえてくる、婦人以外の衣擦れの音。
背後から薄い影が婦人を覆えば、婦人はゆっくりと後ろを振り返り


「…素敵な人形劇ですのね。」


先ほどの青年の首は真っ赤に染まったまま。
口からは血反吐を吐いているが、その足は確りと地に着いている。
婦人はそれを冷ややかに見つめ、すぐに遠い方向へと目線を投げた。
そこから出て来るは人影、小さな小さな人影か。
婦人はにやりと真っ赤な唇を弓なりに逸らせ小さな人影へと手を振るい


「幼いですのに、人形芝居がお上手ですわ。」


婦人がそう褒めの言葉を口にすれば、小さな影は大仰に手を振るって深く礼をした。


「お褒めにお預かり光栄です、ご婦人。」


フードを被っている、黒いが毛皮のようだ。
上等そうな柔らかな毛並みが、微かな月の光に艶を出す。
フードから見える、顔の下半分は機嫌良さそうに唇を逸らせて。
振る舞いは上品に、ただ横の人影が気になるか。
婦人は再度青年の姿をした人形へと目を向ける。
人形は未だ首と口から血を垂れ流し、それは青年のシャツを
真っ赤に染めている。それは時折地へと垂れて、小さな点を石畳に打ちつけた。


「随分と技量が高いのですね、感服する限りです。」

「いいえ、ご婦人の手際の良さには此方こそ感服いたしますとも。」


二人ともにこやかに話を続ける、とても楽しそうに笑いながら。


「では、もう少しばかり人形劇を観覧すると致しますわ。」


そう婦人が小さな影に言ったらば、婦人の足は大きく小さな影へと
踏み込まれた、それと同時に青年の体が横へとずれる。


「もう少しと言わず、じっくりご覧になられたら如何でしょうか?」


ざっくりと、再度青年の体には鋭い切っ先が突き立てられたが
血は噴出す事は無く、どす黒い液体がシャツを汚しただけだった。
小さな影は青年の体を壁にして、余裕の表情で婦人へと語りかけ。
婦人は青年の体から、短剣を引き抜けば輪舞するようにして
足を回せて体制を整わせ、やはりその口元は弓なりに歪んでいるか。


「いいえ、そうも行きませんでしょう。」


婦人が一拍を置いて、小さな人影を見定めるように目線を突き刺し


「もう少しで人形の遣い手が死んでしまうのですから。」


小さな影はそれでも怯まない、にこりと小さく笑いを浮かべたままで。
すこし、顔を俯かせればへえと吐息を吐いて


「それはそれは、予言でしょうか?」

「ええ、序でに死に様も予言いたしますわ。」


言えば再度踏み込まれる婦人の足。それは人形を通り越す。
小さな影の首筋へと鋭い切っ先が向けられた。
それは小さな影の薄い首の皮を、軽く引っ掻いたか。
赤い筋が糸を貼り付けたように残っている。


「そうですわね、まずは人形遣いは足の甲に一撃を受けます。」

「そして、次は太もも。」

「次はお腹。」

「次は…」


婦人は小さな影の首筋に切っ先を当てたままに言葉を紡ぐ。
小さな影は少し苦笑したが、その場から動かないまま夫人の言葉を聞いて。


「焦らすのがお好きのようで…。」

「想像力を得たいが為ですわ、その為の犠牲ならば何も厭いませんの。」

「…では、ご自分を犠牲にされては如何です。」


小さな口が放った言葉を聞いた婦人の目は大きく見開かれた。
苦しげに赤い唇を薄く開け、小さくと息を吐く序でに
口端から赤い液体が顎を伝って滴り落ちて…
見開いたままの目で後ろを振り向けば、赤い首をした青年が笑っている。
それを瞳に映した婦人は、初めてその唇を悔しげに歪めた。


「小細工がお好きです事…っ。」


そう言った刹那、婦人の
意地か、婦人の裾は泥には塗れなかった。
ただし、背は血塗れと成っている、ざっくりと大きく斬られた傷から溢れる液体は
背を伝って腰へと流れ、深紅のドレスをまた色濃く染め上げていった。
婦人の背後には眉間から血を流す青年が横たわって…その手には血塗られたナイフが握られている。


「はは、そういう仕事な物ですから。お気に召さなかったでしょうか、マダム?」


そういえば小さな影はまた一際大仰に、婦人に礼をして見せた。
いつの間にやら婦人と影との距離は格段に離されている。
婦人は冷ややかに小さな影を見つめるが、抱腹心が滾っているのか
目は獣のそれと見紛うほどの力で影を見つめている。


「…いいえ、逆ですわ。…貴方の事、大変興味がわきました。」

「それは願ってもいない光栄、感謝いたします。」


小さな影の返事を聞けば、またも婦人の赤く塗れた唇は弓なりに反り


「此方こそ…大したお構いも出来ずに申し訳ありませんでした…。次は、お楽しみに。」


婦人の凛とした声が耳に届いたか、影は再度大きな身振り手振りで礼をして…
しゅんと、一瞬、目が眩んだのかと思うほどの早さだった。
小さな影は霧と消え、後に残るのは青年の死体のみか。
婦人は青年の死体へと目を向ければ、先ほどとは違う笑みを浮かべた。


「今度は、逃がしはしませんわ…坊や。」


憎悪に満ちた笑顔でそう呟いたのなら、背の傷など物ともしない風に
背をぴんと伸ばし、貴婦人さながら気品ある姿で通りを去っていった。
翌日の『RED』のカウンター席には、赤いドレス姿は見られなかったが
店主は全く変わりなく、いつものように、何事も無かったかのように
コップを拭いている。
 
 
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