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クリエイター名  加賀こより
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親愛なる君へ


この手紙を君が−敢えて君、と呼ばせてもらうけれど−読んでいると言う事は、僕はもう死んでしまったのかな?
それとも、随分と年を取った僕が君の隣にいるのかな?
どういう経緯で君がこれを読んでいるのか僕には分からないけれど、とりあえず今の僕は、この手紙を君に手渡すつもりも、読んでもらうつもりもないって事だけはまず理解してもらいたいな。
もっとも、君の事だから「読ますつもりのない手紙を書いてどうする」だとか思っていそうだけれど、僕は君がこの手紙を僕が死んだ後に読んでいる事を確信しているよ。
昔から言うだろう?佳人薄命って。それ以外の理由でも、僕は長く生きないだろうな、と何となく思っているよ。理由はないけれど。


遺書、とは少し違う。遺言状でもないと思う。
けれど僕は、君は僕が死んだ後にこの手紙を見つけるだろう事を、信じている。
神様さえ信じられなかった僕が何を言うんだ、と思っているんだろうね。けれど僕は、僕のものさしで君を見て、測って、そして君と言う人の行動パターンを信じているよ。…結果的には僕はやっぱり君ではなくて自分を信じているだけなのかも知れないね。
そんな事はどうでも良いとは思わないかい?
だって君は、ここでこの手紙を読んでいるんだから。


僕はね、君にただ謝りたいと思っているんだ。
…驚いた顔をしているかな?少しでも驚いてくれたのなら、僕はとても嬉しいな。
だってそうだろう?
自分で選び取れるはずだったいくつかの選択肢を摘み取って、たった1つの未来…ここで僕の手紙を読む未来にしか通じていない道を無理に歩ませてしまったのだから。
君は後悔していないかい?あの時、僕の手を取ったのは君だけれど、手を伸ばしたのは、この手を取れと言ったのは僕だ。僕は僕の持っている立場を知っていて、君の立場も知っていて、それでも手を伸ばしたんだ。僕を恨んでいるのかも知れないね。
けれどね。これだけは忘れないでもらいたいんだ。
僕はね、君に、憧れていたんだ。君のようになりたかった。
本当だよ。
…きっと今、すごく嫌な顔をしているんだろうな。何となく目に浮かぶよ。
僕は誰にも言うつもりがないから、この事を知っているのは僕と君だけだよ。
誰かに言って回りたければ、そうしてくれて構わない。僕は死んだ後まで君を束縛するつもりはないけれど、それで君の役に立つのなら、いくらでも役立てればいい。
僕は君がとてもとても好きで、そして妬ましかった。羨ましかったんだよ。
そういった意味では君は誇れば良いと思うけれど、僕に羨ましがられても嬉しくはないだろうね。
それも僕は、知っているよ。


何が言いたいのか分からないって顔をしているのかな?何も言いたい事なんてないんだよ。
ただ僕は君に謝りたくて、そして君にとても憧れていた事だけを伝えたかっただけなんだ。
この手紙が見つからなくって、僕が死んで、君もいなくなって、それから全然関係のない誰かに読まれたとしても構わない。これは僕の自己満足の形だからね。
そうだね、何が言いたかったのかと問われたら…たった一言だけかな。


僕は君と出会えて、本当に良かった。
君のおかげで僕の人生はとてもとても充実したものになっているよ。
それだけは間違えようのない事実だから。
僕の事は忘れてしまって構わないけれど、僕と言う人間が結構幸せだった事だけ知っておいてもらえると、僕はそれで満足だよ。


親愛なる君へ



某年某月某日  アシャ=コールディティ
 
 
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