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クリエイター名 |
ヘタレ提督D |
ラノベ風味の戦艦モノ(オリジナル作品)より
朝。 起床前のまどろみを、突然ラッパの音が切り裂いた。 「……!」 そのラッパの調子に気付いた俺は、今まで揺られていたハンモックから飛び起きる。周りには、同じようにしてハンモックから飛び起きる男たちの姿。 起きたばかりだろうに、その表情には寝惚けた様子など微塵も無く、皆一様に緊張感が漂っていた。 中にはラッパで起きない者もいたが、そいつらは周りの人間にけたぐり倒されてハンモックからずり落ち、目を覚めさせられる。だが、そうしなければならないのだ。 あのラッパが聞こえたら、何が何でも自分の部署へ就かせなければならない。それが起きてからの掟だ。……ごめんなさい。 とにかく、俺も速やかに行かねばいけないのだが、しかし他人の流れに邪魔されて、思うように行動する事が出来ない。 拙い。色々と。 俺は四苦八苦しながら、どうにか部署へ到着した。元々そんなに大きな船じゃないのは、その点ありがたいが、同僚がすでに配置に就いたところを見ると、全然遅れてしまった。 「射撃指揮所、配置良し!」 備え付けの伝声管に向けて怒鳴る。声は確実に届いたはずだ。 ふう。とりあえず、これでよし。 ……と思ったら。 『配置遅い。責任者、艦橋へ』 そっけない声だが、それは俺への死刑宣告。 「り、了解……」 俺は伝声管へ向けて答え、すぐ下の艦橋へ向かった。
艦橋では、俺と同じくらいの年齢に見える少女が、他数名と共に待ち受けていた。くすんだ抹茶色の帽子と服は、実際のところ女性には似合わないデザインだと思うのだがどうか。 「五分。遅すぎる」 彼女の言葉は、事実のみを端的に表す。目が若干釣りあがって多少声色に怒気が混じっているのは、決して俺の気のせいではないはずだ。 「も、申し訳ありません」 謝るしかない。俺は彼女へ向けて敬礼して、そう言った。 「……腕立て」 彼女は艦橋から前甲板を見下ろして言った。ここには俺と彼女の他にも何人かいたが、俺に向けて言っているのは明白だった。 俺も下の前甲板へ目を向けようとするが、この位置からではどうなっているか解らない。 腕立てさせられるのはいつもの事だ。それに俺が悪い。だが。 「ぐげ」 思わず、そんな日本語じゃない声を出してしまう。 「……松戸(まつど)少尉。やりたまえ」 別の声が割り込んできた。彼女の傍らに立っていた、彼女と同じ服装のアゴヒゲの男性だ。 元より、選択肢は無い。俺は敬礼したまま答える。 「はっ」 「……ん」 頷いた彼女は、今度は傍らのアゴヒゲ……この艦の副長をじっと見つめた。彼は小さく頷いて、艦内放送を手に取る。 『配置訓練終了。各員、朝食をとるように。以後の予定は予定表どおり』 俺の朝食はいつだろーなぁ。てか、今日は時間的にとれないかも。 「……」 じーっ、と見つめてくる彼女に見送られつつ、俺は艦橋を辞して前甲板へ向かった。腕立て伏せ面倒だなぁ。
皆が朝食をとっている時、俺はカンカン照り・太陽燦燦の甲板で、一人腕立て伏せをしていた。 「ひゃー、く!」 百回終わって、甲板へ仰向けに倒れこむ。配置訓練で甲板(の主砲)にいたはずの兵員は、今は朝食中のはずだった。 俺も早く行かねば、食いっぱぐれるぞ。マジで。 「……?」 照り付ける日光で日干しっぽくなってた俺に、少し陰がかかった。少し顔を後ろに反らすと、くすんだ抹茶色が目に入る。 「……純一(じゅんいち)はいつも失敗ばかり」 あのー。第一声がソレは如何でございましょう? 「申し訳ありません」 慌てて立って敬礼しようとする俺に、彼女は無表情のまま告げた。 「いい。二人きり」 それは『上下関係を気にしなくて良い』という合図。立つ動作を中断して、そのまま甲板であぐらをかく。灰色の甲板が日光を反射して、ちょっと眩しい。 「あのさ……。朝っぱらから配置訓練はキツいって」 俺のグチに、彼女は傍らへ足を揃えて座りながら、 「敵は待ってくれない」 「どこと戦争する気だよ?」 俺は思わず苦笑する。敵って誰だ、敵って。俺の知識だと、隣国で戦争になりそうな国は、今のところ無かった。 「どちらにしろ、純一は遅かった」 「こんな朝っぱらで五分ならマシじゃないか?」 「敵は待ってくれない」 堂々めぐりかよ。 俺はため息をついて、空を見上げた。そこには、一面の青が広がっている。 そういえば、あの時の海も、このぐらいに青かったんだっけなぁ……。
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