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クリエイター名  木許慎
サンプル

戦闘サンプル「ケンドーガール」

 じりっ、と部長はつま先を動かした。
 部長は一歩も動けずにいた。ぶれてばかりだったほくとの切っ先が、今は部長の喉元を真っ直ぐに捉えているのである。威圧感。ほくとの放つ迫力。それが部長の体を釘付けにする。
(こいつ……!)
 部長の面の中で、一筋の汗が伝い落ちた。

 ――袖星くん。
 二本目とは打って変わって、三本目は静かな試合になった。
 試合開始から、両者一歩も動けず、睨み合いを続けていた。ただじっとしているわけではない。敵の構えから、気配から、放つ殺気の濃淡から、必死に隙を窺っていたのだ。
 ――見ててね、袖星くん。
 いつのまにか……
 全ての音が消失した。
 氷の野原に、ただ二人。敵と、自分。
 空気、凍って――
 だんっ!
 部長が踏み込む。
 表から小手。連続技がくる。ほくとは奥歯を噛みしめて、冷静に敵の攻撃を弾く。問題は次だ。胴か? 面か? いや!
 ――打たせない!
 敵の第二撃が来るより先に、ほくとは敵の懐に飛び込んだ。弾いた剣を絡め合わせ、
「イァアッ!」
 気合いと共に敵の体を圧す。その圧力で敵の太刀筋が狂い、放たれた面は僅かにほくとの耳をかすめるのみ。たたらを踏んで後退する部長の胴、がらあきになったそこに、ほくとは最速の一撃を叩き込む。
 だが部長もさるもの。すんでのところで踏みとどまり、ほくとの一撃を切り払う。
 ほくとは後退。構え直し、即座に再突入。敵に息つく暇も与えず、面から小手へ、素早い連撃を叩き込む。瞬間、部長の気迫が変わった。圧され気味だった彼女が、
「あ゛ッ!!」
 咆哮しつつほくとをいなし、必殺の面を繰り出してくる。
 ほくとは竹刀でなんとかそれを受け止めた。瞬間、膝が痺れる。なんていうパワー。一撃受けるだけで、全身が砕けそうになる。
(計算高い女が!)
 部長の心の叫びが、ほくとの芯を震わせる。
 飽くまでパワーで圧し勝つつもりか。
 ――なら、次にこの面が来たとき、勝負を決める!
 ぶつかり合った力が弾け、互いに一歩後退。一足一刀の間。
 睨み合いは、一瞬か永劫か。
「あ゛ッ!!」
 部長の剣が、奔った。

「強い女性が好きだな」
 って袖星くんが言ったから――

 ――だから私は、
 迫る剣。
 ほくとは。
 ――勝つ!!
 バシィッ!
 竹刀が爆ぜる音。
 剣を狙ったほくとの一撃が、部長の剣を高く跳ね上げる!
 部長の守り、崩れ、
「イァアァッ!!」
 閃き。

 しん……と、辺りは静まりかえった。
 袖星が、洋子が、他の誰もが息を飲み、見守る中で……
「胴あり!」
 白旗が、揚がった。
 
 
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