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クリエイター名 |
摩宮 理久 |
サンプル
強いよね」 その言葉は突然。 あの子の口から飛び出した。 私とあの子意外誰もいない教室で。 オレンジ色の夕日の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。 「なにが?」 私は、そう返す。 「山根さんは強いよね」 山根とは、私の名前。 そんなことは自分で分かっているけれど……。 「私のこと?」 思わず聞いてしまった。 だって、私は自分が強いだなんて思わないし、思えないから。 そうしたら、あの子は驚いた顔をしてから、笑ったんだ。 「そうだよ。……人間関係を気にしないで、言えることが言える山根さんは強いと思う」 ……今日、私が友達に言っていたことを聞いていたのだろうか? だから、私が強い? バカバカしい。 「……私は、強くなんか無いよ」 私は一言そういってから、鞄をつかみ取ると教室を出る。 誰もいない廊下を歩き、グラウンドから聞こえるどこかの部活の掛け声を聞きながら。ふと、顔を上げ、沈み掛けている夕日を見る。 私は、強くなんか無い。 もう一度、心の中で呟いてから考えてみる。 あの子がどうして、あんな事を言ったのか。 ……知らないからかもしれない。強い人間なんか、いないって事を。 誰だって、弱いのに。 今日はやけに自分の足音が大きく聞こえた。
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