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クリエイター名 |
織る希 |
サンプル
「ご・み・の・ひ」
ゴミの日が怖い。カレンダーを見て、明日はゴミの日かあ、と思っただけで胃が痛む。頭痛がする。下痢になる。 何が怖いってまず分別方法がよくわからない。わが市は偏執狂的な分別を市民に要求してくる。例えば、スナック菓子の袋は印刷部分と銀色部分の2枚に開いて捨てなければならない。つるつるの紙とさらさらの紙は違うゴミだ、などと言う。ゴミの日、部屋でお菓子の袋を目を閉じて撫で、これはつるつる……こっちはさらさら……これは、さらつる? つるさら? などと無駄に指紋をすり減らしている。 そしてやっとのことでわけたゴミを持って、ゴミ収集所まで行くと、シュロ箒を持ったオバチャンが仁王立ちで待っている。こちらが家を出た段階で、すでに疑惑の目で見ている。見るだけなら仕方ない。彼女は「ご苦労さまー」とゴミをゴミ山のてっぺんに積んであげる親切のふりをして、他人のゴミ袋をいちいち揉むのだ。怖い。 そう、そこであるべきではない音&感触がすれば、アウトである。つるつる紙とさらさら紙を瞬時に選り分けるオバチャンを誰もごまかせない。 「あら〜?」 もう最初から、オバチャンに分別させればいいと思う。いや、買い物についてきてもらうしかない。 オバチャン攻撃が他人に向いている間に、収集所にたどりつく者は幸いである。自分でゴミ袋をゴミ山の中に押し込むことができるからである。 「何か混ざってるんじゃない? 開けてもいいかしら?」 断ることはできない。なぜならこのゴミ収集所は、偏執的ゴミ分別の親玉である市から「モデル地区」に指定されており、分別の優秀さから何度も表彰された過去があるのだ。ちなみにオバチャンも「モデル地区リーダー」として表彰されている。誇りが許さないと言うわけである。なんでそんなことするのよ?
今週も、共働きの若い夫婦が二組、引っ越して行った。絶対にゴミ分別のせいだ。わかる。とやかく言われることを恐れ、引っ越しゴミまで一緒に持ち去った。彼らの気持ちがよくわかる。 けれどわたしは引っ越しできない。力がわかないのだ。ゴミの日のことを、思い出すだけで悲しくなってくる。怒るとか頭にくるとかではない。悲しくなってくるのだ。涙も出てくる。ゴミのことばかり考える。考えているうちにまだゴミの日がくる。怖い。怖すぎる。またゴミが出る。
(続く)
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