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クリエイター名 |
タカノカオル |
サンプル
連続する轟音。 鼓膜に直接響く異常な音に、目を覚ます。肌にふれるかふれないかくらい側に、女のコがいるのを見て、ぼくの胸は急激に跳ねた。 新しい雪のような肌。ゆったりと流れて光る川面の底のような、金色の短い髪。唇はほんのり桜色をしていて、目はおだやかなグレー。つばの広い黒い帽子には、紺色のリボンが巻かれて、バラのモチーフがついている。 彼女は真剣そのものの眼差しで、銃を撃っている。三脚を立てた上に乗せられた長い銃だ。撃っているのは、白い影。霧のようにぼんやりとして、暗闇の中にぼんやりと光っている。 ぼくは、理解する。これは夢だ。 まさかこんな可愛い少女が同じふとんに潜り込んでいて、しかもこんな狭い部屋で銃撃戦が行われているはずはない。そう、間違いなく夢だ。たとえ、頭の上をどんなにリアルに風が吹き抜けていったとしても。 で、あれば。 ぼくはそっと盗み見る(たとえ夢でも見ることしかできない自分に、あえてツッコミは入れまい) 細い腕が、少女のワンピースの袖からはみ出ている。ふとんの上に無造作に投げ出された、まっすぐに伸びる脚。腰をそっと締める黒いリボン。無意識にコクリと喉が鳴る。そろそろと、ぼくは手を伸ばした。すると、少女は急にぼくに顔を向けた。 「あたしの腰のホルスターから、銃出して!」 「うわぁハイごめんなさい!」 つい、声が裏返ってしまった。それにしても、凛とした、優しげな高い声。言っていることは物騒だけど、声はいい。なんてナイスな夢なんだと思いながら、彼女の腰に付いていた革製のホルスターから、小型の銃を取りだした。意外に重たく、冷たかった。本当に、いやに感覚のはっきりとしている夢だ。 「ハイ、撃って」 少女はこちらを向かずに打ち続けたまま言った。 「はい?」 まじまじと銃を見るが、拳銃マニアではないぼくにはイマイチよく使い方がわからない。 少女はイライラした様子で、舌打ちをした、ように聞こえた。 「よこせこのバカ! 使えねェな!」 銃は奪われ、少女は手早く装填すると、ぼくにもう一度よこした。 「生きてる人間がやったほうがあいつらには効くのよ!」 ぼくは訳もわからず、白い影めがけて引き金を引いた。影が、一瞬はっきりと見えた。その背には真っ白な羽根。引っかかりを感じた瞬間、影に空いた穴が弾けて閃光を放ち、視界は真っ白になった。
白い影は消えていた。隣に寝ころんでいる少女は、にこやかに笑っている。朝の光を浴びて、その肢体は透けているようにすら思える。おだやかに微笑む様子は、どこぞの国で昔描かれた女神サマみたいだ。かわいい。ヤバイくらいかわいい。 「つーわけで、これからもよろしくね」 「へ」 「あたし、このセカイでやり残したことがあるの」 そう言って、少女は極上の笑顔を見せた。空気を一瞬で変えてしまうような、不思議なほどぼくのココロをつかむ笑顔。けど、ちょっと待てよ。 ぼくの夢は、そういえば覚めない。このまま、覚めなかったらどうしよう。 急に頭から血の気が引いた。 ぼくは、とんでもないことをしてしまったのかもしれない。
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