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クリエイター名 |
みやめがね |
レインの歌(サンプル−ほのぼの)
『レインの歌』
「あら、私だって歌ぐらい歌わよ?」 レインが恥ずかしそうに、伏し目がちにそんなことを言ったのがきっかけだった。 「なんでそうなるのよっ!?」 「いいじゃないか! 僕なんかにそうそう負けないだろう?」 「そりゃあ、カイトなんかに負けてあげる気はないけど……」 「でしょ? じゃあ、もし僕が駆けっこで勝ったら、レインの歌を聞かせてよ!」 「わ、わかったわよ! その代わり、負けたらあんたが歌うのよ?」 カイトがそんな提案をしたのは、純粋にレインの歌声が聞きたかったからだった。 そしてレインがそんな提案をすんなりと受け入れた理由も、カイトはわかっていた。 だからその瞬間にはもうカイトは勝利を確信していたのだった。
「歌詞も無いし、恥ずかしいけれど、聞いてね」 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言うと、レインは目を閉じてゆっくりと深呼吸をし始める。 1……2……3……4……。 5回目の深呼吸を終えると、今度は更に深く、まるで全身を空気で満たすように息を吸い込んだ。 ゆっくりと開かれたその青い瞳はいつもの恥ずかしがり屋なレインの瞳ではなく、瞳の奥にもう一つの世界が存在するような、深く青い瞳だった。 レインが口を開く。
まるで、その瞬間から世界が彩られたようだった。
レインの口から迸る音色は、力強く、そしてどこか静かに広がっていく。 草の葉ずれの音も、鳥の鳴き声も、木々のざわめきも、歌声を聞くカイトの鼓動も、全てを巻き込んで広がっていく。 レインの歌声の中に見る世界が、レインが、普段とは比べ物にならないほど色鮮やかで美しいと、カイトは思った。
「ど、どうだった……?」 歌い終わったレインはいつものように顔を赤らめ、伏し目がちにカイトを睨む。 「レインの歌が聴けて良かった。最高だったよ!」 いつものレインに戻っていることに少しほっとして、カイトは素直に感想を言った。 「あ、ありがとう……。で、その勝ち誇った顔はなんなのよ?」 より一層顔を赤らめるレインに、カイトはにんまりと微笑む。 「内緒〜」 「ちょっと、何よそれっ!?」 今度は怒りに顔を赤めるレインを尻目にカイトは思い切り駆け出した。 「待ちなさいよ!」 吼え猛りながら駆け出すレインを見ながら、今度はすぐに追い付かれるんだろうなぁ、とカイトは静かに苦笑した。
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