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クリエイター名  朝比奈 廻
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記憶

「新撰組ってさー、なんかカッコいいよね!特に沖田総司が」
「だよね。でも、私は土方歳三が好きだなぁ」
「俺は断然、近藤勇!ああいう人を男って言うんだよ」

「………ちっ。紙の上での出来事しか知らないくせに、何が「好き」「カッコいい」「男」だっつうんだよ」

昼休み。それは生徒達の憩いの時間。
ここ、高崎学園2-Aでも、例に漏れず生徒達は束の間の休息を楽しみながら昼食をとっていた。

「何も知らない奴らが、キャーキャー騒いでんじゃねぇよ」

…ただ一人、藤原ソウジを除いては。
彼が不機嫌な理由はただ一つ。先ほどの歴史の授業が原因だ。
歴史が嫌いな訳ではない。それどころか成績は良い方である。特に幕末に関しては、歴史担当の教師ですら彼の知識深さには舌を巻くくらいだ。

「…新撰組は、カッコいいって言われるために活動してた訳じゃねーんだよ」

―――先ほどの授業内容は、幕末に関してのもの。まさにソウジの得意分野であるハズなのだが、授業内容に「新撰組」という単語が出てきた途端に不機嫌になった。更に、その「新撰組」の活動内容や実態、主な隊員と解散に至るまでの簡単な説明がされた訳だが…いずれもソウジの不機嫌さを増す材料となる。

「副長は女たらしだし、俳句センスもゼロ。周りからは鬼呼ばわりされて、実際そうだし……でも、誰よりも信頼できた。それに局長はなぁ、「男」って言うよりも「親父」って感じなんだよ。そのデカイ背中が、いつもオレたちを支えてくれた…………所詮、お前らは「新撰組」の誰一人も知らない後の時代の人間なんだ。軽々しく副長や局長の名前を口にすんじゃねぇよ…!」

今すぐにでも叫んで言いたい。
何も知らない後の時代の人間が、知った風に二人の名を語るなと。

「…くそっ…!!」

だが、叫べない。

「お前ら…ウルサイんだよっっ……!」

―――藤原ソウジ。
彼は、「新撰組」の沖田総司の生まれ変わりである。
沖田総司だった時の記憶を丸ごと引き継いだ上で、藤原ソウジとして生きている。

だからだ。
だから、機嫌が悪い。
過ぎた事とはいえ、歴史に名が刻まれたとはいえ、自分の事を他人にとやかく言われるのは気分が良くなるとは言えない。それが、自分にとって尊敬に値する人物であれば尚の事。

褒められても、嬉しくなんかない。
後の世の人間に…言われたくはない。

「土方さん…局長…っ…オレ、辛いよ…!」

どんなに辛くても、耐えるしか方法はない。
自分も…藤原ソウジも、後の世の人間なのだ。前世の記憶をもっていたとしても、藤原ソウジは後の世に生れた存在なのだから。

「…なんで記憶がそのまま残ってるんだろうな……思い出して辛くなるような記憶なら、いらなかったのに……!!」

消そうと思って消せるものではない。
忘れたくても忘れられない。
思い出したくないのに思い出してしまう。

頭で、

体で、

心で、覚えている。

―――ソレが、《記憶》というものだから…
 
 
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