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クリエイター名 |
朝比奈 廻 |
サンプル
記憶 二 『始まりの言葉』
「…なんで記憶がそのまま残ってるんだろうな……思い出して辛くなるような記憶なら、いらなかったのに……!!」
「なら…一緒に歩こう?貴方ほどじゃないけど…私も辛くなる時がある。藤原くん…ううん、沖田さん」
「…!」
―――彼が辛そうな顔をし始めたのは、歴史の授業の時だった。先生が「新撰組」の話をする度、彼の顔は辛そうに歪められていく。
まるで、自分の事を言われているかのようだった。
「藤原くん…?」
彼―――藤原ソウジの斜め後ろに座る八木 美奈子には、その様子がはっきりと見えていた。 隣の席の人は先生の話に夢中でソウジの表情に気がついていない。
「…優しい人なんだな」
そう思ってた。 でも、違った。 違っていた。
自分の事を言われているようで顔を歪めたんじゃない。
自分の事を言われていたから顔を歪めたんだ。
「……」
昼休み。 クラスメイトが「新撰組」の話で盛り上がっている中、ソウジは自分の席に座って小さく呟いていた。 いや、もしかしたら普通の声量だったかねしれないが、賑やかなクラスでは小さく思えてしまう。
周りの賑やかさがあったはずなのに、ソウジの声だけははっきりと美奈子に届いていた。
「貴方は…沖田さん、なんだね」
だから、あんなにも辛そうだったんだね。
「私も…一緒だよ」
たまらず、美奈子は立ち上がってソウジのもとへと寄った。
「お前っ……」
「沖田さん、なんでしょ?」
「………どうして、そう思う」
「だって、あの時の沖田さんの言葉だもの」
「…?」
「忘れちゃった?《土方副長は鬼と呼ばれるような人だけど、誰よりも信頼できる。近藤局長は背中の大きい人で、僕ら皆の父のような人なんです》…そう私に話してくれたのは、沖田さんじゃないですか」
「!八木…まさかお前、あの、八木亭にいた…?!」
美奈子は笑顔で首を縦に振った。
―――八木 美奈子。彼女は新撰組と縁のある八木邸の娘の生まれ変わりだ。当時は新撰組の世話係を任されていた。
「記憶をなくさずに生れてきたのって、ずっと私だけかと思ってた。…でも、沖田さんがいた。授業中、思い出したから辛くなったんでしょ?私も思い出した時は辛くなる…」
「八木……」
「だから、一緒に歩いていこう?一人よりも二人の方がずっと良いはずだよ」
美奈子は笑顔と共に手を差し出した。
《一緒に歩いていこう》
―――それは、二人の始まりの言葉…
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