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クリエイター名 |
ゆにのにう |
サンプル
BRAVE GEAR
ACT:1 思い出の地で…
(7年ぶりだな、この街…) 都会とは違う雰囲気。 静かで閑静な住宅街。 田舎とまではいかないが、都会でもなく田舎でもなく、住みやすい・・・そんな感じの街。 そこに再び足を踏み入れた少女。 (懐かしい・・・母さんとの思い出の街・・・) そう、彼女が昔住んでいた街。 今はもういない、母との思い出が残る街。 全ては、ここから始まった。
「んー!いい天気!」 と、伸びをする。 そうはいっても、もう夕方である。 だが、ここの澄み切った空は、まだ青く夏の匂いを残している。
8月30日
(だけど…なんで引っ越したりしたんだろう…ばあちゃんも優しいし、住みやすいし…) 少女は大きい荷物を抱え、歩き始めた。 母を亡くし、幼少の頃まで住んでいた祖母の所で世話になるため、ここへ戻ってきたのだ。 そして、何故ここを離れたのか、その理由を探していた。 懐かしい景色を眺めつつ、家までの道をたどる。 そして、ふと立ち止まり、一つ思い出す。
『7歳の誕生日を迎える前に、早くここから引っ越しましょうね』
(何で7歳だったんだろう…意味があるのかな?) 母の言葉。 引っ越し直前の言葉。 幼い少女には意味も考えられない言葉だっただろう。 だが今考えても何も答えは出てこない。 その答えを知っているであろう母は、この世にいない。 少女は、空を見て、 「あーあ、早く聞いておけばよかった…」 そうつぶやいた。
***
駅から歩いて10分。 最高の立地条件である。 だが、結構坂道が多く、難関である。 こういう所は田舎だ・・・と少女はブツブツ呟く。
「うわぁ!懐かしい!」 7年前までの景色が、そのまま残っている。 門構えも、表札も・・・家も、庭も。 「おばあちゃん!いる???」 家に着くなり、早速ドアを開け、勝手きままに奥に入っていく。 昔の行動そのままに。 「おばあちゃん!」 懐かしい祖母の背中を見つけるやいなや、飛びつく。 「おや、おかえり…、乃依」 「おばあちゃん…」
藤崎 乃依。 16歳。 母を亡くし、7歳まで住んでいた祖母の家に越してきた、「おばあちゃん大好き娘」。 母方の実家である、この家。 父親はいない。母ひとり子ひとりのため、乃依は祖母に育てられたも同然であった。そのため、母よりも祖母を慕っていた。
「おばあちゃん!今日からお世話になります!」 乃依は正座して、祖母の前でお辞儀した。 「あらあら、大きくなって…。辛かったろう?お母さんが亡くなって…。昔のように自分の家だと思って暮らしなさい?」 「うん…ありがとう…」 祖母の声を聴いて安心したのか急に目が熱くなってくる。 (泣いちゃいけない・・・) 乃依は涙をこらえ、手を強く握る。 そして、顔をあげ、笑顔で祖母に答える。
「疲れたかい?荷物は、さっき業者の人が届けてくれたよ?」 「疲れてない!大丈夫だよ!」 「そうかい?荷物の整理片づけは、明日でいいからね?もう少しで夕飯も出来るから、それまで散歩でもしてくるかい?」 「散歩?…んーそうだね!帰ってきたんだし、明後日から学校だし!色んな所下見しておくよ!」 「それはいいね、いっておいで。暗くならないうちに帰ってくるんだよ?」 「はぁーい!」 まるで小学生と母親の会話。 昔を思い出したのか、乃依はふと遠くを見つめる。 (帰ってきたんだ・・・) そう実感して、家を後にした。
*** 勢いよく家を出てきたものの、100メートルほど行ったところで立ち止まる。 (何処に行こう…) 目的地がなく、途方にくれる。 とりあえず、通行の邪魔になるため、側にある小さい公園にはいり、ベンチに腰掛ける。 そこで、再び考えを巡らせる。 (新しい学校。寄り道出来る店。美味しいケーキ屋さん。ファーストフード。図書館。見ておきたい所は色々あるんだけど…) 行くところを決めかねている時、公園にいた親子が目に入る。 「あ・・・そうだ・・・」 小さくつぶやき、立ち上がる。 そして、行きたい場所を思いついたのか小走りで公園を後にした。
「やった!間にあった!ちょうど夕日がキレイな時間だ!」 先ほどの小さな公園とは違う、丘の上の大きい公園。 桜の木が並木道をつくり、春にはアーチのようにキレイに咲く。 街を一望できる位置にあり、夕日も夜景も綺麗である。 だからなのか夜はカップルばっかりだが、景色が綺麗な公園ということで、有名。 そして、街が一望できる場所で乃依は立ち止まる。 (この公園でよく、お母さんとおばあちゃんと、お弁当持って花見したり、遠足気分で遊びにきたり…色々したなぁ…) 落ちていく夕日を真正面に受け、乃依は思い出に浸る。 7年前とかわりない色の夕日。 (お母さんとよく見に来たなぁ・・・夕日・・・)
夕日を見ながら思い出に浸っていた。 時間が経つことも忘れて。 やがて、夕日が消えかかっていく…そして、そろそろ帰ろうかと思った。 その時。 「あれ?」 夕日から一瞬目をそらした。 そして、また夕日に視点を戻した。そう、その時。 消えかけた夕日が、また元に戻ってきたように見えた。 「あれれ?」 (夕日って、戻る?) そんなバカな事を考えていた。 そして、夕日から何かが出てきたように、赤い何かが…そう、紅い色の何か大きいモノが、夕日を背に飛んでいる。 「鳥?かな?大きいけど…」 何故か、その紅い大きなモノは、だんだん近づいて来ていた。 まさに隕石が近づいてきているかのように。 「やだ…!近づいて来てる?!逃げなきゃヤバイかな…」 夕日を見ていたままの体勢で固まってしまっていた乃依は、それに目を奪われてしまい、近づいてくるのを知っていたのに動けずにいた。
(やばっ、し・・・死ぬ?!) 極論に達した、そして…。 その紅いモノが、今はっきりと乃依の目に飛び込んできた。 真っ赤な、機体。 背に黒いマントを羽織り、どこかのアニメから飛び出して来たようなロボット。 大きく、とても力強い感じがする。 色々、脳裏をよぎったが、何がなんやら解らなくなっていた乃依は、それをずっと見つめていた。 やがて、それはの依の目の前で動きを止め、その機体の胸の辺りが大きな音を立てて開いた。 「君…−−−−」 (え?!人?!人が乗ってた?) 逆光でよく見えないけれど、声からして若い男性のようだった。 「あ、あの…」 今更ながら、見てはイケナイものだったのだろうか、とか焦ってしまうが、遅い。 乃依は、なんとか逃げようと無い知恵を働かせ言葉を紡ぐ。 「あ、あの!私!ごめんなさい!別に見るつもりはなくて!夕日を見に来てたというか、何でこうなったのかわからないんで、お願いします!見逃してください!」 色々言葉を考えたものの、パニック状態。 別に乃依が悪いわけでもない。 だが、反射的に謝るのは、仕方ない。 あんな大きなものには勝てないと思ったからである。 そして、青ざめている乃依に、彼は優しく声をかけた。 「ご、ごめん。驚かせてしまったかな?・・・でも、君は、僕が見えているんだね…嬉しいな…」 不思議な事を彼は乃依に話す。 『君は僕が見える』 まるで、他の人は、彼が見えないでいるかのように…。 「あ、あの…」 「ちょっと待って、そっちに降りるから!」 そういって、真っ赤な機体から飛び降り、彼は乃依の前に着地した。 笑顔で乃依の前に立ち、少しの間じろじろ見つめ、 「うん!やっぱり、君だ!」 そう言って、あの赤い機体を振り返り、 「フレイヒート!僕は、この子と一緒に行く。君は待機してくれ」 【了解した】 (ぇぇえ?機械がしゃべ・・・た?!) そういって、赤い大きな機体−フレイヒートと呼ばれた機体は、彼が手に持っていた小さいパソコンのような、電子辞書みたいなものに、吸い込まれるように消えていった。そして、乃依の目の前の彼は、向き直り、 「初めまして!僕はカーレイジ・ヒート。今の赤い機体が、フレイヒート。僕の相棒!怖がらせちゃったかな?ごめんね?大丈夫?レイカ!」 「え?」 彼が今、ハッキリ名前を呼んだ。 乃依ではなく違う名前だった。 だが、彼女には心当たりのある名前。 そう。それは彼女の名前ではなく、 「母さんの名前?」 「え?」 「あなた…えっと、カーレイジさん?母さんを知っているの?」 「え?レイカじゃない?」 どうやら、乃依を彼女の母と間違えたみたいだった。 でも、どうして彼が彼女の母をしっているのだろうか、そして彼もまた困惑している様子。 「あの、私は…藤崎レイカの娘で、藤崎乃依と言います。母は、3ヶ月前に亡くなりました。あの…母のお知り合いの方ですか?」 何か、変な所から変なものにのって現れた人に言う言葉ではないのだけれど、彼は酷く困惑している様子で、考え込んでいたので、声をかけずにはいられなかった。 「レイカが亡くなった?嘘だ?!だって、俺達…ちゃんと、レイカが16歳の時代に来たはずだ!」 そう言って、彼−レイジは乃依の肩をつかんだ。 「痛っ」 「あ、ごめん…」 「あの…何が何だか知りませんが、母は33歳の誕生日直前で亡くなりました!母が16歳だったのは、16年前です!私が生まれた年です!何か間違ってるんじゃないですか?」 彼の話を聞いていると、常識では考えられない理解しがたい言葉が飛び出している。だが、今言えるのは、彼が乃依の母を知っていて、探しているということだった。 それだけが、今の乃依をこの場に引き留めている。 そして…レイジの瞳が、あまりにも真剣で、魅力的で、乃依は逸らす事が出来なかったのかもしれない。 「ごめん、えっと・・・君は、レイカじゃない。でも、レイカの娘で…。…あーーー!何が何だかわからない!でも、今言えるのは、レイカがいない今、多分君なんだ!俺たちに必要なのは!」 「え?」 彼の瞳にレイカでなく乃依が映った。 さっきまでは、母の幻影を見ていた瞳が、急に乃依に向けられた。 それは、とても熱く、彼の視線からは逃れない。 今すぐここから離れたいくらい解らない事が多く、実際怖いと感じている乃依。 だけど、振り切って逃げ出す事が出来ないでいた。 自分の母を知っている、彼の前から…
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