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クリエイター名 |
H.yuma |
サンプル
「フッ――馬鹿なことに首を突っ込んじまったな。俺のコルトが黙ってないぜ」 夏浪イサミは、それ、トカレフじゃねえかという声を飲み込んだ。 いま、そんな突っ込みを入れれば、確実に7・63ミリの弾丸が飛んでくるだろう。 それもハードボイルド気取りだからたちが悪い。 (人妻の不倫相手が武器の密売人だったなんて、しゃれになんないぜ……) その時、目の端――正確には上のほうにキラリと光るものが見えた。思わずヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプと胸の内で繰り返す。 「俺は、皆片…いやジョーと覚えておいてくれ」 くそっ、俺も銃を持ってくるんだったと、実はイサミはコルトガバメンを隠し持っていた。 緊張した雰囲気がキーンと張りつめる。 と、その時、イサミが願いごとをした流れ星が、キイインと凄い音と光を発しながら彼らが対峙する港の倉庫の屋根をブチ破って落下してきたのだ。 がらがらがらぐをしゃ〜〜〜〜ん! 隕石の落下と、皆の――六名その場に居合わせた――注意がそれた瞬間、イサミは物陰に飛び込もうとしたがはたせなかった。 それは、倉庫の天井をブチ破り大型のコンテナーを破壊したとうの主が「いたぁ〜〜イ!」と場違いな黄色い声とともに、すっくすと立ち上がってきたからだ。 パンッ! 反射的に声の主に向かってトカレフの引き金を引いてしまったジョー。 わきゃっ――と額に弾丸を食らって、金髪巻き毛の美女が後ろにひっくり返る。 だが、イタタタとひょっこり起き上がってきて、「や〜〜ん、赤くなってるぅ〜」と、取り出したコンパクトの鏡で自分の額を確かめていた。 ジョーは、「弾丸が命中したのに…」と茫然自失のてい。全員、眼が点になっている。 その間、約十分ほど固まってから、ジョーの仲間のひとりがいった。 「なあ、見なかったことにしないか……」 蚊の鳴くような声だった。だがそれはイサミを含めた、みなの声を代弁していた。
けっきょくイサミの命は無事だった。密売人のジョーはコルトと呼んでいるトカレフをもって、今ごろは今夜のことを忘れるためにどこかで酔いつぶれていることだろう。 だがイサミは違った意味で、あらたな窮地に立たされていた。眼の前にラーメンやらカレーライスの皿やらがうずたかく積み上げられている。 かるく見積もっても二十人分は平らげていた。なおももくもくと食事を続けている。 「だって、星に願いするからぁ、あたし、来たんですよぅ」 さっきの金髪美女である。イサミは財布の中身を心配しながら、この女、女神っていう、どこかの星のエイリアンかもしれないなと思っていた。
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