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クリエイター名  城田.Re:na+
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目の前に広がるモノクロの世界を、醜いと思った事はない。

世界遺産にも登録されている王立植物園は、世界屈指の植物研修者を生み出す教育の場でもある。
見渡す限りの庭園の一角、生徒に与えられた小さな(と言っても世間一般の庭園とは比べ物にならない程広大な)庭園を、少年は黙々と手入れしていた。
時折額を伝う汗を、泥で汚れた手袋で拭えば、こびり付いて乾いた泥が粒状になって落ちる。
太陽が最も高く昇る時間、聞こえるのは昼食を済ませ授業に戻る生徒の声と、近くを流れる小川の流水音と、小鳥の囀り。

「相変わらず、勉強熱心だね」
突然出来た木陰の元凶を上目遣いで睨み付ければ、元凶の招かれざる客は、左手に革張りの教科書を、右手に手土産らしき炭酸水の入った瓶を手に微笑んだ。
「君が不真面目なだけだ」
「熱心なのは結構だが、水分補給を怠るのはいけないよ」
初夏と言えども、日差しは体内の水分を遠慮なく奪っていく。
「君の好きな銘柄」
どうぞ、汗をかいた瓶を少年の頬に当て、客は又満足そうに微笑んだ。
少年としては俗に言う「余計なお世話」に一言物申したいところだが、水分補給が大切なことも、頬に当てられた瓶に記された銘柄が好みの物である事も事実だ。
貰える物は有難く貰っておく、と言わんがばかりに無言で瓶を奪い取り、中身の炭酸水を飲み干す。
いつの間にかかなりの水分を消費していた体に、勢い良く流し込まれた炭酸水は少し刺激が強すぎたが、結果的に体が潤ったので良しとしておく。
「午後の講義はどうした」
空になった瓶を脇に置き、作業を再開し、地面を向いたまま問いかける。
「講師が急用で出掛けたらしく、自習だそうだよ」
睡眠不足には有難い、と端から自習する気等更々無い発言に溜息が零れる。
自習時間をどう過ごそうが関係ないが、同じ教育を受けるものとしては良い気はしない。
「勝手にしろ」
何処で何をするかは勝手だが、邪魔だけはしてくれるなと釘を刺し、作業を再開する。
釘を刺された当人は、特に気にする様子も無く、隣失礼するよ、と返事も待たずに芝生の上に横になり、早々に自習と言う名の睡眠時間を満喫しだした。
午後の日差しから逃げるかのように、手にしていた教科書広げを頭上に掲げれば、出来た影が彼の端整な顔を黒く染める。
釣られて仰いだ空は雲一つ無い灰色で、視線を彼に向ければ、時折吹く風に揺れる彼の黒髪が単調な視界に彩を添えた。
(黒色)
緩やかな曲線を描いた黒髪は、彼の肩から流れ落ちて、初夏の青々しい芝生の上を黒く染める。
課題を終わらせなければ、怒られるのは君だ、と老婆心で彼を起こそうかとも思ったが、全ては自己責任だ。
問題児として有名な彼だが、不本意ながらも成績だけは良い彼の事だから、提出期限までにはどうにかするだろうと、放っておく事にした。
目の前の世界は相変わらずモノクロだが、風が吹く度、隣で眠る彼の黒髪が存在を主張する。
(一番深い、黒色)
噂では東洋人の血が混じっているらしい彼の黒髪は、何物にも汚されない漆黒の黒色、女性徒の憧れの的だ。
彼は少年の白色にしか見えない髪を美しいと褒め称えたが、少年からすれば、この世のどんな物にも色褪せない彼の黒髪の方が美しいと思った。
それでも一度口にすれば、調子に乗るのは目に見えているので一生告げはしないと固く誓ってるのだが、実は何度も告げてしまいたい衝動に駆られている事に少年は気付いていない。
(随分伸びたな)
不精な性格が祟って散発を怠った髪は、彼の腰辺りまで伸びた。
その不精な性格の彼だから、入浴の度に洗髪が面倒だと嘆くのだが、それでも髪を切らないのは更なる不精のせいだと少年は思っている。
早々に眠りに付いたのか、少し幼い表情で眠る彼の黒髪を、手袋の指先を噛んで外した指で掬う。
一瞬触れた頬は思ったよりも冷たく、長時間の作業で火照った指先無意識の内にその冷たさを堪能する。
(綺麗)
別段手入れをしているわけではない髪からは、女性の様に甘い香りはしないが、変わりに吸い付くような感じが心地良い。
指の隙間から流れ落ちるこの漆黒の糸が、自分をこの世界に繋ぎ止めているのだと、青いはずの灰色の空を見上げて思った。
 
 
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