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クリエイター名  久保未歩
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 夜の摩天楼を縫うように首都高が張り巡らされている中を、一台のベンツが南へ。
 黒塗りのそれは、行き交う車で姿を隠すように静かに走る。
「……撒いたか」
 車中の後部席から後ろを窺う少年は、追っ手がいないことを確認した。
 童顔で快活な眼が印象的だった。髪を茶に染め、黒いジャージを着ている。
「おい、リチャード! あいつら何なんだよ! 何で俺らの計画がバレたんだ!?」
 少年は怒鳴り散らすように、運転席のシートを蹴った。車がバランスを失い、やや右にそれる。
「いてっ! 危ねぇだろアカツキ! 俺に当たるな」
 流暢な日本語で金髪の白人、リチャードがこれまた怒鳴る。
 面長で端整な顔つき。日本人とは違った長い手足で丁寧に運転するリチャードのブルーの瞳が、ちらりとバックミラーのアカツキを見た。
「……あいつらは多分、ターゲットが依頼したボディガードだろう」
 そう言って、リチャードはすぐさま視線を前に向けた。
「だけどよ、タイミングよすぎなかったか? 俺が撃った瞬間に、あいつらターゲットを呼んで体を逸らせたんだぜ! しかも、こっちを睨んだし」
 アカツキは憮然とした顔で片足を座席に上げた。
「おかしいぜ、絶対……」
 窓に肘をつけ、アカツキは夜を照らすオフィスビルの光を眺めた。
 どんなに言い訳したって、この作戦は失敗した。
 それは、アカツキもよく分かっていた。
 車は首都高を出て、大通りに面して堂々と建っているビルに吸い込まれていく。
 そこは、アカツキとリチャードの唯一の居場所だった。


 いつの時代の人間にも心の影は存在した。
 普段は何でもないように振舞っているが、ほんのささいな事がきっかけで人間の黒い部分はたやすく湧き出てくる。
 だけど、大半の人間はそれを押さえ込むか、思っていても行動に移せない。
 その思いに付け込むのが、犯罪組織。暗殺やスパイを主とし、常に社会の裏で暗躍している。
 さらにその組織の中でも秀でた能力を持った者が与えられる称号を「ナンバーズ」と呼ぶ。
 個々につけられる一から十までのナンバーが彼らの実力を表していた。
 アカツキやリチャードもそのナンバーズに所属していた。
 車を車庫に入れ、アカツキとリチャードはビルの十五階にある小会議室へ向かった。
「リチャード、お前の情報は確実じゃなかったのか」
 エレベーターで散々わめいたアカツキは言い足りないのか、まだリチャードに食って掛かっている。
 アカツキより頭一個分背が高いリチャードは、アカツキの前を悠然と歩く。
「いや、俺の情報は正しい。恐らくターゲット側に情報が漏れたのかもしれない」
 ナンバーズでも秀でた情報収集能力を持つリチャードは、よほど自分の仕入れた情報に自信があるのか、それを否定した。
「情報が漏れたって……どうやって?」
「さあな。もしかしたら他の可能性もある」
 ふとリチャードが腕時計を見た。スイス製の高価な時計は九時を差していた。
 
 
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