t-onとは こんにちは、guestさん ログイン  
 
総合TOP | ユーザー登録 | 課金 | 企業情報

 
 
クリエイター名  朝瀬 刹那
サンプル

◇ サンプル1:主観主人公固定三人称、ホラー冒頭シーン


 ――あなたをお怨み申上げます。
 そう言って、女は血のように紅く染まった口唇を歪めて、嫣然と嗤った。

 世界は緩やかに終わりへと突き進み、その時になるまで“それ”は闇夜の中に潜み、“贄”を待ち構えている。



 ある時、その狭き世界の中に紅き影が差しかかる。

 それは世界の嘆きを形にしたものなのか、誰にもわからない――……。



 生き物の気配はあるのに声は聞こえず、木の葉のざわめきだけが聞こえてくる鬱蒼とした森の中。
 その中で立ち竦むのは黒き人影。――と、その足元でうつ伏せに倒れこんでいるもう一つの人影。
 立ち竦んでいるのは、背中から流れるようにしてある、濡れたように艶やかな長い黒髪に、袖がない黒い装束を身に纏った女。
 その繊手には、農具の大鎌をさらに巨大化させたかのような形状をしているが、刃部分はより直線的な造りになってある、ほぼ円弧状態に曲がった刃を持つ大鎌が握られていた。
 もっと分かりやすく言えば、絵画などに描かれている死神が持っているような鎌である。
 暗闇の中に浮かぶようにしてある、白さを通り越した青白い肌には紅い影が差しかかっているのが、剥きだしにされた腕や膝下から窺い知る事ができた。何かが欠陥しているようにも思えるオーラを背負った後姿が見える。
 女は靴を履いていなかった。柔らかな土の上に、その真っ白な素足をさらしている。そのまま彫像と化したかのように動きを止めていたが、僅かにだが足を動かし、地面を踏みしめた。
「――あなたをお怨み申上げます」
 そう言って、月影に隠れて顔の見えない女は、血のように紅く染まった口唇を歪めて、嫣然と嗤った。



 少女――水沢明菜(みずさわ あきな)は、私立爛舘高等部(わたくしりつかんだちこうとうぶ)の旧校舎を睨みつけるようにして見上げていた。
 その眼差しに宿るのは、冥(くら)い光。ここ一帯を取り巻く空気もそうだが、何かが滞っているような気味悪さがある。明菜を見下ろしている、雲一つない突き抜けるような青い空とは何もかもが正反対だった。
「ここがいわくつきの旧校舎ね」
 無理やり押さえつけ、低くしているような声で、ぼそぼそとそう呟く。
(確かに不気味だわ。あの噂、本当なのかもしれないわね)
 かつて生徒達がいた頃の生き生きとした様子は微塵も感じられないほど、朽ち果てかけている不気味な雰囲気を漂わす旧校舎を見やりながら思う。
 異様な雰囲気に飲み込まれてしまうような錯覚を覚えた明菜の脳裏には、ここに来るまでの経緯が過ぎった。
 
 
©CrowdGate Co.,Ltd All Rights Reserved.
 
| 総合TOP | サイトマップ | プライバシーポリシー | 規約