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クリエイター名 |
千間大樹 |
サンプル
大観衆はただ黙って成り行きを見守っていた。 薪に焚きつけられた火はみるみる内に黒煙を上げ 檻の中にいる二人をいぶし始めた。 檻の中ではブロードとサラが剣を持って対峙している。 「サラ」 唐突にブロードがサラに話しかけてくる。その声はいつもと変わらない 草原で寝転がっている時のように落ち着いていた。 「サラ、俺を…殺せ」 ブロードの黒い瞳がサラをじっと見据えている。 「え? ブロード? 何を…?」 「お前の父親を殺したのは、この俺だ」 一秒か一分か一時間か…。あまりにも曖昧で長く感じられる時間が過ぎた。 サラの頭の整理が追いつかない。 「何で、そんな…急に…こんなところで…こんな時に…」 「ずっと言おうと思っていた。でも言えなかった。 君の笑顔を二度と見られなくなってしまうんじゃないかと思って」 「ブロード…」 「俺を、殺せ。…サラ!」 急に剣を持つ手の力が抜けていくサラ。 「できない…できないよ…そんなこと…ブロード…」 火の粉が舞い上がる。とてつもない熱気に包まれているはずなのに サラは一切熱さを感じなかった。 ただ切なくて切なくて、目から大粒の涙がこぼれ落ちた。 「どちらかがやらなければ、どちらとも死ぬ。君は、生き残ってくれ」 サラは何か言いたいのだが涙で声が詰まって出てこない。 今までの楽しかったことや悲しかったこと。 一緒に笑ったこと泣いたこと。美味しい物を食べたり、川で遊んだり 共に暮らしてきたことが走馬灯のようにサラの頭の中を駆け巡った。 そして、サラはブロードと出会った時のことを思い出した。 大剣を一つ携えて、雨の中ブロードの家に行ったのだ。 父親の仇を討つために。 それがどういう因果か、今ではブロードのことを愛してしまっている。 サラは剣を握り直しゆっくりと剣を構えると切っ先をブロードに向ける。 「ブロード、いつもみたいに、稽古をつけて」
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