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クリエイター名 |
黒川 うみ |
青春小話
彼女は実に楽しげに言った。 「とりあえず、今日は豪華に大きなチキンを使ってみようと思うのよね」 「クリスマスか」 「別にいいじゃん。野菜もたっぷり使うしー」 「あ、そ」 随分と気合いの入ったことだ。 自分の誕生日祝いだというのに、自分で料理を準備するとは。 「ねー、プレゼント忘れてないよね?」 「……毎年恒例の? まだやるのか?」 「やる!」 誕生日の日にはひとつ、なんでも言うことを聞く。 そんな約束をしたのは小学生に上がる前。 諒子の両親が正式に離婚したすぐ後のこと。 同情から出た言葉を彼女は本気にし、以来十年間約束を守り続けている。何でも言うことをきく、と言っても大概大したことではなく、缶ジュースを買ってこいとか翌週に出る雑誌を買ってこいとか、実に他愛のないことだ。 本人のリクエストに応えて後からプレゼントを用意しているようなものだった。 それでも諒子が喜ぶから、ずるずると今まで続いてきたのだが、そろそろ止めてもいい頃合いのような気がする。中学生活もあと一年で終わり、高校生になってまでそんな子供じみたことをし続ける意味が感じられない。 「いーずるー? 今日のお願いは真剣なんだからっ よく聞いてよね!」 「はいはい」 「むー……あのね、同じ高校行こっ」 「……は?」 「だあって、産まれる前から一緒にいるのよ。今更別々の学校行くとかありえないとか思わない?」 「……別に? つーか、俺、二年の終わりの進路調査票、全寮制の男子校って書いたんだけど」 「却下! 却下却下! 今ならいくらでも変更可能! 共学に変更よ!」 「……マジで?」 「大マジ! なに、文句あるの?」 「何で彼氏でもないのに高校まで同じトコ行かなならんの?」 「……じゃあ、彼氏ならいいんだね? 彼氏! 今から彼氏!」 びしい。 「……わかった。幼馴染みのよしみで同じトコ受験してやるから。どこの学校行きたいんだ?」 「へ?」 「高校。行きたいトコあるんじゃないのか?」 「……別に。楽しいジョシコーセーライフが送れればなあって。うん、やっぱり制服は可愛いとこがいいなあ!」 相変わらずノープランで思いつく限りのことを喋り出す幼馴染みに、適当に返事を返しながら出流は思った。自分は一体彼女のどこに惚れてしまったのだろうかと。そして、いつになったら一歩踏み出せるのだろうかと。 なかなかに難しい問題だった。
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