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クリエイター名 |
平山 ハル |
サンプル
※アクション描写。
「レフ!」
それだけで効果は十分だった。大柄な体躯が背中に当たるのが分かると同時に、悲鳴と絶叫が生まれた。 とくりと背中を通して、聞こえるはずのない懐かしい鼓動と息遣いが伝わる。 裏切ったくせに。 その暖かさに一瞬、涙腺がゆるむ。唇がつりあがるのが止まらない。 足元を見ると神殿の白い床に血しぶきが広がっていた。 彼の大きな背がとん、と一回エノアの背にあたる。 戦場でしか使わなかった合図だった。 体にしっかりとしみついたこれ以上ないほど、慣れ親しんだ合図だ。 残り六振りの短刀を両手にしっかと掴む。 ざり、と音を立てて彼が動きを止める。
今だ!
振り向くと同時に彼の体が沈んだ。その先に開けた視界へ、勢いよく短刀を投げつけた。 全部で六振りの短刀は全て、襲撃者たちの手や足、あるいは顔に突き刺さった。 悲鳴と断末魔が数秒、部屋に響き渡って、絶えた。 室内は再び、耳に痛いほどの静寂に支配される。 そしてうずくまるように体を沈めていたレフが立ち上がった。 その顔は自分と同じ苦渋に彩られていた。それに苦笑いで返してエノアはもう一度、再会の言葉を呟いた。
「久しぶりだな。レフ・セバスタ」
彼は渋い顔のままだった。
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