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クリエイター名 |
水綺 浬 |
サンプル2---恋愛もの+ほんわか?
サンプル2---恋愛もの+ほんわか?
琥珀色に染まって夕刻を告げる学校。その通学路から離れたところに、街の隠れたシンボルになっている並木道があった。 瑞々しい新緑の葉がしずくを乗せて頭上でゆらゆらと光と戯れている。雨上がりの空はどこまでも遠く、清々しい空気が車の排気ガスでさえ浄化してるようだった。 水たまりを避けながら道行く人はまばらで、夕刻だと思えない静けさだ。 そんな並木道に二人の制服姿。初々しさが少し残る顔は子供とは言えず、大人とも言えない中間点。近くの高校の制服を着た二人。さらりと流れる風が振り返る。
「……でね、友達がアイスを食べた時――」 「それに、先生が授業中に――」 彼女から出る言葉は湯水のごとく溢れ出ていく。話題のつきないそれを静かに耳を澄ます彼。 途中、話が切れたとき。はっと彼女の顔色が変わる。先ほどまでとは違い、暗く不安がよぎった。そっと、彼の横顔をうかがい見る。 彼は変わった様子もなく、前方を遠く見つめていた。だが、心はどちらに向いているのか分からない。
ふと、彼と視線が交差する。 「どうした?」 いつもと優しい声音。彼女は一瞬笑顔になろうとするが、すぐに顔を沈める。 「う、うん……。一人でしゃべっててごめん。面白くなかった?」 頭二つ分背の高い彼に、自然に上目遣いになる。眉を下げた不安そうな顔が彼の目に映った。 「いや、面白いよ」 ふわりと笑みを送る。 彼女はその柔らかい眼差しに思わず、照れて顔が紅く染まる。 とくん、とお互いの鼓動が共鳴した。
さりげなく彼が手を差し出す。彼女も、体温を確かめあうように触れ、きゅっと繋いだ。 それぞれ同時に笑顔がこぼれる。 ぬくもりと心が交わり融合した瞬間だった。
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