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クリエイター名 |
柚木薫 |
鐘を鳴らす夜
オリジナルノベル冒頭部分 ライトノベル。部ごとの区切りで部ごとに主人公が変わる。
事実のうちに危機に直面するというのはいつもあることだ。 「はぁ…」 俺が子供の頃からいつもそのように感じて今まで生きてきたのだからそれは本当なのだろう、自分の感情として。この際のリーダーやら仲間の意見や第三者の客観的意見なんぞクソ食らえだ。俺にとって危機があれば逃げて、追ってくるならばそこをショートカットしてまで逃げる、それが目の前にあるならば道を別のものにするぐらいだ。 「……少しまずいかな」 何かを成し遂げようとするのは、それは何かに邪魔されているからであって、それは危機であると俺は思う。じゃぁそれを道に転がっている石ころのようにけっとばして遡行に落としちまえばそれで終わりだ。目の前に直面され、立ちふさがれているならば、それは…。
殺す理由は、十分に。
何かあるなら、自分で排除する。
殺さねば誰かが殺し、俺が殺し、そして俺の魂が殺す。
いつしか俺の思想はそう変った気がする。 「手ぬぐいはどにいれたっけ…」 自分の人生の生すらを脅かすならばそれを切り取って何が悪い。ましてそれを脅かす側である俺は常に脅かされ、脅され、いつも先が見えないマラソンを永遠やらされている感じでしたがない。でもそれもいい。もういい。 「そんなことはもう感じなくなったからな」 そう呟きながら、自分の刀についた血を手ぬぐいでふき取る。自分の背丈より少し短い、重鎮な鉄と剛粘の塊。 相州の大技物と聞いてるけど名前は無名だとリーダーに聞いた。つばに最後に手ぬぐいを回し、チンっ、っと刀を軽く鞘に納めて小型のDWDを出して電源をいれ、部屋の中央から洋館の窓際まできて窓枠に腰を降ろす。 外は『始まる前』から降っていた雨でかなりの雨量を道に流していた。ぶっちゃけこんな日にあまり仕事はしたくないんだけど。 何気なく目の前の窓に息を吹きかけ、遠くの雷雲を見やる。少し長い雨になりそうだなぁ、なんてどうでもいいことを思案気に考える。 そして通話音を聞きながらふいっと部屋の中央に目を移した。
腹から中身を出し、首を一回で斬られた女性の死体がころがっていた。
服装は身体に密着するような黒い全身スーツで最近東ヨーロッパで台頭してきた量子式の軍用スーツであることだし、その胴体から離れている頭は長い髪で美人ともいえる顔で凡庸とした無表情の上に大量の血がかかっている。 終わってからまだ十分だが、そろそろ出た内臓が腐り始めてきたのか少しの悪臭に俺は顔をしかめた。 『よう、大将。終わったかい? 』 通話が繋がると同時に相手の確認もしやしない、冷静に気取った口調の青年の声が聞こえてきた。 「ああ。早瀬の『複製』は殺した。しかし素体ってのはこんなに臭いのか? とっとと移動したい」 そういうとくっくっく、と何がそんに可笑しいのか、リーダーは笑いながら俺の言葉を受け止める。俺は部屋の出口からネズミが気やしないかどうか確認しながら、下の住宅街を傘をさして歩いている高校生の群れに目をやる。 『いや、どれもおんなじだよ。今こっちも例のくだらないバカ騒ぎの後始末で人手が足らなくてね。君の希望通りにすぐに言ってもらうよ。ところで早瀬の複製は何を使っていた? 』 「四剣」 俺がすぐに答えるとリーダーは黙る。こいつの考えていることは七年の付き合いでも時々わからない。策でも練ってるのか、それとも隠してるのかは俺には判別できない。俺は中央に転がっている四本の西洋風の剣を見て、 「ここまでコピーできるものなのか? 今のメスリじゃ、記憶の置換までやってるって話だし」 あっちのほうが命の危険という意味ではここを軽く上回ってているだろう。くだらない抗争と政治思想の弾圧でそのへんの商売までが全地に行き渡ってるらしいが。日本にもカザンタ州難民が数千人規模でキャンプを張ってるくらいだ。 『どれもおんなじ、と言ったけどね』 ふんといって俺は窓枠から離れる。 『今度はそんな大層な相手じゃないから君を退屈させるだろうけど、まぁ移動はできるよ。それで今君はどこに所属している?』 「東京のほうはだいたい終わらせたからその後、瀬戸内に。今は神奈川の神奈川区にある南西支局の東南作戦、」 『いや、そっちの所属ではなくてね』 また可笑しそうに笑いながら俺の話を遮る。それに俺は舌打ちをして、まだ死体に近づき握っている剣を無造作に拾って腰に挿す。 「県立第二平翔高校」 もう一方の片手からも剣を奪って、目の前の内臓に目をしかめる。後二本は俺に投げてきたから壁にあるか。 『そう、まだあんな陰気なところにいたのか』 「リーダーが送ったんだろうが」 奥の鏡台に刺さった剣を引き抜き、 『でもあらら、ちょうどいい。なんと今度のお仕事はそこなんですよ』 …ですよってなんだよ。少し無視しながら部屋をまたいで四本目の剣を回収する。ばたつかないようにベルトでまとめて背中にかけた。 『今度は君のクラスメイト、って言うほどでもないけど、そこにいる女性をお願いしたい』 ………。 「まさか、あいつか。でもあついは全然無害ということで、」 『上の連中がうるさくて。素体に害も無害もないだろうとお怒り。というかとらわれている本人さんが危険らしくてね。決断させられっちゃったよ』 物凄いわざとらしい言い方に、イラっときたのでこのまま電話を切ろうか迷ったが一応聞いておくことにした。 「一般人だろ。何か裏があるんだろうが」 『目ざといね。でもそこの光天の四剣よりもなんと驚き、上をいくんだろう、ていう話だけど。まさか彼女のこと好きになっちゃ、』 「黙れ」 怖い怖い、と悲しそうな声をだして 『でも直々の本局の命令だからね。私も断れなくて』 「断らなかった、だろ?」 『……』 「何を企んでる?」 『まぁ……、せいぜい頑張ってくれ』 俺はそこでDWDを思いっきり折り曲げて後ろにほうった。 いつもからして決断なんていうものはまったくない。それが俺の主体であり、本心だ。悪のようで正義ずらするのはいい加減飽きてきたが、それもわからなくなってきた。 だけど。こんなに気が進まないのはどういうことだろうか。 「……傘持ってくるの忘れちまった」 そう俺は外の雨をみて舌打ちをした。 無害であれば無害である。
そこに惚れたのも事実だろう。
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