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クリエイター名 |
桜花 |
【簡易小説サンプル】偽りの楽園
ふわっと風が色鮮やかな花びらを舞い上がらせる。 それと同時に後ろに流してるだけの髪も花びらと踊った。 一面、色とりどりの花々で彩られた大地。 まるで花の海に居るような……。 否、花一面敷き詰められた水面の上に立っているかのようだ。 肩にかけたショールを引き寄せる。 寒いからではなく。飛ばされそうだからでもなく。 それは無意識に近い行動だった。 「あの子は……、どんな思いであの光景を見ていたのしかしら?」 応える者は無いのに問いかけてしまうのは昔の癖か……。 あの頃は、自分の半身とも呼ばれる若者が居た。 常に自分に寄り添い、助けてくれた若者が……。 「ふふ……、そうだったわね……」 苦笑いと共にぽつりと呟く。 ざぁぁぁぁっと風が吹く、そんな自身を労わるかのように。 ここは、あそことは違う。誰も居ない自分だけの楽園。 とても、とても寂しい自分だけの楽園。 「約束を……、破ってしまったわね」 呟いて思い出すのは、幼い義理の娘の顔。 泣き出しそうな顔で「絶対に生きて帰って来て」と縋った。 普段は弱さ等見せず、強気な態度をとっていた娘が縋ったのだ。 何がなんでも叶えようと思った。叶えてあげたかった。 我侭を言わない子だから、滅多に本心を出さない子だから。 だから……、約束した。 「無事に帰って来れたら、皆でピクニックに行こう」と。 絶対に生きて帰って、皆で楽しい一時を過ごすのだと自分に言い聞かせた。 でも、結果は散々たるもの……。 誰が好き好んで争いを望むだろう? 誰が好き好んで死を望むだろう? ただ、守りたかっただけなのに……。大切な人をこの手で……。 足元を覆っている花々に目を向ける。 あの場所とは真逆なこの場所。 あそこは敵の攻撃で廃墟となったのだろう。 大切な者と過ごした、大切な場所は……。 ここと同じ瑞々しく美しい花々は、醜い色にその身を汚され枯れ果てているのだろうか? きらきらと光を反射していた泉は、禍々しい色を纏い、忌々しい悪臭を放っているのだろうか? 誰から仕掛けた戦かは覚えていない。知らない。 ただ、守りたい人がいる場所を守る為に戦って居ただけなのだから……。 「ごめんね……」 聞こえないだろうと思っていても謝らずには居られなった。 「約束……、守れなくてごめんね……」 雨が降れば良いのに。と思った。雨が降れば、誤魔化せるから。 それでも空は青くて、太陽が眩しくて、雨が降る気配なんて無い。 ここには、なんの変化も起こらないのだ。 ここは自身の記憶の底。もっとも輝いていた時の思い出。 登場人物は無く、ただ一面同じ景色が続く思い出の場所。 ああ……、これが約束を守れず逝ってしまった私への罰か……。 願わくば、愛しいあの子が安らかに暮らせるよう。 見上げた空は青くて、頬を伝った雫がやけに冷たく感じた。
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