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クリエイター名 |
桜井小春 |
サンプル
:: Your song ::
あなたは夜空を舞う
漆黒の鳥。
翼も尾羽も嘴も
数々の夜を集めたような
艶やかな黒。
あなたは新月の夜しか空を飛ばない。
己の姿を忌み嫌い
真の闇の中だけを選び
飛ぶ。
私たちは不安になる。
あなたが
闇の中に溶けてしまうのではないかと。
あなたが
いつの間にか消えてしまうのではないかと。
あなたは
ずっと
ずっと
己の黒を己から剥がそうとしていましたね。
ある時は
その身を木の幹に叩き付け
ある時は
その身をいばらの中に投じ
ある時は
己の嘴で己をつつき
過去
誰かがあなたをこう言った。
「それごらん。
いやしいカラスが
飛んでいるよ」
あなたは傷ついてしまった。
それ以来
あなたはあなたを傷つけることを
覚えてしまった。
まるで
何かを償うように。
あなたに罪などないのに。
私たちは
あなたに腕を差し伸べることはできません。
己の世界に根を伸ばし
そっと言語を囁くだけの
森の木々でしかないから。
でも
私たちは知っている。
あなたはカラスなどではないことを。
あなたは歌う。
美しい
美しい
ひばりも羨むような
声
で。
あなたは
そう
名のついていない
あなた
という名の
鳥なのです。
いつか
どうか
あの青の下を
光溢れる青空の下を
その傷が癒えてからでいい。
飛んでみて下さい。
あなたは見ることでしょう。
青の世界を照り返し
瑠璃色に煌く己の姿を。
私たちは
喜びに枝々を揺らすことでしょう。
いつかの誰かも言うことでしょう。
「それごらん。
幸福の青い鳥が
飛んでいるよ」
もう
その身を叩き付ける木の幹も
その身を切り裂くいばらも
そして
その身をつつく嘴も
必要ありません。
あなたの嘴は
そう
あなたの歌を歌うためのもの。
さあ
まばゆい太陽のもと
力強く羽ばたきながら
高らかに
高らかに
歌を。
あなたの歌を。
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