|
クリエイター名 |
涼木 洋 |
サンプル
これは僕の初恋のお話。 彼女の名前は、そうだな、仮名・ファーストラヴ。 今となっては何も思い出すことができない。いくつ記憶の糸を手繰り寄せようとも決して なにも出てこない。何度引こうとも、その糸の先にはなにもついていない。そんな縁日のく じ引き的な不毛で虚しいストラグルを一日続けてようやく掘りあげた彼女の記憶。
きっかけは確か、当時流行った映画。彼女のことが気になっていた僕は、お互いが『リア リティバイツ』という映画が好きだと意気投合したときにうれしくて飛び上がる気持ちだっ た。なにか、わくわくと新しい出来事を期待していた。彼女がその映画の最後に流れる曲が 好きだと言ったので、僕はサウンドトラックを貸してあげると約束した。本当は『リアリ ティバイツ』のサウンドトラックなんて持っていなかった。放課後、レコード店に急ぎ、誰 にも見られないようにして『リアリティバイツ』のサウンドトラックを購入し、その夜、何 度も何度も聴いた。次の日、早めに登校し、教室の彼女の机にサントラを忍ばせておいた。
数日後、彼女がサントラを僕に返してきた。手渡すときに彼女が笑いながら言った。
「ねえ、君ってA型でしょう」 「そうだけど、どうして?」 「だってこのサントラ見ればわかるよ。まるで新品みたいに傷ひとつないもの。すごく神経 質な人の持ち物だって思った」 彼女は最後ににっこりと笑顔を見せてから「ありがとう」と付け加えた。僕の浅はかな行 動を全部見透かされたような感じがして、僕の心臓はドキドキ高鳴り、顔は赤みを帯びた。
帰宅後、僕がそのサントラのジャケットを開くと紙切れがひらりと落ちた。その紙には週 末のデートのお誘いの旨が書き込まれていた。
|
|
|
|