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クリエイター名 |
紅白達磨 |
サンプル
重厚にして壮麗。処女雪を思わせる白色の城壁、城の四方に聳え立つ塔は天を突かんばかりである。周囲には清冽な湖が広がり、その水面では艶やかな姿をもつ人魚(マーメイド)たちの姿が見て取れる。鳥人たちが飛び交う上空では蒼穹の空に赤、黄、紫、緑、その他の多彩な色が交じり合い、時折、日の光で白銀に輝く城壁へ、小さないたずら雲が陰を落とし去っていく。それでも、この城の美しさは少しも損なわれることはない。 人はこの世界を、天界、と呼ぶ。 そしてこの城の名はパレスティア城。 謁見の間へ続く廊下。長い長い、その薄暗い廊下を一人の男が足早に進んでいた。 石畳の床と同じく、その両側の壁には石造りの灯籠が据えられている。 昼間だというのに灯された灯籠によって閉じられた空間は明茶色(ベージュ)に染められ、闇の中では規則的に配置された灯がゆらゆらと進むものを誘うように艶美に揺れている。カツッカツッという足音が灯を更に揺らすように流れては、震え、消えていく。 男の足が大股で石畳の床を踏み蹴っていくと、やがて赤暗い闇の先にひっそりと佇むひとつの扉が姿を現す。 男は止まることなく突き進み、その扉を左右に弾く様に開け放った。 「殿下!殿下はいずこにおわす!」 暗闇から一転、陽の光が視界を覆った。 高く開かれた天井へと声が吸い込まれる。 分厚く大きな扉が開かれた先には、大理石の床の上を濃い赤い絨毯が玉座へと真っ直ぐに伸びていた。その両脇には整然と立ち誇る八つの柱が並び、視線を左右に走らせれば水晶のごとく磨き上げられたい幾つもの大窓、その外枠の壁に嵌め込まれた金糸の細工が微かな光を受けて、紋様を画き浮かび上がっている。ステンドグラスを通って差し込む光は色鮮やかな虹色となり、大窓からの光と相成って、柱の影を赤い絨毯へと伸ばしている。 その四つ目の影を踏み越えて、男は立ち止まった。 巨躯の肉体、群青色の肌、閉じられてはいるもののその背中には二翼の翼、頭には前から後ろへと捻じ曲がり伸びている角があり、そのどれもが人間でないことを表している。 彼はこの城の主に長年仕えている者の一人で、今では宰相の地位を与えられている。 普段は温厚として知られているが、今の男の表情にはその欠片すら見られない。 「そこの者、殿下を見なかったか!?」 端で雑巾を片手に、窓を拭いていた一人のメイドが顔を上げた。 「殿下なら先ほど下界に行かれましたが」 その瞬間、宰相の中で何かが切れた。その頭に次々と青筋が浮かび上がる。 「…………………………あ」 ふるふると握った拳を震わせながら、あらん限りの声で宰相は絶叫した。 「あんのバカ王子ぃぃぃぃ――――!!」
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